26・福江島ドライブ・3〜海岸物語〜
荒川をあとにし、海辺の国道384号を南下する。 すでに一度通った道だから沿道の景色も落ち着いて眺めていられるし、この日はお天気も上々で、海も山も輝いて見える。 そんな海辺の道で、前回通ったときには見られなかったものを発見。 すかさず停車し、現場へ急行……って、道路のすぐ脇なんだけど。
おお、これは……
ミズイカ(アオリイカ)の一夜干し予備軍じゃないですか!! 雨降りだった前回通りかかった際に無かったのは当然だった。
今のように流通が発達した世ではなかった頃には五島内で消費せざるを得ず、そうなるとたくさん獲れるミズイカはおそらくとっても安かったに違いない。 ところが今やすっかり高級食材になったミズイカは、現地でもやはり高級で、スーパーなどで見かけた一夜干しもやっぱり高かったから思わず買い控えてしまった。 全国津々浦々の魚介をどこでもいただける流通の世の中は便利だけれど、産地でも高くなっちゃったら、それはそれで良し悪しだなぁ…。 リアス式海岸で入り江が折り重なるように並ぶ福江島の海辺は、ただそこに船を置いておくだけで大丈夫そうな天然の良港だらけで、どこを切り取っても絵になる美しい入り江の風景が続く。
やがて道は島の南側にさしかかり、登っては崖上の山道、降りては集落といった地帯になってきた。 そういえば前日もここを通った際、崖上の山道を通っているとき、眼下にとても気になる海岸が見えた。 その時は気になりつつもただ通過しただけだったけど、2度目なのでどこにどのように車を停めればいいかある程度わかっていることもあって、この日は再発見と同時に車を停めてゆっくり眺めてみることにした。 気になる海岸とは、これ。
オタマサが指差す先に見えている海岸を拡大してみよう。
グレーの海岸!! 日差しの当たり加減では緑っぽくも見えたこの海岸、福江島といえば白い砂浜か溶岩の海岸とばかり思っていたのに、これっていったいどーゆーこと?? 崖続きの海岸線で、ポコッとできている浜ともなれば、もしかすると海岸に出られる道があるかもしれない。 そこでこの先の道を海抜ゼロ地帯に近いところまで降りていく間に、海岸へと出られる道はないモノかと車を走らせていると、 「あ、ガードレールがあるから道がありそう!」 と、普段は助手席にいてもドライバーよりも狭い視野しかないオタマサが、珍しくサーチ能力を発揮。 一応舗装されているとはいえ、この先で道が途切れてしまいそうなほどに心細い農道をまっすぐ行くと、はたして海岸に出ることができた。 その海岸は……
見事なまでにまん丸なゴロタの海岸だ!! 一部に石が堆積してるんじゃなくて、浜から波打ち際から水底から、ぜ〜んぶゴロタ。
こんな不思議な海岸に立つ機会など滅多にないだろうから、やっぱりここでもライフワークをするオタマサ。
静かに寄せる波に巻かれ、こぶし大前後のゴロタが波打ち際でゴロゴロ…コロコロ……と奏でる音が、なんとも不思議的BGMだ。 それにしても。
これほどの大量のゴロタ石、自然に堆積しているものなんだろうか。
という疑念を思わず抱かずにはいられなくなる奇観。 あ!!そういえば!! 加工しやすい溶岩はともかく、河原石のようなものはいったいどこから仕入れているんだろうと不思議に思っていた武家屋敷通りのこぼれ石、こんだけ丸い石があれば、いくらでも補充可能じゃん!! そうか、そういうことだったのか。
ちなみにここは、太田海岸というところらしい。 そんな、知っているヒトは知っているけど知られざる海岸に、ドデンと横たわる万里の長城が。
どうやら林野庁長崎営林署の手による治山事業の一環のようで、この後背地の農地を塩害から守る意味合いがあるようなないような。 エライ人が考えて造ったのだから、きっとこれが有ると無いとでは塩害に歴然たる違いが出るのだろうけど、この万里の長城が無かったら、ひょっとするとこの海岸、いつの日か世界遺産になったかも?? そんな万里の長城に守られている農地は、この季節は刈田になっていた。
真冬の刈田で雑草が青々としているあたり、さすが五島。 そんな緑の刈田にとても懐かしい花が咲いていた。
レンゲ!! 田んぼがごくごく身近な環境だった子供の頃のワタシにとって、レンゲは虫の季節の到来を告げる、心ワクワクする花だった(花ごと舐めると甘い味がする)。 残念ながら沖縄ではレンゲは咲かないので、水納島に越してきてから22年経っている今、実に四半世紀ぶりくらいに目にするレンゲなのである。 このレンゲもまた、先ほどの万里の長城に守られているのだろうか。 ひょっとするとかの建造物は、ただ一輪の花のために命を懸ける、デューク・フリードのようなヒトなのかもしれない………。
|