ハワイ紀行
〜またの名を暴飲暴食日記〜 |
再び12月6日(月)パート3
アロハ アラモアナショッピングセンターに到着したとはいえ、ここでみんなで何かするというわけではなく、とりあえず6時頃夕食に出かけるからそれまでにはみんなホテルに帰っているように、ということにして、ここで還暦組と我々は別れた。アロハシャツというものをちょっと物色したかったので、そんなことにお疲れの父ちゃんを付き合わすわけにはいかない。 アラモアナショッピングセンターというのは、ほんの少し前までの一時期ダイエーが所有していた世界最大級のマーケットセンターである。高級ブティックやブランドものなど、そのほとんどが我々夫婦には無縁なものなのだが、こういうところでアロハシャツというのはいくらほどで売られているのだろう、ということを調べたかったのだ。 なぜアロハが気になるのか。それは二日後にディナークルーズなるおよそ我々に似つかわしくない予定が入っているからである。それには一応正装で、ということになっているのだ。聞けばハワイではアロハシャツは冠婚葬祭に使える正装だ、ということなので、じゃあ、その分は現地で買おう、と決めていたのだった。 もちろん、安っぽいハデハデ仮面のようなヤツなら20ドルほどで売られているのをその辺で見たけれど、そういうのが正装に値するのかどうかはやや疑わしい。だからといって誰もが価値を認めるヴィンテージものなんかはとても買えるものじゃない。とにかく普通のものがいったいいくらくらいなのかを確かめたかったのである。 アロハってけっこう高い いろんなジャンルの店がアトランダムに並ぶこの広大なショッピングセンターでは、あちこちまわって値段を確かめる、なんてのは至難の業だ。きっと水納島を隅から隅まで散歩するよりもしんどいだろう。 結局二、三軒まわっただけながら、50〜60ドルくらいが相場であることがわかった。う〜む、高い!!このショッピングセンターからしばらく行ったところに、わりといいアロハを安く売っている店があるよ、ということを、十月にハワイに来ていたクロワッサン西日本営業部長夫妻から教えてもらっていたのに、その場所はおろか店名すら覚えておらず、あえなく断念。かの都会生活不適格者を笑えない。 ほとんどの店が我々には無縁のショッピングセンターではあったが、マカイ・マーケットと呼ばれる大衆食堂の博覧会のようなフロアは楽しかった。日本でいうならスーパーの一階にある、マクドナルドとかうどん屋とかのファーストフードが並ぶフロアのようなところだが、ありとあらゆるジャンルの料理の店が広いフロアを取り巻くように並んでいて、フロアには大量にテーブルがあってもの凄い数の人が飯を食っているのだ。プラリと歩いて料金を見たら、大衆食堂でカツ丼を食う程度の値段である。必ず一度ここで飯を食おう。食うならハワイ料理のポイ・ボウルというところにしよう。 ハワイの妖怪 アラモアナショッピングセンターからオリオリ・トロリーに乗り、今度はDFSギャラリアというショッピングセンターで降りた。といってもここで買い物をするわけではない。すぐ近くにあるアウトリガー・ワイキキホテルに用があるのだ。 前にも述べたとおり、暴飲暴食大将の私はどこで飯を食うか、というチェックだけはしてある。アウトリガー・ワイキキ・ホテルの一階にあるデュークス・カヌー・クラブというところもその一つであった。デューク・カハナモクという伝説のサーファーにちなんだ店だが、サーファーじゃない我々にとってはそんなおっさんは知ったことじゃない。夕日を見ながらチチでも飲み、風に吹かれてマヒマヒのソテーを食いたかっただけである。 十月に三週間もハワイを訪れていたケンタローに下見を頼んだところ、 「いやあ、手頃な値段だし雰囲気もいいところでしたよ」 といつもの調子で教えてくれたので、私の中でイメージはほぼ完成されていたのである。 その店を目指してカラカウアアベニューを歩いていると、妖怪系日本人を発見してしまった。妖怪とはいわゆるガングロ系女である。さすがにハワイまで来ると控えめにするのか、池袋のそこかしこにいたような、けっして5m以内には近づきたくない気持ち悪さはなかったが、我々は二人して「ハワイにも妖怪がいたよぉ」とおびえながら通り過ぎようとした。 すると突然、 「あの〜すみません……」と近寄って来るではないか! うわぁ、妖怪に襲われる!!喰われてしまう!!襲われたときは目を狙え!!とばかりに、あやうく指をブイの字にして近づいてくる妖怪女の目を突いてしまうところだった。が、なんのことはない、写真を撮ってくれ、とお願いに来たのであった。