10・福江をさるく・5〜まだお昼前?編〜
福江武家屋敷通りふるさと館は、市街地中心部から見ると武家屋敷通りの一番奥側になる。 なので一般的にはここから再び市街地側に戻るであろうところ、このもう少し先に訪れてみたい場所があった。 武家屋敷通りの端からさほどの距離ではないので、地図を頼りにそのままテケテケ歩いていく。
すると道は、すぐに幹線道路のひとつ、県道149号線に合流。 路地に入ってテケテケ行くと、ほどなく目当ての場所にたどり着いた。 ここ。
岩川とかいて「ゆわかあ」と読む、いにしえからずっと現役の湧水。 頼りにしている観光地図のコメントで、福江島にお住いの方でも知らないヒトの方が多いかも…なんてことが書かれてあったので、どれどれと足を延ばしてみた次第。 掲げられてある説明板によれば、この湧水は、福江島のシンボルでもある火山・鬼岳が吐き出しまくった火山灰が堆積してできた分厚い地層を浸透することによって濾過されまくった、それはそれは良質の水なのだとか。 生活用水としての利用歴はなんと五百有余年を数えるといい、遺構の古さでいうなら、武家屋敷通りの石垣など遠く及ばない。 往時の湧水は、飲料水、衣類の洗濯、野菜の洗い場その他いろいろ、目的に応じて場所を区分けしてたそうで、付近住民にとって格好の井戸端会議の場所となっていたらしい。 上の写真の場所は、今もなお現役の飲料用の施設。
さっそく水にタッチしてみたオタマサによると、気温が低いわりには水温は温かいという。 間近で見てみると、絶えることなく湧き出る泉はあくまでも透明で、人工的に作りだされた蒸留水ではけっして感じることのできない、有機的な美しさに満ち満ちていた。
だからこそだろう、こんな街なかだというのに、水路にはカワニナがたくさんいるし、モクズガニらしきのチビの姿も。
かと思えば、ヨシノボリ系のハゼがたくさん住んでいる。
一方、道路を挟んだ下流側には……
洗濯用のゾーンが設けられてあった。 なんだか、古代ローマ時代の遺構のような趣すらある。 しかしここは、遺構でもなんでもなかった。 掲示されてあるとおり、ここもまた今もなお現役の洗濯場なのである。 ということを知ったのはほかでもない、我々がこの湧水の流れに沿って水路沿いに歩いて行こうとしていたら、自転車でやってきたおばぁがおもむろに自転車を停め荷籠から荷物を取り出すと、この洗濯場に降りてきたのだ。 こういうところ、しかもこの水路を下って行こうという者など普段はいないからなのか、やや不審げに我々を見ていたおばぁが抱えている荷物は、どうやら洗濯のようである。 そしておばぁは、水を汲んで乾いているところに何度かかけ、洗濯の準備を始めたのだった。 できることなら一部始終を見ていたかったところながら、客観的にどう見てもアヤシイ我々がヒトサマの生活の邪魔をするわけにもいかず、挨拶だけしてその場を去ることにした。 いやはや岩川湧水、まさに現役の生活用水なんですなぁ!! ところで。 この岩川湧水に接しているお家から、懐かしくも勇ましい鳴き声が聴こえてきた。 途端に盛り上がるオタマサ。 その正体とはこちら。
軍鶏のようなフォルムのニワトリさんだ。 同じ種類をたくさん飼っておられるようなのだけど、五島地鶏としてもてはやされているシマサザナミとはまったく異なる品種のようだから、おそらくまったくの趣味の世界なのだろう。 水路沿いに下っていくと、柑橘系がたわわに実っていた。
誰の庭でもなさそうなところでたわわに実っていて、熟れ過ぎた実がすでにボトボト下に落ちている。 ってことは、これって「ご自由にお採りください」の木なんだろうか? かつてのユニクロのCMに出ていたような大阪のおばちゃんだったら、迷わず10個くらいバッグに入れて去っていくところだろう。 そのまま進んで、湧水が海に流れ着く先まで行きたかったのだけど、水は暗渠の下を行き、ヒトは先に進めないようになっていた。 なので仕方なく大通りにいったん出て、海辺に行く。 福江港のメインの岸壁からやや離れたこのあたりは、プレジャーボートなども舫われている鄙びたマリーナといった風情の場所。 だから船はたくさんあるのだけれど、こういう場所につきものであるはずのスロープが見当たらない。 スロープというのは、船を陸揚げする際に船台を上げ下げするための斜面のことで、こんだけたくさん船があれば、ひとつやふたつ設けられていてもおかしくはない。 ところが見渡した限りでは、スロープといえば造船工場に設けられてある立派なもののみ。いったいぜんたいこれらの船は、上架が必要な作業をする際どうしているのだろう? …と不思議に思いながら歩いていると、こういうものを見つけた。
