25・荒川をさるく・2〜さんさんリベンジ〜

 荒川集落を歩き回り、金刀比羅さん登山から帰還した我々を、文字どおり暖かく温かく迎えてくれたのが、こちら。

 荒川温泉足湯。

 かつてはバス停の待合所だった建物を、近年足湯の施設として改装したそうな。

 うれしいことに無料で利用可能で(9時30分〜17時)、七ッ岳登山の帰りに立ち寄る登山客もわりといらっしゃるようだ。

 我々も金刀比羅さん登山(?)を終えてきた……というか、すでにけっこう歩き回ったうえに足もとは冷えているから、この足湯がすこぶる心地よい。

 そのまま脳味噌までとろけてしまいそうなほどに心地よくなっているオタマサであった。

 ところで、前述のとおりもともとバス停の待合所だったこの場所は、今もなお「荒川」というバス停である。

 例によってここを通るバスの本数は少ないんだろうなぁ…と時刻表を見てみると、違うところでビックリした。

 福江方面行きの早朝便のひとつに「学」の印がついていて、その説明は

 「五島高校、海陽高校の補習が無い時は運休」

 え?高校の補習に合わせて運行しているのですか?
 そしてこの時刻表の下には……

 1年間の早朝補習実施日の予定が掲げられていた。

 沖縄と同じく車が無ければ生活できないと言われる福江島内の暮らしではあっても、普通免許をまだ取得できない高校生にとっては、バスが唯一の現実的交通機関なのだ。

 そんな高校生の早朝補習にバス会社が運航時刻を合わせるなんて……

 五島バス、素晴らしい!!

 ステキなのは、けっしてニガリ入りソフトクリームだけではなかった。

 足は暖まったし、バス停のおかげでなんだか心もあったかくなったから、再び街並みを散策してみよう。

 荒川の街並みは、中央に流れる用水路のような小川で東西に分けられている。

 

 海のうねりが入ると、ときおりポロロッカのように逆流してくるのが面白い。

 随所に小さな橋が架けられてあるから、東西の行き来に支障はなく、道路プラス小川の幅があるおかげで、細い路地の街並みの中で、川沿いはちょっと開けた感がある。

 そんな小川に架かった橋のたもとに、水道栓があった。

 場所柄どう見ても公共の設備らしいこの水道栓、水にしてはこの腐蝕具合は………

 あ!ひょっとして!!

 はたしてそれは、温泉なのであった。

 前出の資料によれば、現在の泉源は大正の世に掘ったものだそうで、巡り巡って個人所有のものになったという話なんだけど、現在はどうなっているのだろうか。

 小川沿いをよく見てみると、お湯用の塩ビパイプが細かく分岐しながら随所に導かれていて、この温泉が各家々に引かれているらしいことがうかがえる。

 そしてそのお湯用塩ビパイプの上では……

 猫はやっぱり、暖かいのが好き。
 背中もお腹もポカポカで、絶好のお昼寝タイムになっているようだった。

 この塩ビパイプをたどっていけば、泉源にたどり着けるかも!

 そこで、小川沿いに塩ビパイプをたどっていくと、ほどなくして……

 豪快に終了。

 どうやら川の上流とは関係なかったようだ。

 泉源探査は失敗に終わったかわりに、そのまま小川を遡ってみた。

 すると集落の奥には古いお寺があって、川はその寺の広い墓地(やっぱり造花で色鮮やか)の間を縫うように流れている。
 そして集落ではコンクリートだった護岸は、このあたりになると石垣になっていた。

 ん?
 あの上の方の石って、もしかして……??

 あ゛ッ……墓石だッ!!

 こういうのって、お寺のお坊様のなにやらの作法ひとつで、こういう石として使用してもオッケーみたいなことになるんだろうか。

 ……と、荒川の街並みの奥深くを探訪しているうちに、いつしか時刻はいい頃合いに。

 本日のお昼はもちろんこちら!!

 さんさんリベンジ。

 今日は11時30分からしっかりオープンすることを、事前に店の前まで来て確かめておいたのはいうまでもない。

 引き戸を開けると、カウンター4席のほか、2人用テーブル席が1つと4人用テーブル席が1つというこじんまりしたお店ながら、開店早々に入店したので他に誰もおらず、一番乗りでカウンターに座らせていただいた。

 夜の営業もあるらしく、夜は夜で別メニューになる模様。
 でも昼からでも肴になるメニューだってある。

 地域の皆さんの胃袋を支えるべく、各種定食メニューやカレーも充実しているけれど、なんといっても昼ビールとなれば、アテとしてお願いしたのがこちら。

 おでん6点盛り@500円。
 
 ホントはここに大根が入っているはずのところ、開店早々すぎたせいかまだ煮込みが足りないとのことで、厚揚げにしてもらってある。

 スープは意外にも鶏出汁で、これがまた美味しい。
 そんなスープに身を浸した美味しいおでんダネを、キリン一番搾りで流し込む。

 ……のはもちろんオタマサだけ、だけど。

 うれしいことに、この生ビールにもやはり、小鉢がサービスでついていた。

 この日はマカロニサラダ。
 けっしてスペシャルってわけじゃないにしろ、サービスってところがなんともステキだ。
 日本の地方が誇るべき、素晴らしい文化・習慣ですなぁ。

 一方、お茶でおでんをひと口ふた口いただいているワタシのメインディッシュはこちら!!

 うな丼!!@1000円(味噌汁とお手製のキムチ付き)。

 それも、ここ荒川産(の稚魚を荒川で養殖して育てた)ウナギを使用しているもので、その供給は安定しているそうな。

 中国産のウナギを使用したうな丼しか食べたことがないワタシにとって、ウナギってこんなにプリプリしてちゃんと魚の味がする魚だったのね!!的な感動の出会いである。

 そしてオタマサのシメというかメインはこちら。

 やっぱりはずせない、五島うどん@たったの400円。

 旅行前に参考にした旅行記の中には、このお店で五島うどんを食べた方が

 「沖縄そばに似ている」

 なんてことを書いていたので、あご出汁の五島うどんが沖縄そばに似てるわけないじゃん、とツッコミを入れていた。

 ところが一口いただいてビックリ。

 なんとこれ、おでんと同じく鶏出汁なのである。

 具にはマグロの角煮のような魚の肉が載っているのだけど、ワタシなど鶏出汁が染み込んだそれを食べて三枚肉かと思っていたほど。

 なるほどたしかに、亀浜製麺所の細い麺を使った鶏出汁メインの沖縄そばがあれば、こういう味になるかもしれない…。

 予想外の味に期待どおりの充実度。

 鄙びた漁港に唯一、空に輝く太陽のように燦々と光をふりそそいでくれる食堂「さんさん」。

 リベンジは大正解なのだった。

 ちなみにこちらの玄関マット……

 当店ゲストのみなさんなら、どこかで見たことないですか?

 そう、当店デッキの上に置いている足拭きマットと同じもの。
 全国流通商品なのだから、だからどうしたってなところながら、妙なところで親近感を覚えてしまった。

 親近感というかフレンドリー感といえば、お店の近くにいつもいるトラ猫。

 やたらと人懐っこくて、岩合さんのように撮ろうとかがみこむと、すぐさま寄ってくるから全然撮れなくなるくらい。

 おまけに歩いていると、まるで浜辺に連れて行かれるヒージャーのように身を擦り寄せてくるから、うっかりすると一足ごとに蹴飛ばしてしまうほどだった。

 こちらのお店で飼ってる猫なのか、それともエサが豊富な漁港周辺で自活している猫なのか。

 いずれにしても、のどかな漁港ならではの猫の生活である。