E湊文社探訪(3月4日)

 西新宿ホテルでチェックインし、しばし休息を取った我々は、その夕刻、春雨降る中一路飯田橋を目指していた。

 みなさんはアクアネットという雑誌をご存知だろうか。
 水産養殖業界雑誌なので、おそらく当サイト読者の98パーセントくらいの方にとって無縁であろうと思われる。でも、その名を目にしたことはあるはず。
 そう、何を隠そう、文豪オタマサが水納島で暮らす日々のよしなし事を徒然に書いた駄文が連載されている雑誌だ。

 その雑誌を出版している会社が、湊文社。

 さらにいうと、その湊文社社長も、うちの奥さんの連載を担当してくださっている編集者も、僕がその昔都内で勤めていた頃の同僚&上司なのである。
 さらにいうならその上司は、うちの奥さんが勤めていた水族館での上司の後輩でもあるのだった。

 ややこしいが、とにかく昔から縁がある方々なのだということをお分かりいただければそれでいい。
 で、都内におられるのだから、これまでも上京するたびにお会いしていたのかというとそういうわけではなく、すでに連載70回を数えているにも関わらず、一度としてご挨拶に伺ったことがない。
 そういう意味でも、数日間新宿泊になる今回の上京は、またとないチャンスだったのだ。

 そんなわけで、お忙しい中にもかかわらず、我々の予定に合わせてこの日時間を作っていただいた次第である。
 毎月原稿のやり取りをしているとはいえ、実際にお会いするのはかれこれ14年ぶり。僕が会社を去って以来のことだ。
 飯田橋駅から事務所までの道のりがわからない我々を、担当編集者K氏は途中まで迎えに来てくれるというのだけれど、はたしてひと目でわかるだろうか??

 ……わかってしまった。
 この、14年の月日を感じない雰囲気はなぜだろう?

 K氏は、実は雀豪である。
 その昔僕がまだ勤めていた頃の会社で、静かな、それでいて大っぴらなブームだったのが麻雀である。
 職場近くに社員行きつけの雀荘があって、いつの間にか「20年ぶりだなぁ」とかいうオジサンたちも巻き込んでの、一大ムーブメントを作っていたのだ。

 そして、今考えるとそれはそれは福利厚生が豪勢な会社で、社員旅行は毎年海外だった。
 その海外旅行に僕は……………麻雀牌を持ち込んだ。わざわざ東急ハンズで焼き鳥マークまで購入して。

 おかげで、マレーシアはコタキナバルの2泊、そしてクアラルンプールの1泊、合計3拍ともすべて徹マン。2抜けの順番待ちが出るほどの盛況を見せた。もちろん雀荘は僕の部屋。
 結局マレーシアでの思い出は麻雀とオランウータンしかないのだけれど、コタキナバルでは2万円ほど勝っていたのに、ショバが変わった途端にマイナス1万円になってしまったことが今でもクヤシイ…。

 その部屋で同室だったのが、ほかでもない、このK氏なのだ。
 雨が降りしきる飯田橋のドトールコーヒーの前で14年ぶりに会ったK氏は、
 「じゃ、今から雀荘に行こう!」
 と言われてもまったく違和感がないほどに、全然変わりなかったのだった。

 ちなみに。
 こういう場合我々は不利なのである。
 だって、こちらはメチャクチャ久しぶりであっても、当サイトでくだらない日記を毎日毎日書いているおかげで、我々の日常はもとより、これまでに至る日々もすべてご存知だったりする。
 だからK氏も、久しぶりという実感があまりないようだった。

 そんなこんなで、彼の職場へ。

 全国水産養殖業界のみなさん、これが湊文社編集部です!!
 本来はもう1人旧知の女性スタッフもいらっしゃるのだが、あいにくこの日は取材でお出かけ。手土産代わりに持ってきたおからドーナツ、ちゃんと彼女に行き渡ったかどうかが少し気になる……。