あ、なるほど! 潮の満ち干を利用して、干潮時に船が陸揚げされる作戦ですか。 今のように渡久地港のスロープを使ってボートを上架させるすべが無かったかつての我々も、満潮時に島の裏浜にボートを回し、船に丸太を装着させ、潮が引くと干上がる、という作戦で、船底塗料を塗っていたものだった。 その豪華頑丈版というわけだ。
このやり方の場合、作業時間が潮が引いている時間帯に限定されるから、何をやるにしても時間制限つきになるためとってもやっかいなのだ。 これ。
係留されている船の位置ごとに頑丈に設置してあるラダー。
どう見ても統一規格だから、これもまたインフラの範囲内なんでしょうか。 敷地に掲げられてあった担当部署の注意書きによると、この港に船を係留したい場合は、その旨キチンと当該部署に申告し、許可を得てからにしなさいとのこと。 それがあってこその、インフララダーなのだろう。 いやあ、そういう仕事こそが「港湾管理」だよ!! 「揉めないようにお互いで調整してくださいね」 と言うだけでまったく何もしない本部町の港湾管理課も、こういう現場に足を運んでホントの研修をしていただきたいものである。 青空の下、海辺をテケテケ歩いているうちに、いつの間にか外堀公園にたどり着いていた。 ここのヤシもしっかりと青空に向かって伸びている。
ところで、さきほどの松園邸のヤシもそうだったんだけど、沖縄で見慣れているヤシと比べ、何か違和感を覚える。 というのもこのヤシ、幹の真ん中あたりがなんだかモサモサしてるでしょ。 これ、実はシダが宿り木状態になってはびこっているのだ。
ね? このヤシはおそらく「カナリーヤシ」という種類で、温帯域の気候でも育つヤシだ。 南国ムードを漂わせてくれるからだろう、本土の南国ムード系観光地でセッセと植えられているヤシのひとつでもある。
沖縄県でもきっと植えられているのだろうけど、国道その他に植栽されているヤシの品種を気にしたことがなかった。 大きく葉を広げて南国ムードを漂わせつつも、こうしてシダが密生できるということは、五島の気候の穏やかさを表しているということもできる。 そうこうするうちに、早お昼をいただくには頃合いの時間になってきた。 遅い昼食にしてしまうとメインイベントの夜に差し支えるため、お昼はなるべく早めに摂る方針にしている我々は、下調べをしている時点でこの日この時立ち寄る店をすでに決定していた。 10時開店の店なので、11時くらいに行けばちょうどいいだろう。 そこに向かって歩いていると、ステキなトラックが通り過ぎていった。
五島牛乳の配送車。 ウワサにたがわずとても美味しい五島牛乳を、島内隈なく配達してくれる配送車だ。 牛乳のパッケージには一言も載っていなかったのに、配送車のボディには「お元気ですか」 の文字が。 なんだか親切そうな会社である。 そうこうするうちに、目的地のお店に到着。
うま亭。 ターミナルからすぐのところ、すなわち船で五島に来た観光客が必ず通る立地となれば、フツーだったら観光客向けのお店になりがちなところだ。 ところがこちらのお店は地元の方に愛され続けている名店で、昼過ぎともなれば満席必至だという。 引き戸を開けると、11時だからさすがに混んではいなかった。 2年前の下調べの時点から、このお店でいただける刺身がことのほか美味い!という話と各種五島うどんをいただける、という情報を得ていたので、 刺身定食で生ビールを飲みつつ、シメに五島うどんでも、という構想を夢に描いていた我々。 ところがメニューを見ても本日のオススメを見ても、焼き魚はあれど、どこにも刺身系のメニューが無い。
注文を取りに来たおねーさんに訊ねてみると、今はお刺身系のメニューは用意していないのだという。 やっぱり情報というのは、いつも最新のものを用意しておかなきゃならんのですな。 えー、ちなみにこの旅行記は、2017年2月の話ですので。念のため。 そこでプランBに変更し、中ナマとともにワタシが頼んだのはこちら。
五島牛の肉うどん@680円。 ワタシは結局福江島滞在中、毎日一食は必ず五島うどんをいただくことになるのだけれど、この後ついに「肉うどん」というメニューには出会えなかった。 出しゃばりすぎることなく、それでいてうまみを存分に味わわせてくれる牛肉との相性は抜群で、肉の出汁も染みだしていはいるだろうけど、やっぱりあご出汁のうどんは美味い。 一方オタマサは……
