11・小浜島散歩〜はいむるぶし〜

 本当に2次会に行ったのだろうか??

 ……と、隊長が狐につままれたような面持ちで石垣空港に向かっていた頃、我々はここにいた。

 石垣港離島桟橋。
 ほんの少し昔は「離島桟橋」という言葉通り、旅情溢れる素朴で鄙びた港だったのだが、いつの間にやらこんなに立派なターミナルができていた。

 ところで、この離島桟橋からいったいどこへ?
 目的地は小浜島!!

 90年代末に一度、我々夫婦はそれまで尋ねたことがない八重山の島巡りをしたことがある。
 その頃すでに石垣在だった島P家に合間合間で世話になりつつ、波照間島、黒島、竹富島をそれぞれ一泊ずつ回った。
 その際小浜島は、残念ながら目的地の候補には入らなかった。
 その理由は定かではないけど、小浜島の文化そのものがわりと内向的で、少なくとも当時はあまり外に発信されていなかったことも理由の一つだろう。
 僕自身、はいむるぶし以外には何もないと思っていたくらいだから。

 その後NHKテレビ小説「ちゅらさん」の舞台になってからは、一躍県内メジャーアイランドの仲間入りを果たした小浜島。
 そこで、滅多に来られない八重山に来ているこの機会に、人生で初めての小浜島上陸を果たすことにしたのだ。

 もちろん案内人は、島P。
 何を隠そう、彼は小浜島にある「はいむるぶし」という超豪華リゾートで、もうかれこれ17、8年働いているのである。
 だったらなぜ以前のアイランドホッピングのときに立ち寄らなかったのか。
 はいむるぶしは豪華すぎて、とてもじゃないけど我々の資金力では泊まれないからであることはいうまでもない。

 というわけで今日は、小浜島へ日帰り観光!!

 ……でも外は、粉糠雨降る御堂筋。
 おまけに冷たい北風が。
 昨日こんな天気じゃなくてよかったぁ……。
 って、昨年も同じことを言っていた気がする。

 オフシーズンの水納島も、こんな天気になることが多い。
 ところがそういうときでも、血迷った観光客が極稀に島を訪れることもある。
 それを目にするたびに我々は、

 「こんな天気の日に来るなんて、モノ好きな人たちだなぁ…」

 と半ば感心しているのだが………
 今日は自分たちがそういう人たちになってしまった。

 11時30分石垣港発の連絡船内には……

 我々だけ!!
 って、あれ?娘ミオ、月曜なのに学校は??

 「土曜日に修学旅行から帰ってきたから、振り替え休日♪」

 なるほど!

 おりからの強風で海は時化ていたけれど、島陰や広大なリーフ内を航行するから、それほど苦になる航海ではなかった。
 が、小浜島まで30分というのは意外。
 もっと石垣島と時間的距離は近いと思っていたのだ。

 だから、島Pは石垣からの通勤といっても、あっという間に着くんだからいいじゃん…と気楽に考えていた。
 でも30分となると……れっきとした「通勤」だよなぁ。
 おまけに船だから、前夜痛飲していたりすると大変らしい。小浜島に到着後にグッタリしていると、乗船客の身を案じる船員さんとこういう会話になるそうだ。

 「船酔いですか?」

 「いえ……二日酔いです」

 離島への通勤は大変だ。
 間違いなくごっくん隊には無理だろう……。

 そうこうするうちについに小浜島到着!
 驚いたことに、島に到着する直前に、まるで旅客機の機長もしくはCAのアナウンスのように、到着の報告と旅客を労う言葉を船長が放送していた。
 そうだよ、これがサービス業だよ。
 が。
 水納海運では到底考えられないよなぁ……。

 ともかく、人生初の小浜島上陸!!

 さ、寒ッ!!
 風も気温も、石垣より2度くらい冷たい気がする……。

 ちなみに小浜島の港も立派なポンツーンの桟橋になっている。
 昔の鄙びた港を知る方々は、風情がないとお嘆きかもしれないけれど、これすべて、全有人離島の港をすべてバリアフリーのポンツーンにするという沖縄県の事業なのだ。
 が。
 水納島はその中には含まれていないらしい。

 さらにちなみに、このポンツーンに渡るブリッジも車が余裕で通れるくらいの幅はあるものの、渡久地港同様、やはり車の通行は禁じられているという。
 小浜島の人たちも我々同様、冷蔵庫を買い換えるときは難儀しているに違いない。

 さて、人口約500人の小さな島とはいえ、水納島に比べればその数は10倍。
 そして島の周囲も約4倍。
 そんな大きな島をどのようにして巡るのかといえば、これ!

 島P小浜専用車マッハK号!!
 小浜島に置いてある、彼の通勤用の車だ。
 そのドアのたてつけの悪さ(?)もさることながら、助手席を開けた途端に床に置いてあるバッテリー。

 「この前バッテリーが上がっちゃってさぁ、いつまた上がるかわかんないから新品を置いてるの」

 おお、離島っぽい!!
 石垣島は島だけど、とりわけ市街地にいるととても都会で、離島にいるという気分にはなかなかならない。
 ここに来てようやく離島情緒溢れる雰囲気が。

 そのマッハKで目指したのは、もちろん…

 はいむるぶし!!
 八重山地方、いや、県内有数の老舗豪華リゾートである。
 ここが島Pの職場だ。

 はいむるぶしとは、沖縄の言葉で「南十字星」という意味。実際、12月から6月であれば、天気が良ければホテルのプライベートビーチから南十字星を観ることができるそうだ。 