 1時間ほどお仕事のお邪魔をしてしまったあと、社長Tさんとはここでお別れ。このあとは、雀豪K氏とともに居酒屋鱗へ。

 飯田橋から新宿経由で京王線。
 しかしその京王線が、人身事故のためにダイヤが乱れ、新宿駅構内はてんやわんや状態になっていた。
 人身事故と聞くと、田舎から出てきた我々夫婦は「すわ一大事!!」ってところなのに、東京の人たちは「にわか雨が降ってきました」程度の関心さえ払わない。ただただ、混んでいるのがウザイというだけのようだ。 

 この人身事故とは、いうまでもなくホームなどでの飛び込み自殺で、そのためにダイヤが一時的に乱れるのだけれど、もう日常茶飯事すぎてニュースにもならない。
 たしかに、話題にすればするほど模倣者が続出してしまうという問題もあるだろう。でも、このあまりにも淡々とした人々の雰囲気って、ある意味異常なのではないのか??

 人が電車に飛び込んで死んでるんですぜ。
 飛び込みに限らず、自殺者が年間3万人を越えているんですぜ。

 この調子だと、4万人を越える日もそう遠くないように思われる……。

 フレックス出勤の雀豪K氏は都内に勤めていながらも満員電車とは無縁の人なので、このよもやの混雑に命すら危ぶまれたものの、明大前で乗り換えた井の頭線は別世界だった。
 止まる駅が少ないと、乗る人も少ないということか?
 なんとなくだけど、この井の頭沿線で飛び込み自殺する人は居ないだろうと思った。実際どうです??

 そして、鱗。
 なんだかんだいいながら、お店の営業時間にお邪魔するのは僕は初めてなのだ。だから、K氏を招くというよりも僕もお邪魔するという立場なのだが、そこに…………

 またしてもウロコンがいる!!
 ……これって、一種のストーカーか??

 こうして静かに背中を向けてママと話しているのかと思いきや、突如振り向いては、

 「那覇の漫湖ってさぁ…」

 人がしっぽりと旧交を温めているというのに、いきなり下ネタである。
 幸い、K氏はこのウロコムシ氏が変態的Tバック男であることをご存知なので、その話題を話すウロコムシさんが嬉々としているのも、やはり納得ずくなのであった。

 それにしても、この鱗の肴が美味い!
 日本全国津々浦々での取材で、美味しい肴を味わいつくしているK氏も、「おいしいねぇ!」と絶賛してくれていた。

 雀豪であるK氏は、かつては僕の麻雀の師匠でもあったのだが、最近は、僕の政治経済方面の師匠でもある。
 
湊文社のサイト上にて彼が担当しているコーナーがあるのだけれど、世を憂う彼が書く内容は、僕がおぼろげにモヤヤンと思っていることを、具体的かつ専門的に詳しく解説してくれる。
 それを読むたびに僕は、自分の頭の中のモヤヤンがある程度正しい場合があることを知るわけである。

 ただ、いかんせんそのコーナーはウィークリーといいながら、昨年などはついに1年間更新されなかったほどの、かつての小林まことの連載マンガなみに次を読むまでに時間がかかる。
 読者は僕とともに、それがタイトルどおりウィークリーになることを願い、果ては「ほぼ日刊イトイ新聞」なみに何かの賞を受賞する日が来ることを祈ろう。

 さて、降りかえるたびに下ネタを連発するウロコムシ氏がもたらしてくれたのは、下ネタだけではなかった。秘蔵の梅酒の一升瓶と、そして……

 トトロのシュークリーム!!<メイの声で言いましょう。
 我々のテーブル用にと、人数分用意してくださっていたのだ。
 ただの下ネタ男ではなかった。
 というか、おそらくこれは奥様であるナゾナゾライバルさんのセンスだと思うのだが…………。

 食べてしまうのが惜しいこのトトロ、迷わず食べたら、おいしかったぁ!!