24・吉原日曜市

 刺身や握り寿司、そしてのりだー自作の品々など盛りだくさんの宴は、車えびで遊んで(?)食って飲んで、瞬く間に時が過ぎていった。

 いろいろと話をしたはずなのだが、なぜか最も鮮明に残っている記憶が、

 「フランダースの犬」の映画版では、ネロは最後に死なない。

 という話なのはなぜ?
 ま、たしかにきわめて衝撃的な話ではあったけど……。

 どういうわけか久しぶりに会う人々と飲むと、会う前にあれも言おうこれも訊こうといろいろ考えていた肝心なことはいっさい話せず、しょっちゅう会っている人と話すようなどーでもいいことを、あーだこーだ言って終わってしまう。

 ふくみみ夫婦には、昨秋のおにぎり取材の件で世話になったお礼を言おうと思ってたのになぁ。

 まぁ酔っ払いとはそんなものか……。

 宴から一夜明けた11日は、前日に引き続き北風ピープー吹く日曜日。
 今年で3年連続の石垣島訪問ながら、日曜日にゆっくりできるのは初めてだ。

 なにしろ、マラソン大会は日曜日だから。

 楽しみにしていたYさん特製おいしいコーヒーをいただきながら過ごした朝は、これまでは話に聞くことしかできなかった、日曜日ならではのイベントにお邪魔することにした。

 そのイベントとは……

 吉原日曜市!

 吉原地区の公民館で毎週日曜日に開催されている朝市だ。
 地区ごとにある公民館がその地区の自治会的中心になるそうで、水納島で言うところの「班」のようなもの。

 だから水納班班長にあたるのが吉原公民館館長、ということになる。

 その公民館を中心とする地区の活動の一環が、この朝市らしい。
 正しくは朝市ではなく日曜市なんだけど、オープンと同時に売り切れが続出してしまうから、事実上の朝市なのだ。

 なんでオープンと同時に売り切れちゃうのかと思ったら、訪れてみてすぐさま理由がわかった。
 朝市目当てのみなさんが、まるでパチンコ屋の開店を待っている客のように、列を成して開場を待っているのだ。

 しかも並んでいるのは、近隣の住民のみなさんだけではない。
 けっこう遠いところから、この朝のほんのひとときだけで終わってしまう日曜市にお越しになる方もいらっしゃれば、ウワサを聞きつけて、観光のついでに訪れているっぽい人たちもいた。

 そんな列に並んで待つことしばし。
 オープンすると、公民館は一気に市場の賑わいとなった。

 人の流れを考慮して、2箇所に設けられたお会計場には、ヒサコさんの姿が。

 そう、彼女はお客さん側ではなくて主催者側なのである。
 すっかり地域の人になっているところが素晴らしい。

 ご本人も、庭で育てているハンダマ(水前寺菜)を、きれいに洗って葉っぱ一枚一枚を丁寧に並べて袋詰めにしたものを、毎回2袋この朝市に出品されている。
 お値段一袋100円。
 もちろん毎回売り切れて、都合200円の売り上げ。

 地元のおばあが心配げにヒサコさんに訊ねてくるそうだ。

 「あなた、一週間200円で生活大丈夫ねぇ?」

 家にいるときはのんびりしているYさんは、どうやら働いてないとみなされているらしい………。

 この朝市には、野菜だけではなく海の幸も出品されている。
 Yさんの石垣における海の師匠でもあるトシオさんが、自ら獲ってきたコブシメやタコ、そして様々な魚たちだ。

 彼はYさん邸のお隣さんで、ご本業は我々と同じダイビングサービス。
 もともと糸満出身の方で、電灯潜りもお手の物だ。
 石垣に越してきてからのYさんは、夜な夜な海に繰り出すトシオさんに、いろいろと貴重なアドバイスをいただいているのだという。

 つまり!!
 我々がYさん邸を訪れるたびにご馳走になっているあの魚もこの魚もそしてあのアオリイカも、元をただせばトシオさんのおかげなのであった。

 そんなトシオさんの海の幸も、付近住民が手塩にかけて育てた野菜たちも、え??と驚くほどの安さかつ質の良さで、開店前にあれだけ人が並ぶのも当然。
 各商品の前には、ちゃんと生産者の名前が表示されている。

 そんな野菜たちを、フムフムとチェックするマサエ農園。

 やけに小さな大根を見て、勝ち誇っていたマサエ農園なのだが、それもそのはず。
 今年の沖縄は雨ばかりで、ことに八重山地方は、ちょっと前に水不足で騒いでいたのはなんだったの?ってくらいの雨続き。
 太陽が出ない日が多すぎて、おまけに雨も多すぎて、とても大根がフツーに育つ環境ではなかったのだ。

 その点水納島の畑はもっぱら砂質成分で水はけがいいからか、たしかに例年よりも育ち方が悪かったものの、立派に育った大根も多かった。

 そんなこんなで賑わいを見せる朝市会場には、あの方の姿も!

 スルドイ方は、上から2番目の写真を見てすぐにお気づきになっていたであろう。2日前の晩お世話になった、川平のじんべいの大将!!(黄色いラインが入った上着を着ている方)
 挨拶すると、

 「撮影ですか??」

 いや、もう完全にプライベートタイムです(笑)。

 川平にこの店ありと謳われた店の大将が、わざわざ日曜の朝に買い付けに来るのである。
 その一事をもってしても、この吉原日曜市の質の高さをうかがい知ることができよう。