16・エゴツアー実食編

 二度に渡る作戦を展開し、それぞれ戦果を挙げたエゴツアー。
 今夕、ついに実食タイム。

 ヘゴが食べられるということは知っている。
 一度食べたこともある。
 …というYさんたちではあったものの、はてさて、どうやって食べたっけ?という、最も肝心な部分の記憶が欠落していた。

 でもまぁ、こういうものはだいたいこうでしょう、というノリで、まずは先っちょのクルクルを落として毛皮のような皮を薄く剥き、ある程度のサイズに切ってから茹でる。

 ↓この部分は使わない。

 使う部分は、茹でたらこうなった。

 それを短冊切りにして…

 出来上がり(ちなみに作業はすべてYさんの手による)。
 あとは味付けだ。
 Yさん特製アンチョビバターソースとからし醤油マヨネーズの二通りの味で試してみたところ、どれもこれも……

 美味しいッ!!

 あの巨大オバケシダの姿からは想像がつかない上品な味。
 この絶妙な味をなんと表現すればいいのだろうか。
 オクラと山芋とウドを足してルート3で割ったような味?<わかんねーよ!

 けっしてどんぶり一杯をドドンと食べるようなものではないにしろ、付け合わせとしてそばにあったらものすごくオシャレなメニューになることは間違いない。

 うーむ、ヘゴもなかなかやる。

 そうやってYさんがヘゴを調理してくださっていた間、僕はビールを飲みながらこちらをいただいていた。

 カンギクガイという名の干潟で暮らしている貝で、これもアンパルでゲットしてきたもの。
 後ろでお猿さんが背負っている爪楊枝と比べてもらえればお分かりいただけるとおり、けっして大きくはない。
 でもなんだか、しみじみと懐かしい味がした。

 さあて、お次はいよいよ!
 吉と出るか凶と出るか、お待ちかねのシレナシジミ。

 「責任もって調理してね!」

 と当初からYさんたちに言われていたうちの奥さんと、どのように料理すれば「泥臭さ」が取れるかを相談。
 美味しかった、という近所のおばぁたちの話では、美味しく食べるためにはまず、

 「クソをとりなさい!」

 へ?クソって??

 美味しく食べるためには取らなければならないというクソ。
 いったいクソってなんだろう??
 そういえば、水納島のおばあたちも、マガキガイか何かの処理をしているときにその強烈な単語を使っていたような気がする…とうちの奥さん。
 普段はそんなエンガチョ系言葉を使わないおばあたちだから、不思議な思いで聴いた記憶があるそうな。
 ただし、水納島で採れる貝の食べ方は一応把握している我々なので、その時はその言葉の意味を追求しなかったという。

 今ここで「クソ」再登場。
 おそらく内臓部分のことであろう。そこが臭いの原因であろうことは想像に難くない。

 というわけで、まずは内臓部分を取るべく、ひと茹でして貝殻がパカッと開くと……
 貝殻の大きさに比して、中はこんなに小さかった。

 あなたって、見掛け倒しだったのね……。
 そのうえその内臓を取り去ると……

 少なッ!!

 まぁしかし、これを「サイズのわりに…」とか「労力のわりに…」なんてことと比してしまうと、小さくなってしまった貝がさらに身もフタもなくなる。
 人生的ヨロコビとは、いつも無駄の先でこそ待ってくれているのだ。

 というわけで、内臓を取ると貝の旨み部分まで取り去っている気がしなくもないものの、当初の計画通り、塩、オリーブオイル、ちょっぴりガーリック、ハーブの代わりに人参の葉……をかけてグリルに投入。

 待つことしばし。
 そして焼きあがったシジミちゃんにシークヮーサーをひと絞りして……

 完成!!(ちなみに、作業はすべてうちの奥さんの手による)

 はたしてお味は??

 美味いッす!!

 全然泥臭くない!!
 むしろサザエのつぼ焼きよりよほど高級な感じがする。ここは白ワインでしょう!!って味ね。

 ラムサール条約がどれほど格の高い条約かは知らないけれど、そこにはけっして、『「クソ」は取りなさい』というおばあの教えは書かれてはいまい。

 とにかくヒサコさん、騙されたと思ってお一つどうぞ!!

 「美味しいッ!!」

 本当に騙されたと思って食べたヒサコさんだったのだが、予想外の美味しさに目を見開かれていた。

 Yさんもどうぞ、美味しいですよ!!

 「私は食べない」

 まぁそうおっしゃらずにどうぞ!!

 「私は食べない」

 美味しいですって!

 「私は食べない」

 急に頑固ロボットC−3POになってしまったYさん。
 しかしこれには深〜いワケがあったのだ。
 というのも、ここでもしYさんが試食して、おまけにそれを美味しいなどと口にしてしまったら。

 間違いなくヒサコさんは、またお友達と大量ゲットに赴くことになるだろう。
 そしてその戦果を処理するのは………

 「私がやる羽目になるのは間違いないでしょう」

 今この場での一口のシアワセが、後の大変な労働になってしまうという、先読みのシャアもびっくりの深読み。

 人間、欲望だけで生きていてはいけないのである。
 しかし、この思いもかけない美味しさに、ああ、逃がさずに全部持って帰ってきたらよかったぁ…と悔やむうちの奥さんは、欲望だけで生きている人間の最たるモノであることは間違いない。

 もちろんながらこの夜も、これら実食アイテムのほかに、Yさんが海で獲てきた海の幸、ヒサコさんが丹精こめた畑の野菜たちのオンパレード。
 これで酒が進まないはずはない。
 普段家ではほとんど飲まないという、Yさんの生活スタイルを破壊しまくる連夜の深酒モードになってしまった。

 しかも、昨年に引き続き特大甕の古酒を飲ませていただいた。
 この甕、あまりに巨大なために一人で持ち運びすると腰が砕けてしまうほどなので、昨夜はYさんとマサカッちゃんとでリビングまで持ってきてくださった。
 それを、ほぼ一人で飲んでいた私……。
 どうせ翌日も飲むから置いたままでいいよぉ、というお言葉に甘えて置きっぱなしにし、今宵もまた一人で飲んでいたのだけれど………

 そのままずっと置いたままにしてしまった!
 翌朝我々がYさん邸を去ったあと、ご夫妻で元に戻していただくことになってしまったのは間違いない。

 さんざん飲み倒して、その持ち運びに1ミリも貢献できませんでした。この場を借りて、深くお詫びいたします………。

 美味しかったなぁ……。


置き去りにしてしまった巨大甕……