つみれうどん@650円。 すり身天国五島では、こういった肴のすり身系メニューが実に豊富で、このつみれうどんは、アジのすり身を煮たものがこんなにたくさん入っていた。 ワタシもすり身を一口二口いただいてみたところ、実に実に味わい深く、肉うどんの肉と同じく、具だけでビールが進む感じ。 すり身系メニューをこのあと他でもいろいろいただいてみた結果、ここで味わったアジのすり身が最も美味しかったとオタマサは後に語った。 満足感に満たされつつ食事を終え、そのあとこのお店のすぐ隣にあるレンタカー屋さんで、明日からの車の手配をお願いした。
ここ福江島にも大手レンタカー業者は入り込んでいるけれど、その一方で地元の業者さんたちも頑張っている。 翌日は朝から遠出をしたかったので、お店が開店する8時には車に乗れるよう、前日のうちに手続きをしておくことにした次第。 お店はこちら。
たたずまいがまた、地元ローカルの暖かさに満ち満ちた店舗でしょ。 でまた店の女将さんの素晴らしいこと(写真は後日車を返却した後に撮らしてもらいました)。
五島列島について調べているとき、五島は方言が強いから何を言っているかわからないことがある、的な話もチラホラあった。 基本的には長崎の言葉のようながら、ひとつひとつの単語には独自のものが多いため、そういうことになるらしい。 で、みなさんフツーに地元の言葉で話しているから、ディープな方言を聞けるはず、という話だったので、なにげにそれを楽しみにしていた我々。 ところが福江島に到着してからこれまで、すでに地元の方ともいくらかは話してはいるけれど、やはり観光客の相手をするのに慣れておられるからだろうか、イントネーションに多少長崎風味が感じられるものの、言われているほどの強烈な五島言葉を聞く機会はまったくない。 これだったら、クロワッサンのゲストである佐世保の兄やん&ツカサが話している言葉の方が、よっぽどバリバリの長崎言葉である。 ……と思っていたら、この女将さんは兄やん&ツカサ級だった。 なんだかうれしい。 さらに面白いことに。 ふつう、レンタカーを借りる手続きをする際には、免許証を提示しつつ、なにやらコムツカシイことが列記された約款などが併記されている書類にサインしたり、なんだかんだといった手続きがあるものだと思っていた。 ところが、明日から車を借りたい旨を女将さんに伝えると、免許証のコピーをとるだけで手続き終了。 へ? いや、あの、当日車を借りるだけにしたいから、今のうちにいろいろやっておきたかったんだけどなぁ…… と思いつつ、翌朝車を受け取りに来たら、車を選ばせてくれた後にキーを渡され、じゃあお気をつけて!って。 なんてゆるいんだ、地元業者!! ステキである。 このゆるさ、大手業者ではけっして味わえないに違いない。 希望どおり明朝からレンタカーを借りる手配ができたので(多分…)、そのあと再び福江港ターミナルに入ってみた。 さきほどターミナルに入っている店舗をリサーチしてみた際、これは是非とも食べておきたい、というものがあったのだ。 それは1階フロアにある、浜口水産の店舗。
このお店の名物がこちら。
さすがすり身天国五島列島、こちらの店でも、いろんな魚のすり身が揚げ物になってズラリ勢揃い。 どれもひとつ170円なので、3種類購入し、2階のテラス席でいただいてみた。 まずは「海ぼうず」。
魚だけのメンチカツ。 これはやっぱりビールでしょう!!
キリン一番搾り 初春初づめ。 さすが椿まつり期間中の五島列島、一番搾りまで椿を用意していたのか。 ……と思ったら、これは椿まつりとはなんの関係もなく、キリンが今年初めて数量限定で発売した新春バージョンだそうな。 でもこんな缶、観たことなかったなぁ。
……と思ったらそれもそのはず。 桜の季節を迎えている沖縄に、椿のデザインはないだろうという配慮だろうか。 いずれにしろ、沖縄の仇を五島で討ててよかったよかった。 さて、メンチカツも美味しいけれど、すり身の揚げ物もまた美味い。
こちらは「ばらもん揚げ 白」。 エソ、タラ、カワハギ、ブダイといった白身の魚のすり身をブレンドしたものだそうで、「上品な旨味が女性に人気です!」と謳われていた。
なるほどだしかに白身魚らしい上品な味。 一方、上品じゃないからといって下品じゃないけど、やる気に満ち満ちているのが「ばらもん揚げ 黒」。
手に取った1つを撮ったはずなのに、どこにも見当たらないのはなぜ……。 こちらはアジ、キビナゴ、サンマといったやる気系魚のすり身で、まさにイメージどおりの味。 白と黒、どちらも美味しいけれど、どちらか一つをビールのお供に…というのだったら、ワタシは迷わず黒をオススメいたします。 あー、いっぱい歩いて食って飲んで、ビールも飲んでいいコンコロもちだ。 今日も楽しかったなぁ!! ……って、おいおい、まだ正午にもなってませんぜ。 午後の散歩編に続く。
|