一夜明け、ときおり日差しが出るほどのいいお天気になったこの朝、マサカッちゃん夫妻は石垣を去る。
二人を空港まで、Yさん夫妻が送っていく。
Yさん邸から見送る我々。
というか、人のお家で勝手気ままにこんなにくつろいでしまっていいんでしょうか。
……っていうぐらいに、我が家にいるかのごとく、いや、自分の家にいる時よりも遥かにのんびりしてしまった。
おかげで、マラソンの疲労と連夜の酒の疲れが緩和。
そうこうするうちにYさん夫妻が帰ってきて、空港で一緒にマサカッちゃんたちを見送った元サンシャイン組のタニさんが、往復1時間弱の道のりをものともせず、わざわざうちの奥さんに会いに来てくれた。
石垣に住んでいるというのに、なんでそんなに白いの?というくらいに色白なので、Yさんからは座敷牢暮らしとからかわれていた。
さすがに座敷牢暮らしではないものの、お昼になると昼休みで途中帰宅するというだんな様のお昼ご飯のため、彼女は再び市内へ。
さて、この日。
午前中はこうしてゆったり過ごしたのだが、昼前からエンジンスタート。
どんなエンジン?
それは………エゴツアー!!
エコツアーではない。エゴツアーである。自然を肌で味わうのではない。舌で味わうのだ!
目指すはYさん邸から程近い清流。
幹線道路脇に車を停め、ヒョイと一歩踏み込めば、たちまち亜熱帯のジャングルになる。
隊長ヒサコさんのもと、隊員たちもえっちらおっちら歩き始めると、すぐにせせらぎの音が聞こえてきた。
農業用水用取水パイプがおおらかに設置されているだけあって、とってもキレイな水をたたえた沢が流れていた。
家から車で5分、そこから歩いて3分で、この風景。
これが田舎暮らしの素晴らしさだ。
さあ、ここから沢登り開始!
マラソン用にジョギングシューズを持ってきたとはいえ、うちの奥さんはトレッキングシューズまで持参していたとはいえ、やはりこういうところで活躍するのは長靴。
どういうわけかYさん邸には長靴まで人数分用意されてあった。
さすがリゾート……。
それをお借りしているので、沢登り装備は万全なのだ。
ヒサコ隊長率いるエゴツアー隊の今回の目的は、これ。
ヒカゲヘゴ。
まるでその陰から恐竜がヌッと顔を出しそうなほどに、太古の姿をとどめた巨大なシダ植物である。
亜熱帯の沖縄なら、山に行けばそこらじゅうで見られるけれど、残念ながら本土では育たない。が、日本本土が舞台のはずの映画「ラストサムライ」では、林立するこのヒカゲヘゴの陰から鎧武者たちが飛び出てくる。
そんなシダのオバケをいったいどうするのか?
食べるのだ。
大きく成長するとはいっても、シダ植物だからようするにワラビやゼンマイの親戚。その若芽は食用になるのである。
以前Yさんも一度食べたことがあるそうなのだが、味を忘れてしまったそうで、この機会に是非ヘゴを食べてみよう!というのが今回のエゴツアー、略して
ヘゴでエゴ!!
なのである。
そんなヒカゲヘゴ自体は、さすが亜熱帯石垣島、沢登りをしていていればいたるところに生えている。
が、食用に適した若芽を生やしている木はどこにでもある、というわけではない。
なので、美味しそうな芽、美味しそうな芽……と探していたら、
あった!!
が、ちょっと高いところにある……。
でも食べてみたい。
相手が食べ物となると理性がなくなるのは我々だけではなかった。ヒサコ隊長がすかさず肩車指令。
あ……あのぉ、ヒサコ隊長、うちの奥さんは元上司に肩車させてしまっていいんでしょうか??しかも、ようやく傷が癒えたばかりの方に。
こうして一つゲットできたおかげか、その後食べ頃サイズの発見が相次いだ。
僕も一本採ってみたところ、これってどう見てもあの形にそっくり…………。
あの形とは、これ!
撮影:ヒサコさん
ウキッ♪
どう見てもサルの尻尾でしょ?
無事に食材をゲットしたら、それまで若芽を求めて上ばかり観ていた視線に余裕が生まれた。
足元にも注意を払えるようになったのだ。
すると、こういうものがわりと数多く落ちているのを発見した。
アバター!?
これはエイワの使いか、はたまたケセランパサランか。
どうやら何かの植物の種らしいんだけど、いったいなんだろう?
調べてみると、サカキカズラという名前のキョウチクトウ科の植物らしい。そちら方面ではけっこう有名なようで、エルキューレ・ポワロの口ひげのような八の字の実の中に、このタンポポの種のオバケようなものがビッシリ詰まっているという。
それが熟してはじけると、このケセランパサランたちの旅立ちが始まる……
試しにこのタネを上にかざして手を放してみた。
それこそエイワの使いのようにフンワリフワフワと漂ってくれるのかと思いきや、まるでガリレオの重力実験のように、あっという間に地面に落ちてしまったのだった……。
これで遠くまで運んでもらえるの??
ともかくこうして、「ヘゴでエゴ」作戦は無事完了。
でもまだ我々には、次なる作戦が待っている。 |