23・車えびムキムキ大会

 この日から二晩、Yさん邸でお世話になる。
 石垣のYさんについては、過去に何度も触れているので、誰々?Yさんて??Yさん邸って??って方は
こちらをご覧ください。

 で、今宵はふくみみ一家もYさん邸まで飲みに来るということになっていたので、我々はふくみみ家を夕刻に辞し、一足早くYさん邸へ。

 快く歓待してくださるお二人。
 我々はお二人の静かな生活をかき乱す台風になってしまうようで、なんだか申し訳ない。
 申し訳ないといいつつ、例によって遠慮なく飲めや食えや状態になってしまう我々なのだった。

 さっそく飲むモードに突入しているうちの奥さんは、お久しぶりの挨拶もそこそこに、手土産代わりに持ってきた活車えびの仕込みに取り掛かり始めた。

 今宵の晩餐は、Yさん自ら川平の海でゲットされた海の幸をはじめとするお寿司がメイン♪
 そこに車えびも加われば、向かうところ敵無しの超豪華なテーブルになるのは間違いない。

 Yさんご夫妻、そしてうちの奥さんの手によって、そんな至宝のメニューが着々と準備されていくなか、1人お言葉に甘えてビールなど飲みつつ肴をつまんでいる頃、ふくみみ一家も到着。

 実はうちの奥さんは、足りない頭で一計を案じていた。
 このえびムキムキ、ふくみみ家長男ユイマルなら絶対に楽しむに違いない!

 そこで、彼に半分くらいムキムキを手伝ってもらおう♪

 と言っていたはずなのに、いつの間にやら大量に剥きすぎてしまっていたのだった。
 でも、是非活車えびを自分で刺身にしたものを食べさせてあげたい。

 というわけで、車えびムキムキ大会〜ッ!!

 まずはそぉ〜っと箱を開けてみる。

 興味津々の子供たち(母ちゃんも?)。

 ユイマル、生きてるえび持てるか??

 さっすがぁ!!
 昨夏水納島に遊びに来たときも、彼は素潜りでヒョイヒョイとシャゴウガイを獲ってたくらいだし、話によると釣りも得意らしい。
 石垣の山奥でワイルドに育っているのも伊達ではない。

 彼くらいになると、「エビ」というものがどういう動きをする生き物かということは、だいたい見当がつくようになっているはず。
 しかし幼少の他の2人は、まるでエイリアンに初めて出会った、宇宙船ノストロモ号の乗組員たちの心境だったに違いない。

 エビたちは保冷材が効いて低温状態ならジッとしているけれど、箱を開けて室温で温められると、だんだん活発になってくる。

 するともちろん………

 ピシャッ!!
 ピチピチピチッ!!

 活きがいいエビちゃんたち、跳ねる跳ねる。
 それを目にしてしまった3男モトヤは、卵から孵化したエイリアンが顔についてしまった乗組員なみの衝撃を受けていた。

 が、そこは好奇心で一杯の子供たち。
 なんだかコワイけど見てみたい……と、恐る恐る覗き見る。

 ん?触れそうかな??
 でもやっぱりエビちゃん、ピチッピチッ!!

 やっぱコワイ〜〜!!
 思わず手を引っ込めるモトヤ。
 が。

 「大丈夫だよぉ、怖くないよぉ…」

 と言いつつ、彼の手を無理無理つかんでエビに触らせようとする鬼母のりだー。

 ト…トラウマになっちゃいませんか??

 そんな心配は無用だった。

 コワイけど見たい、見たいけどコワイ、コワイけどひょっとしたら触れるかも??