なんだよ、ビックリさせるなよまったく。 安っぽいラブホテルのような色をしたロイヤルハワイアンホテルの脇を抜けるとすぐにワイキキビーチにたどり着いた。冬ということもあって人はそんなに多くはない。海の色は噂に違わぬ濁り方で、こんな寒い中わざわざ濁った海で泳ごうなんてことはこれっぽっちも思わなかった。でもこの眺めの良さはどうだ。立ち並ぶホテルにはどこにもシーサイドカフェがあり、海を臨めば一面の太平洋。間違いなくこのビーチは日光浴用である。 奮闘!ディナーの予約 すぐ隣がアウトリガー・ワイキキホテルである。ビーチに面したテラスに目をやると、「デュークス・カヌー・クラブ」の看板が見えた。砂を水で落としてカウンターに向かった。あらかじめ聞いていたとおり外人ばっかである。いや、ここでは我々が外人か。とにかく英語しかしゃべれない人たちばかりである。しかしここでひよっていてはいけない。 が、うちの奥さんは、 「ここで待ってるから行ってきて」だって。 おいおいおい、こういうときのために NHKの英会話入門を6年も続けているんだろうに。そんなことだからいつまでたっても入門のままなんだよ。しかたないので、いかにも普通っぽいそぶりを見せながら、カウンターのそばにいたスタッフに「予約したいんですけど」と言ってみた。もちろん Excuse me付きだ。するとそのスタッフは怪訝な顔をし、さも怪しい人物でも見るような目をして、「あんだってぇ?」 と急速に志村けん化するではないか。いや、だからここで今晩飯喰いたいんだってば、というと、志村けんが尺八の音に合わせて刀を取りに行くような目をするのである。 あれ?もしかして……あ!!このおっさんはスタッフじゃなかったのね?「あんた、ここのスタッフか?」と聞くと、私でもはっきりヒヤリングできる発音で「ノー」と応えた。こりゃどうも失礼しました。 よく見るとスタッフにはユニフォームがあって、一目で判別できるじゃないか。カウンターの中にいる姉ちゃんに最初から言えばよかった。そのお姉ちゃんに予約したい旨告げると、受付の方にまわってね!と非常に愛想良く教えてくれた。我々はビーチ側から来たから気づかなかったが、ホテル側から来るとちゃんと受付があるのだ。 店内を通り受付まで行くと、カウンターには3人のお姉ちゃんがいた。今晩の予約をしたい旨告げると、何時、何人、喫煙席か禁煙席かということを矢継ぎ早に訊いてきた。6時に出かけようということにしていたから、6時30分でいいか。人数は5人。父と父ちゃんの二人はたばこを吸うから喫煙席。それらをざっと応えると予約は完了した。 そういえば夕日を見ながらカクテルを、というイメージが完成されているのだから、日没時刻は重要な要素だ。6時30分ごろか?7時ごろか?わからなかったのでそのお姉ちゃんに訊いてみたら、なんとなんと、5時50分頃だというのである。しかも美しい夕焼けを楽しみながら食事、というのなら5時くらいに来るのがいいという。おいおいおい、5時っていったらあんた、今現在じゃないか。それはできない相談だぜ。それは困るなあ、じゃあ明日にするかなあ。明日の5時頃ならどうなのだろう。 しかし、この段になって、私の英語力では会話にならないようになってしまった。明日の事情を説明しているらしいのだが、ちっともわかんないのだ。アメリカ人というのは自国内にいる場合、英語をしゃべれないヤツをバカにする、いや、英語を喋れないというヤツもいる、ということを基本的に理解できないので、普段あまり日本人客が訪れないこういう店で片言でも英語で切り出してしまうと、鬼のようにネイティブな英語で話してくるのである。ちょっと待て、もっとゆっくりしゃべれ、と言ってはみたものの、結局明日の5時頃を予約する、というのが無理そうなことと、じゃぁ今日は来ないのね、という確認をとっていることくらいしかわからなかった。 二日後はディナークルーズだし、最後の日はもっと豪華にいくだろうし…明日が無理なら仕方ないなあ。 ケンタローに下見までしてもらった手前、あえなく断念するのは忍びなかったが、よくよく考えたら還暦3人組をこういうところに連れてきてもしょうがないか。 どこでご飯を食べようか…… 暮れなずむビーチをてくてく歩いてホテルへ向かった。この長い一日、なかなかことがスムーズに運ばず、描いたプランがあちこちで崩壊していくので足取りも重い。さらに当面の問題として、さて、どこで晩飯を食うか。泊まっているホテルのレストランをはじめ、ガイドブックに載っているような店というのはどこもベリーエクスペンシブだ。