10・思い出は千の風になって…

 あの人とはほかでもない、隊長だ。
 我々はともかく、彼にとってはこの石垣で昨日今日初めて会った方ばかり。
 なので当初こそ静かなモードでいたのだが……

 いつの間にやらエンジン全開。

 隊長ぉぉぉおおおッ!!
 まるで20年来の友人同士のようなこのノリ。
 もちろん二人は、昨夜「やまもと」で初めて会ったばかりである。
 どこから見ても酔っ払いにしか見えないのは、力強くピースサインを送っている島Pも同じだが、さすがごっくん隊隊長、ここからさらに加速装置始動!

 席上、初対面のみなさんにも隊長の人となりを知ってもらうべく、水納島におけるごっくん隊の凄まじい飲みっぷりはもちろんのこと、全国大会決勝まで出場した隊長の、至宝の口笛の腕前もさんざん僕が宣伝していた。
 なので、やがてみんなは口々にリクエスト。

 隊長、口笛聴きた〜い♪

 ガソリン満タン状態でそこまで言われた隊長に、否やのあろうはずはない。


酔っ払いの姿からは想像もつかない音色の美しさに、
皆一瞬我を忘れて聴き惚れた……

 待ってました、隊長!!
 最初は愛の賛歌から入ってギャラリーを魅了し、ルパン三世のエンディングではもちろん、最後は歌詞付きのオチまでつけて、

 〜♪
 ルパンスヮンセィィィィ………ウィイーーーーッ!!

 隊長、完全にいつもどおり。
 そしてここまで達したら当然のように…………

 た、隊長ぉおお!!お店の中で寝てしまわないで!!!

 ああしまった、なんでこのときの写真を撮らなかったんだ!!
 隊長、まさかの……というか案の定の撃沈。
 我々夫婦以外ほぼ初対面同士のこの宴席で、見事に大の字を披露する彼。

 心地良く酔った彼にとって、ここが石垣であろうが水納島であろうが新橋の飲み屋であろうが横浜のリーダー宅であろうが名古屋のお店であろうが、もはやまったく関係なくなっていたのであった。

 後日、このときの隊長の様子を、ふくみみ・ノリダーは嬉しそうに(?)こう語った。

 「久しぶりに、典型的な酔っ払いを見た……」

 その典型的さが「キレイ…」とまで言っていた。
 ウーム……。キレイか??
 このあとはえび屋−Mさんに石垣のディープゾーンに連れて行ってもらうことになっているのだけれど、このままでは隊長を連れて行くのは無理かなぁ……。
 でも起こしてホテルまで運べるだろうか?
 ああ、こんなときリーダーがいてくれたら………

 その時!

 ムクッ!!

 突如起き上がった。
 た、隊長??

 「ハイッ!!ハイッ!!」

 クロワッサンでのゆんたく時のように、威勢よく手を上げる隊長。
 はい、隊長どうぞ!

 「行きますッ!!」

 復活。
 …恐るべし、ごっくん隊。

 一方、崩れかけた隊長に比べると、エンジン全開とはいえ随分まともに見えたのが島Pだった。
 この後ショバを変えてえび屋−Mさんに連れて行ってもらったディープな石垣とは、昨年行った15番街の飲み屋さん。
 我々のリクエストでもある。
 もちろん同席した島Pは、店の前で1年ぶりの再会を果たしていた。

 いったい誰と?

 消火栓と。
 これがどういう意味かということは
こちらを参照されたし。

 ただし今宵の彼はまったく元気で、この写真は我々の期待に応えてくれているのだ。
 2次会でもしっかりしていたから、てっきりこの夜の記憶は完璧なのかと思っていたら、翌日。

 「あだん亭も2次会の店も記憶はちゃんとあるんだけど、あだん亭から2次会の間に、どうやって娘が帰ったのか覚えてない」

 あ、あなた、それって一番しっかりしてなきゃいけないところじゃないんですか??