 という彼の好奇心をうまく刺激する鬼母(?)のりだーによって、いつしかモトヤにとってのエビちゃんは、けっして怖くない生き物になっていったのだった。


母:「ほ〜らほら、エビさんだよぉ〜〜!」
息子:「ギャーッ!!」<すでに喜んでる
父:「(ボカぁ、シアワセだなぁ…)」

 一方、昼間はハブの死体をものともせずつかんでいたツムグも、当初はかなり及び腰だった。
 すなわち彼も正しい野生児なのである。
 正体不明、意味不明なものを、やたらめったら触らない。
 君子危うきに近寄らず。自然界で生き残る知恵だ。

 でもそこは野生児、やがて彼もエビの実力のほどがわかってきたらしく、だんだんエビちゃんに慣れてきた。

 ツムグもエビちゃん持ってみ!!

 おおーッ!!持てたッ!!
 さすが野生児!!

 彼らにエビの持ち方なんて一言も教えていない。
 にもかかわらず、まるで養殖場の熟練スタッフのような完璧な持ち方。
 普段の生活のなかで、生き物のどこをどのように持てばいいか、ということを体得していることの証だ。

 長男ユイマルには難易度の高い作業が待っていた。
 さあユイマル、生きている車えびを刺身にしてみよう!!
 ミッション:シュリンポッシブル♪

 うちの奥さんのレクチャーが始まった。
 まずは、エビちゃんの頭部と尻尾を切り離しましょう。

 できたぁ〜!

 では、尻尾の皮をムキムキしましょう。

 剥ききったら、今度は背ワタを取り除きましょう。


オタマサ:「こうやると簡単だよ。」

 うちの奥さんの説明に真剣に耳を傾けるユイマルを、真剣に見守る母・のりだー。
 彼女のこんな真剣なマナザシを、ワタクシ初めて見ました……。

 そしてついに、ユイマル作お刺身完成!!
 実食!!

 いかがですか、お味は??

 「美味しいぃ〜〜♪」

 車えびもエビ冥利に尽きることだろう。

 というかユイマル、昨夜君がITALICOに居てくれさえすれば、おっちゃんはグラスを割ったりせずに済んだのに………。<まだ引きずっている。

 ところで。
 これをお読みいただいている方のなかには、

 「生きているエビをさばくなんて絶対ムリッ!!」

 というヒトが少なからずいらっしゃるのかもしれない。
 それについてYさんの奥様ヒサコさんが、実体験とともにとても興味深い話をしてくださった。

 こうして田舎で暮らしている人たちならともかく、都会暮らしのヒトの中には、どんなに貴重で高価な車えびをいただいても、どうにも手がつけられずに困っている方もいるんじゃないだろうか、と。

 なるほど、たしかに我々なんて、美味しいもののためならタコは獲ってくるわアカジンは突いてくるわアヒルは潰すわ………ってことがまったくもって平気。

 だけど一般的には、タコといえば刺身になった状態で売られているし、アカジンは居酒屋で2、3切れくらいしか食べられないし、アヒルやニワトリもすでに「肉」になっているものしか目にしない。

 エビだってもちろんそうだろう。
 そんなフツーの生活をなさっている方のところへ、箱を開けてしばらくするとビチビチ威勢良く跳ね回る車えびが大量に届いたら………。

 いい大人が、ツムグやモトヤと同じ反応をしてもおかしくはない。

 そういえば、(株)エポック石垣島のウェブサイトにも、「活車えびが届いたんですけど、どうしたらいいんでしょうか?」という問い合わせが、回答とともに紹介されていたのを見たことがある。

 今の世の中、どちらかというとそういう人たちが増えていく傾向にあるのは言うを俟たない。

 食の安全が取り沙汰されるようになって久しいけれど、そのわりには自らの手は汚したくないという人のほうが多い。
 結局のところ

 「命をいただいて生きていく」

 という、一個の生物としてこの地球上で生きていくうえでの宿命を、ひとつの「業」として覚悟する感覚が、今の便利すぎる世の中では育ちようがないってことなのだろう。

 身の周りにハエ一匹いるだけでうろたえる人が多い今の日本のありようからすると、それこそインポッシブルな話ということになりそうだ。