33・麗しのモツバーガー

 楽しいあまり、バッラロ市場を隈なく歩ききった我々。
 歩ききりすぎて、その後通りに出たはいいけど、はたしてそこがどこだかわからなかった(そこに出てくる予定ではなかったのだ)。

 勘を頼りにテキトーに歩いていると、パレルモの駅が見えてきた。
 あ、いつの間にかローマ通りに出てた……。

 パレルモの銀座と言っていいローマ通りを、再びヴィットリオ・エマヌエーレ通りまで戻る。
 お昼ごはんはここで食べよう!という店は、クアットロ・カンティ周辺の界隈にいくつか目星をつけてあった。

 迷うことなくたどり着いたものの……

 時刻はまだ11時過ぎ。
 早くても12時、たいてい12時半からオープンというのが相場のこのあたりの飲食店である。この時間にはとてものぞめるものではなかった。
 かといって、ここでバールなどに入って軽く何か食べてしまうと、そのあとお昼が入らなくなりそうだし……。

 うーん、どうしよう?

 そうだ!!
 あそこへ行こう!!

 そこならたしか11時からオープンのはずだった。
 すかさず懐に入れてある自家製局所抜粋地図を取り出し、その店を目指す。
 目指すは………

 アンティーカ・フォカッチェリア・サン・フランチェスコ。

 1834年創業という、その名のとおり老舗中の老舗のフォカッチェリアで、なんといってもここの名物は…

 モツバーガー。

 モスバーガーではない。
 日本人が便宜上そう呼び習わしているだけで、本名はパニーノ・コン・ミルツァ。
 簡単に説明すると、ハンバーガーのなりをしていながら、中身はモツが入っているという、パレルモのB級グルメ界きっての名物料理だ。

 我々夫婦の、パレルモで食べたいものランキング上位5位以内に入っていたのはいうまでもない。

 かなりわかりづらい場所だったものの、珍しく冴えたカンが見事に当たり、迷うことなく到着。
 お昼にはまだ早いこの時間、さぞかし空いているだろう……

 と思いきや。
 遠足もしくは修学旅行らしきラガッツィたちでごったがえす店内。

 ハマッてしまった!!

 我々夫婦だけだったら、迷うことなく引き返していたことだろう。
 が、ここで休憩しなかったら電池が切れてしまう人約1名。
 ここでの休憩なしに、この先さらに歩き続けるわけにいかない。

 しょうがないので少年少女でごったがえす店内に入り、二人には階上の席に陣取ってもらった。

 このお店は、最初に入り口近くにあるレジで食べたいものを注文して会計を済ませ、レシートをもって各コーナーで望みのものを受け取る、というシステムになっている。
 それは知っていたものの、その日何が食べられるのか、会話で詳細を把握するのは難しいから、ウィンドウケースを眺めながらゆっくり吟味したかったのだが………

 ピーチクパーチク、まるでインコ・オウム専門店の鳥さんたちのようなラガッツィが、ウィンドウの前に陣取ったまま。
 とてもじゃないけど、ゆっくり品物を見ていられない。
 まぁ、モツバーガーの正式名は知っていたし、ワインもあるだろうし、そのほか生野菜が不足しているからサラダなどを頼むことにした。

 ただし、オーダー・会計をしたい人々が、日本のようにレジの前に整然と並ぶなんてことはない。
 ウカウカしていると、いつの間にか後ろにいる少年少女や一般客が横入りしてしまいかねないお国柄なのだ。
 主張しなければならない国なのである。

 なので僕も、次の次の次はワタシである、次の次はワタシである、次はワタシである、と主張し続け(立ち姿で)、ついに順番が周ってきた。

 普段レジには、オネーサン(オバサン)がいると聞いていたのに、この日は愛想もクソもないオッサン。
 どうやら店内も、この降って湧いた修学旅行ラッシュにてんやわんや状態のようで、普段は店にいないはずのオーナーらしきイブシ銀のおとっつぁんがレジにいるのだった。

 レジを済ませ、待望のモツバーガーを受け取る時には、すでにラガッツィは席についていて、店内は平穏状態に。


撮影:オタマサ

 その一部始終を眺めていた二人。

 そんな状態だったので、ただ注文するだけのことが、ここから眺めているととてつもない大仕事……………のように見えていたらしい。
 なんとか食べ物を手にし、階上の席に上がると、

 「おつかれさーん!!」

 父ちゃんから大歓待を受けてしまった。
 いや、それほど大仕事でもなかったんですけど……。

 さあみなさん、これがモツバーガーです!!

 チーズがとろりととけているので、絵的にはなんだかかえって不味そうに見えるけど……
 正式名、パニーノ・コン・ミルツァ(シチリア弁だとパーネ・カ・メウサになるらしい)、このお店では、フォカッチャ。
 それは、牛の脾臓のスライスを豚の脂で煮込んだ肉をパンに載せ、リコッタチーズをたっぷり乗っけてさらにナントカチーズをたっぷりかけ、レモンの汁をたらして完成するバーガーだ。


モツバーガーの具一式。

 面白いことに、肉の座りをよくするために、パンの中身のかなり多くの部分を千切っては投げ、千切っては投げて捨てていた。
 あのパンの中身はその後どうなるのだろう??

 日本人観光客の中には、名物料理ということで興味を示しつつも、「えー、内臓系??」と知って尻込みする方が多いらしい。
 いやあ、本当の美味しさを知らない人たちは不幸ですなぁ。

 沖縄在で中身汁をこよなく愛する我々が躊躇するはずはない。
 父ちゃんも、モツ系をはじめとする内臓関係は昔から好物らしい。
 そんなわけで、期待とともにいざ実食!!

 まいうーッ!!

 美味い、美味すぎるッ!!
 これでお一つたったの2.5ユーロ。
 安い……安すぎる!!

 この店は有名なので大勢の観光客が訪れるけれど、もちろん地元の方々にとっても大事なお店だ。
 だから、ラガッツィの嵐が過ぎ去った店は、地元の方ばかりになった。
 モツバーガー製造ブースをに目をやると、男性がシアワセそうに完成を待っていた。

 B級グルメとはいえ、地元のシニョーレが普通に食べに来る店なのだ。
 すぐに出来上がるであろうモツバーガーに思いが行っているのか、シニョーレは終始ゴキゲンな表情で、見上げた拍子に僕と目が合ったときもニコニコと挨拶してくれた。

 きっと普段のこの時間だったら、これくらい空いてるんだろうなぁ!

 期待を上回る味に舌鼓を打ちならしつつ、こうしてモツバーガー初体験は終わった。