3人はともかく、これ以上の贅沢は我々にはつらいものがある。我々二人だけだったら安いとこ探してなんとでもなるんだけどなあ。 5時半ごろに部屋に戻ると、父ちゃんはベッドで大の字になって寝ていた。我々が帰るまでにシャワーを浴びておいてね、という願いも虚しい。しかしそりゃあ疲れているだろうから、無理もない。あ、言い忘れていたがうちの両親は二人で一室で、我々は三人で1室なのだ。本来ならエキストラベッドを入れてもらうところだが、部屋が狭くなるのがいやだったし、ベッドも大きいから2つでいい。こういうとき、うちの奥さんの小ささが役に立つ。 それにしても、随分父ちゃんは疲れているみたいだし、今からあてどもなく外へ出て店を探すのも酷だから、もういっそのこと今晩はルームサービスにするか、と思い至ってうちの両親のとこまで相談に行った。しかしうちの親はせっかくだからレストランで食おうと言う。それもこのホテルの「ネプチューン・ガーデン」に行こうと言うのだ。いや、しかしそこはエクスペンシブだしなぁ、そんな高いところには行けないなぁ、と躊躇していたら、 「まかせておけ、ごちそうしよう!」というお言葉が。 心の底ではほんの少し、いや、かなり期待してはいたが、こうも期待どおりになるなんて。この一日のうまくいかないなぁという憂鬱はげんきんにもあっという間に吹っ飛び、スポンサーの気が変わらぬうちに、ではそうしよう、そうしましょう、とあいなったのであった。 ネプチューン・ガーデン 我々が泊まっているパシフィック・ビーチホテルは、グレード的にはそう目を見張るものはないのだけれど、あることでとっても知られている。タワービルの中に3階分ぶち抜いた巨大な水槽があるのだ。 ホテル内にある3つのレストランのどこに入っても群れ泳ぐ海水魚を見ながら食事ができるのである。ダイバーの餌付けショーもあるこの水槽のおかげで、このホテルのレストランは、星のごとく世に出ているハワイのガイドブックにはたいてい載っているのだ。ただし、限られた紹介スペースには水槽のことばっかり書いてあって、肝心のレストランのメニューについてはなかなか触れられていない。だから、水槽の存在こそ知ってはいたが、何が食えるのかということに関しては予備知識がまったくない。でもいいのだ。はずそうがどうしようがごちそうしてもらえるんだもの。 二人の喫煙者のせいで水槽わきのいい場所には座れなかったが、今さら我々がそのような水槽にこだわるはずがない。だいたい、ハワイならではの海水魚なんてこれっぽっちもいなかったのだ。アキレス・タンとかミリアリスとかが泳いでいたら、おおっハワイ!って感じにもなるのに。そのような魚というのは長期飼育が難しいから、水槽に入れてもきっとすぐ死んでしまうのだろう。泳いでいる魚といえば、殺しても死なないような丈夫で地味な魚ばっかりなのである。元水族館女と水族館好き男の目はごまかせない。 暴飲暴食大将!! メニューから一品ずつ頼むのが面倒だったので、手っ取り早くコース料理を頼むことにした。何種類かあるので、母はアメリカのステーキはでっかいよ、と我々にしきりに肉料理をすすめる。けれど、血気盛んにステーキ!というほど我々だってもう若くはない。結局皆一様にシーフードをメインにすることにした。そして、ようやくビールで乾杯といきましょう!ということになった。よく考えたら、ようやく初日の乾杯だ。感慨もひとしおである。 やがて料理が運ばれてくるに及び、ビールもじゃんじゃん頼んじゃえ!!って感じで思う存分飲み食いしたのであった。この場合、料理はどうだったか、ということを報告しなければならないケースであることはわかってはいる。うまかったよ。しかし私は自慢じゃないが「うまい」か「まずい」しか味に関する語彙がない。人の参考になるような品評はできないのである。一つだけ間違いなく言えるのは、腹一杯になったぁ、ということかな。ま、総額いくらになったのかは気にしないようにしておこう。おごりだもの。 食事があらかた済んだころ、ご機嫌になった父ちゃんが「明日は私がごちそうしよう」と言ってくれた。これまた期待どおりの展開になったので万々歳である。太田胃散も余分に持ってきたし、これでレストラン選択の幅はグーンと広がった。 部屋に戻ったあと、父ちゃんはパタンキューと寝に入った。我々も9時半ごろ、気絶するかのようにベッドに倒れ込むことにした。ベッドの脇に置いてあるレインボーシックスのページが開かれることはなかった。 いやあ、それにしてもこの二日間に渡る12月6日は長かったなあ。30時間近く眠っていないんだから当然といえば当然か。 |