 えび屋−Mさんとともに乗ったタクシーで、ちゃんと家に寄ってから2次会の場所に来たという記憶がすっかり欠落しているらしい。

 「そこだけプンッと飛んでるけど、それ以外の記憶は完璧!」

 娘ミオよ、それを完璧と言わせておいていいのか??

 ともかくそんなわけで、やってきましたディープ石垣。
 美味しそうなおでんがドドンと登場し、舌鼓を打ちつつ最初は静かに飲んでいた我々。
 やがて、昨年とは違ってエンジン全開の島Pが、カラオケのリクエストを開始。


仲良きことは、美しき哉

 いつの間にかカナエ嬢もゴキゲン状態。
 娘ミオよ、家に一人残されている夜中に、父ちゃん母ちゃんがこんなに楽しんでていいのか??

 いいらしい。
 なんであれ父ちゃん母ちゃんが毎日楽しそうにしている家の子供たちは、ただそれだけでシアワセなのである。多分。

 カラオケ将軍島Pがリクエストするのは、自分が歌う歌だけではなかった。勝手にリクエストして、マイクを渡してくる。
 もちろん隊長にも。

 すると隊長は!!

 カラオケに合わせ、その曲を口笛にて披露!!
 ただでさえ音量の大きな口笛が、マイクを通すと店じゅうに広がっていった。
 隊長、絶好調!!!

 えび屋−Mさんも負けてはいなかった。
 彼がリクエストした曲は、名曲「千の風になって」。
 しかも、県内の一部で静かに広まっているというウチナーグチバージョン「天ぬ風になてぃ」版を、画面の歌詞に関係なく、ソラで披露してくださった。

 これがまた、心地良く酔いが回った頭に染み通るようないい歌詞で、サビの部分をチョロッとご紹介するとこうなる。

 〜♪
 てぃんぬ かじに なてぃ 
 てぃんぬ かじに なりばよー
 わんねー まーやてぃん 
 さーらない いちゅんどー
 あまくま ふちわたてぃ

 なんかいい感じでしょ?
 しかも!!
 しみじみ聞かせてくださるえび屋−Mさんの歌に合わせ、隊長の口笛が!!

 いやあ、夜も更けたディープな飲み屋で、まさかのコラボレーション。

 ところで、歌詞がとても素敵だったので、えび屋−Mさんに是非後日歌詞をメールで送ってください、と面倒なことをお願いしていた。
 でもまぁ、古今東西における午前1時の飲み屋での約束など、はたされたためしがあるはずがない……
 ……と思っていたら!!
 我々の水納島帰着を待っていたかのように、えび屋−Mさんから「天ぬ風になてぃ」の歌詞がメールで送られてきたのである。

 これ一事をもってしても、みなさんに車えびの品質のたしかさをご理解いただけることだろう。

 が。
 そんなえび屋−Mさんだったのだが、なんとこの翌日からインフルエンザを発症してしまったという。
 「千の風になって」を歌ったら、「千の風邪になって」しまったのだった……。<ネタにしてすみません。

 そんなこんなで、飲んで歌って話して笑って、楽しい楽しい慰労会(?)はお開きとなった。
 えび屋−Mさん、ご馳走様でした!!

 そして翌朝。
 この日午前中に石垣を発つ隊長に、一言挨拶すべく電話をかけた。

 昨日はお疲れさまでした!今朝は快適なお目覚めでしたか??

 「……かなり残ってます」

 ちなみに隊長、昨日2次会で口笛フィーバーかかってたのご記憶ですか??

 「え?私…………2次会も行きましたっけ?

 た、隊長ぉぉぉぉおおおおおッ!?
 お店のオネーサンから「ピー子ちゃん」という名前までつけられていたのに、覚えてないんですか??

 前夜の出来事の後半の記憶が、千の風になって飛んで行ってしまった隊長なのだった……。

 なにはともあれ隊長、初フルマラソンお疲れさまでした!
 そして堂々の完走、

 おめでとうございます!!

 ……それは覚えてますよね??