17・ふくみみツアー・カヌーでGO!

 翌朝。
 さんざんお世話になりっぱなしのままYさん邸をあとにした我々は、一路野底を目指していた。
 9時に迎えに来る、という約束どおりに、ふくみみ・おーほりが迎えに来てくれたのである。

 9時に、と約束しておきながら、その直前までYさんスペシャルブレックファーストを楽しんでいた我々は、彼が9時キッカリにYさん邸に到着した頃にはまだ荷物もまとめておらず、着替えてすらいなかった。

 「まぁ、コーヒーでも飲んでってもらえばいいか…」

 などと事前に言っていたのは言うまでもない。

 さて、この日の我々はいったい何を?

 今日はエコツアー!!
 エに濁点がつかない正真正銘の、ふくみみのエコツアーに参加するのだ。
 話の流れでマーペーさんに案内してもらった昨年とは違い、今回は旅行前からふくみみにはエコツアーをお願いしてあった。
 ちゃんと客になるから、ふくみみのエコツアーを体験させてください、と。

 どれもこれも面白そうな様々な冬メニューのなかから我々が選んだのは、メニューの中でひときわ異彩を放っていた「廃村ツアー」。
 エコツアーで廃村めぐり??
 面白そう。
 ここは我々夫婦の意見が一致した。

 ただし、廃村ツアーは半日で済むので、もう半日をどうするか。

 「オモトダケに登ってみた〜い」

 といううちの奥さんのワガママをなんとか押し切ったものの、ではどうするかという具体案はまったく考えていなかった。
 かわりに、ふくみみ・おーほりが考えてくれていた。

 「カヌーでマングローブに行ってみます?」

 そうそう、それは面白そうって思ったんだけど、潮が合わないんじゃない??

 「今から行ったらちょうど満潮だし、大丈夫ですよ」

 あ、そうか!
 我々はもう最初は廃村ツアーって端から決めていて、そうなると午後は干潮だから潮が合わないよなぁ…などと思っていたのだが、順番を変えればよかったんじゃないか。

 というわけで、まずはカヌーでGO!!

 一年ぶりにふくみみ邸に到着すると、我々の今宵の宿泊のための掃除をしてくれていたらしいのりだーが迎えてくれた。
 先日の飲み会の席で、当日は今朝9時に、という約束をしたのは彼女とうちの奥さんだったのだが、9時の時点では互いにそれどころではない状況だったらしい……。

 とりあえず荷物を置かせてもらって。
 さあ、カヌーでマングローブへ!!

 場所は吹通川というところで、カヌー出発基地は、河口に広がる海岸縁にあった。

 カヌーといえばオールを使う。
 シーズン中は台風避難のたびに、ウィンドサーフィンボードに乗ってカヌー用オールを使っている僕なので、その使い方はだいたい知っている。
 でもうちの奥さんはそういうわけにはいかないから、レクチャーからスタートだ。

 なんか、スキーのときみたいにオタマサになりそうな気がするんですけど……。

 そしてふくみみ・おーほり指導のもと、いざ船出!!

 ……うれしいらしい。
 風はほとんどなく、波もない抜群の状況のもとで、ここから河口までまわり、いよいよ吹通川をさかのぼり始める。

 ……さらにうれしいらしい。
 周りにはマングローブ林が広がっていた。
 生い茂るマングローブ林が生み出す支流がいくつかあって、その一つに進入。

 そういえば、ここ吹通川といえば。
 その昔、某有名海洋写真家がまだ有名でもなんでもなく、それどころか「写真家」ですら自称でしかなかった頃。彼がここ吹通川でおこなった取材を、かつて僕が勤めていた雑誌で記事にしたことがある。
 題して

 「KINDON マングローブ域をゆく」

 将来、自身がどうなるか、まるで大雨のあとのマングローブ域の水のごとく不透明だったあの頃、彼は一人でこの川の中で潜っていたのだ。
 もう20年くらい前になる。

 あの頃彼のカメラに収まった数々のお魚さんたちは、まさか彼がその後世界を股に架ける海洋写真家になろうなどとは思ってもいなかったことだろう。
 いや…ひょっとして、動物的勘ですでに察知していたか?

