体長 25mm(これまで観たなかのMAXサイズ)
ワレカラの仲間もまた甲殻類に含まれるグループなのだけど、同じ甲殻類でもエビやカニたちとはかなりかけ離れた方向に進んだ変態的な生き物たちだ。
ひと口に「ワレカラの仲間」といってもその種類は数多く、日本で分類学的に確認されているものだけで100種類を超えるというから驚く。
これまで私が撮ってきたものだけでも…
↑カビが生えたようなものや…
↑子泣き爺が着ている蓑のように藻(?)が生えているもの…
↑ボウフラのようにも見えなくもない赤いもの…
↑黒いもの(お腹が膨れているのは、卵を抱えているからです)…
↑のっぺりしたもの…
↑背中にビシャモンエビのような戦闘的なトゲがあるもの…
…という具合にいろいろいて、これらはすべて同じ種類かもしれないし、違うかもしれない。
だからといってワレカラたちを種ごとに区別しようとしたら、おそらく私は残りの一生をすべて費やさなければならなくなるだろう。
名前の語尾に「星人」とつけてもしっくりくるようなワレカラ、それを種の特定ができるくらいに研究している人たちがいるのだから、アカデミズムの分野で日夜ワレカラに携わっておられるみなさんも、きっと筋金入りの変態に違いない(※尊称です)。
ヘンタイ生物とはいえ、「ワレカラ」という和語の名前自体は意外にも相当古くからあって、新古今和歌集などの和歌や数々の俳句のほか、「枕草子」のなかでは清少納言お気に入りの「虫」のなかに含まれていたり(「虫は、鈴虫、ひぐらし、てふ、松虫、きりぎりす、はたおり、われから、ひをむし、蛍。」)、近代では樋口一葉が「われから」というタイトルの小説を書いているという(ウィキペディア情報です)。
名称は同じでも、清少納言がいう「きりぎりす」は当時はコオロギのことをそう呼んでいたように、古語ではその対象が現在と異なることもよくある。
となると、「われから」も別の生き物のことなのでは?
…と思いきやさにあらず。和歌などでも古くから海藻についている様子を述べていることからして、現在ワレカラと呼んでいる生き物たちと同じものと思っていいらしい。
昔の日本人のほうがよほど変態的だったのだろうか。
実は海藻について暮らしているものが多いワレカラたちは、昔の日本ではしばしば汁もののなかに海藻と一緒に入っていたそうで、病的な衛生管理社会の現代ニッポン人に比べれば、よほど昔の人たちのほうがワレカラを身近に感じていたのだ。
さてそのワレカラたち、あいにく一般ダイバーで「是非観たい!」なんてヒトは稀だけど、水納島の場合冒頭の写真のタイプなら、まだ水温が低めで海底の小岩にガヤ類がワシャっと繁っている頃なら、労せず見つけることができる。
それも1匹2匹ではなく、かなり多くの個体がウジャウジャと(PCでご覧の場合は、下の写真をクリックすると大きな画像になります)。
ガヤにいたヒオドシユビウミウシを撮ったつもりでいたところ、写真を後刻PC画面で見てみたら、ワレカラがたくさんいたので撮った本人もビックリした…。
いくら目の前にいても、小さく透明に近い生き物となるとクラシカルアイでは認識できないかもしれないけれど、じっくり観てみるとその動きはなかなか面白く、体の末尾付近にある3対の短い脚を起点にしつつ…
まるでシャクトリムシのような動きで背を丸めては、ピコピコ這い進む。
そのボディはほとんど透明にしか見えないようでいて、わりと色素が散りばめられている。
なかには↓このように、カスリヘビギンポを思わせるような色味をしているものもいる。
ワレカラのフォルムを特徴づけているものはといえば、細長い体に長い触角、そしてなんといってもカマキリのような鎌(咬脚)。
左右に大きく広げ、仁王立ちしている姿を大きな写真で見れば、かなりの迫力だ。
この鎌を使って、獲物をがっちりゲットしているのだろうか…
…と思いきや、ワレカラたちは海藻やデトリタス食なのだとか。
↓この写真は、ワレカラが何かを捕えて食べているように見えていたんだけど…
捕えたわけではなく、何かの切れ端を掴んでいるだけだったのだろうか。
ガヤにたくさんまとわりつくタイプのワレカラたちがそこで何をしているのかは不明ながら、先ほどのようにウミウシが襲来すると、えらいこっちゃ!の騒ぎになっている気配がある。
ウミウシはガヤの刺胞を食べているはずだから、ワレカラが獲物になることはないだろうし、もちろんワレカラがウミウシをどうこうするわけでもないはず。
それなのに、まるでウミウシの進路を阻むように立ちはだかったりする。
そしてムシャムシャとガヤを食べながら進撃するウミウシに、ワレカラは…
…ケンカを売っている?
と思ったら、ガヤの枝の先まで追いやられていただけだったらしく、ムシャムシャ食べ続けるウミウシに乗っかって
…そのままスタコラ退散した。
ちなみに以上の一連の写真も、撮っているときはあくまでもヒオドシユビウミウシしか見えていなくて、あとでPC画面で見て知ったものだったりする。
仁王立ちした姿は勇ましくとも、ウミウシ相手に退散せざるを得ない立場にいるワレカラたちながら、ときに意外な一面を見せてくれる。
モコモコフワフワのマフラーをしているように見えるこのワレカラ、実はこれ、赤ちゃんワレカラがママにまとわりついているのだ。
お腹の保育嚢で孵化したチビチビワレカラたちは、2週間ほどこのようにママにまとわりついたままになるらしい。
すなわち、ワレカラは子育てするのである。
しかも乳離れ(?)したあとも親元近くに群がっていて、危険を感じると再びママに寄り添うのだとか(観たことはないです)。
幼児虐待が社会問題化して久しい現在、どう考えても加害者は一個の生命体として、犬畜生よりも劣ると常々思っていた。
それに比べてワレカラたちは、なりはエイリアンなみながらも、よっぽどヒューマニズム溢れる生き物ではないか。
幼児の生命を殺めるヒト科ヒト属の生物など、犬畜生どころかワレカラにすら劣るということなのだろう。
※先に紹介しているウミグモの仲間たちも孵化したチビチビを保育するそうなのだけど、卵保育も子育てもすべてオスの仕事だそうな。