 上の写真はセンター棟のエントランスだけど、駐車場の近くには広大な池があって、車から降りた途端、そこは……


付近にある自販機で動物用の餌が買えるようになっている。
モナカの中に餌が入っていて、
すべて食べられるからゴミが出ないというスグレモノ。

 アヒル天国♪
 …というかアンタ、豪華リゾートに到着していきなりアヒルですか。

 ここは敷地内とはとても思えないほどの広大な池。
 その名を水牛池という。
 睡蓮の花が咲き誇っている池の周りに、アヒルやガチョウが屯している。
 そしてもちろん、その名のとおり水牛も。

 この水牛君、広大な敷地内を牛車を曳かせて歩かせるとか、モッツァレラチーズを作るとかいった特別な理由があるわけでもなんでもなく、ただこの池のほとりにいで長閑に暮らしているという。

 いかん、だんだんどこだかわからない写真になってきた。
 我々の最初の目的は、豪華リゾート内で豪華なランチ♪
 そしてまた……


 
夜になると、テーブルも何もかもがムーディに彩られるらしい。

 すみません、我々だけ生ビール。
 でまた、ここで出される料理が美味い。
 そりゃそれなりの金額になればどこで食べてもたいてい美味しいとはいえ、見かけだけ豪華ってこともよくあるじゃないですか。
 ところがここで食べた、1日限定5食というドリアの美味いことといったら!!

 巨大シャゴウガイで拵えられた器に盛られた、具沢山のシーフードドリア。ホテルの小浜島案内では「はいむるぶしの鮮魚は細崎漁港から来ます」と触れられていたけれど、さすがにムール貝の出身地は違う場所なのだろう…。

 うちの奥さんが頼んだランチパスタには、驚いたことに前菜とスープがついていて、このアンティパストがこれまた豪華。

 これはビールを飲んでいる場合じゃないよなぁ……。
 思わずワインを頼みたくなってしまうほど美味かったせいで、肝心のパスタを撮るのを忘れてしまった。

 いやあ、さすが豪華リゾート!!
 レストランは島の人口をそのまま収容できそうなほどに広々としていて、出てくる料理も絶品尽くし。
 だからだろう、日帰りで観光にやってくる団体客も、ときおり食事をしに来るようで、我々が食事を終えたあと入れ違いで、どこぞの旅行社団体客がドヤドヤとやってきた。

 かくいう僕たちもこのリゾートに泊まったわけではないからエラそうなことはいえないものの、この日島Pにリゾート内を案内してもらってまず思ったのは、

 ここで一週間くらい過ごしたい……

 ということだった。
 とにかく敷地内が広いのだ。
 今や八重山に綺羅星のごとくある様々なホテル群のなかでも、「はいむるぶし」はパイオニア的存在。もともとは本業が別にある創業者の趣味的理想郷思想に基づいてリゾート開発されていることもあって、本島西海岸に肩を寄せ合ってひしめくなんちゃってリゾートホテルとはまったく異なり、本当の意味でホントに「リゾート」なのだ。
 だから、広大な自然海岸がプライベートビーチだし、


夏のピーカン、パラソル全開……と脳内変換してください…

 敷地内に点在する建物は、景観を乱さぬようどれも平屋の赤瓦。
 プールサイドでアルコールを楽しむこともできれば、池のほとりでアヒルと戯れることもできる。遥かに西表島を見渡す大展望風呂があるかと思えば、静かに夕陽を望めるサンセット広場もある。


正面に南国の荘厳な夕陽がある……と脳内変換してください…

 その他敷地内には、菜園コーナーや敷地内植栽用の木々を育てている場所もあり(わずか5名の担当スタッフが、芝生から植栽から野菜からすべてを世話しているという)、それらを巡るための自転車やランドカー(ゴルフ場で使うようなカート)も備えられていた。

 そんな敷地内をいろいろ案内してもらって、僕はふとここが以前体験したどこかに似ていることに気がついた。

 そうだ!!

 このコンセプトって、ケニアのマサイマラで泊まったホテルにそっくりじゃないか!!
 あそこも敷地内に菜園があったし、敷地内をサファリするツアーもあるくらいに広かった。
 そういうホテルに、飯を食うためだけってのはもちろんのこと、たった一泊だけ気休め程度のご宿泊……じゃあとてももったいない。

 旅行社の駆け足ツアーなどで来てはいけない。
 駆け足で去っていったら、その魅力は絶対にわからない。
 池のほとりにいる水牛を眺めるのと同じで、何をするでもなくただそこにいるだけで楽しい………それがリゾートなのである。

 しかし、そんなリゾートでのゼータクな滞在を楽しめる旅行者が、はたしてこの国にいったいどれくらいいるのだろうか。
 けっして多くはないから、駆け足で去っていく旅行社ツアーに頼らなければならなくなるってところが、こういったリゾートの経営のムツカシイところなのだろう。

 そこへこんなふうに「駆け足ツアーで泊まってはいけない!」なんていうのは、営業妨害以外のなんでもないような気がしなくもない……けど、まぁいっか。

 とにかく、この素晴らしさを存続させるためには、「はいむるぶし」にはもう世界中の勝ち組だけを対象としていただくしかない。

 あ……。
 ってことは、我々は永遠に泊まりに来ることができないじゃないか………。

 ともかく。
 今年もきっと猛暑になることは間違いなさそうな日本の夏。
 涼しい涼しい沖縄のリゾートでのんびり避暑でも……とお考えのリッチな方は、僕に騙されたと思って是非一度「はいむるぶし」へどうぞ!!