 多少の感慨に浸りつつ、カヌーを進めていくと、あたりは獅子神様が出てきそうなマングローブの密林に。
 しばし見とれるオタマサ。

 風の音、鳥の声、そして木漏れ日………。
 こりゃあまったく、ここにしばらくじーっとたたずむだけでも来る価値がある。

 ……とってもうれしいらしい。

 我々がそうやって見とれている間、ふくみみ・おーほりは……

 仕事をしていた。
 カヌーのコースを遮っている倒木を、なんとかカヌーが通れるようにしているのだ。
 ここのところずっと気になっていたそうで、この機会に……とばかり、この日はノコギリを持参。
 お客さんのための裏方仕事は、どんな仕事にもちゃんとあるのだ。

 さらにこの支流をさかのぼったところで、半舷上陸。
 マングローブの密林を歩いてみた。
 その根元ごとに、オキナワアナジャコの巣穴がモリモリモリと盛り上がっている。

 場所によっては、昨年10月の雨の際の激流でこの巣穴が壊滅したところもあったらしいのだが、そんな場所でも、その後着実に復活。
 延々と続くその風景は、まるで南米で福山雅治が見たシロアリの塚のようだ。

 このマングローブに棲息するすべての生物が、どれもこれもいつでも力の限り絶好調状態だったら、それはそれでうまくいかないこともあるのだろう。右に左に微妙な勢力的バランスを保ちながら繁栄を続けているってことは、つまりその時々で勢力が減退する動物や植物がいるってことでもある。

 だから、ときどきこうしてシャコの巣穴が流されるというのも、長い目で見たバランスという意味ではあってもおかしくはないのかもしれない。

 ただ、それが度を越してしまうと……?
 昨年10月の雨は、たしかに自然現象ではある。
 でも、それは本当に「自然」なのだろうか。
 その後も各地で繰り広げられている気象観測史上前例がないほどの異常に偏った気象のもとで、マングローブ域をはじめとする様々な自然環境はその微妙なバランスを維持し続けられるのだろうか…。

 そのあと我々は、別の支流を遡った。
 大きなガジュマルの木があるという。
 最近の業界的新発見だそうで、まだふくみみ・おーほりも目にしていないという。

 というわけで、明日のふくみみのため、ガジュマルを捜索するのだ。

 再び半舷上陸し、話を聞いてある程度見当をつけていた彼について歩いていくと…………

 あった!!

 たしかに、いかにもキジムナーが住んでいそうな、存在感のある立派なガジュマルだ。

 ところで、ガジュマルといえば。
 ハワイあたりではバニヤンツリーなどと呼ばれ、店の名前にも使われたりすることがあるこのガジュマルは、その生い茂る木のありようのため、古木ともなると相当こんもりする。
 キジムナーが住んでいる…という伝承があるのも当然なくらいで、何かがいる………と感じさせるものがたしかにある。

 で、昨夜Yさん邸でもそういう話になっていた。
 水納島にもちょっと奥まったところに立派なガジュマルがあるんだけど、おばあたちによると、そこはフツーに「何かある」場所だというのだ。
 それも、まことしやかに声を潜めて…とかではなく、ごくごく普通に、ハトがとまっているよ、というのと同じくらいのノリで。

 また、まったくそれとは関係なく、島を訪れたとある方が不意におっしゃることには、

 「あの辺はなんかあるよ………」

 その方は普段から「気」関係の特技(?)を持っておられる人で、おばあたちの話なんて微塵も知らないにも関わらず、いきなり感じた場所が水納島でも有数の「そーゆー」ポイントなのだった。

 そんな話をしていた翌日に……。
 こんな大きなガジュマルが目の前に。

 しかも!!

 このガジュマルの直下に、こんなものが!!

 ヒェーーーーーーッ!! 

 こ……これ、ヤギですかね………??
 マジでヤラセでもなんでもないんですよ。
 こんな頭骨なんて、潮の満ち干でどうにでも転がっていきそうなものなのに、我々がここにやってきたこのときに、まさにガジュマルの下から正面を見据えて……!!!

 ここからこの旅行記は一気にホラーになっていくのか!?

 と思ったら…


ウーホホーイ♪

 おあつらえ向きにガジュマルから垂れ下がっている蔓で遊ぶオタマサ。
 シーサーでもヒンプンでも石敢當でもなく、こういう人が一人いさえすれば、それですっかり魔除けになるような気がする……。

 裏側の岩伝いに、ガジュマルに登ってキジムナーになってみた。


撮影:ふくみみ・おーほり

 するとそこからの眺めは、下からはけっして見られない、マングローブの樹冠が広がる世界だった………。

 そんなこんなで、ふくみみエコツアーによる我々の人生初レジャーカヌー体験は、マングローブの素晴らしさとちょっとしたホラーを味わいながら、無事に終了したのだった。
 ふくみみ・おーほりも、本日の目的をはたせてなにより。

 さあて、このあとは昼食だ!!