余録3・御所の細道

 

 京都第2タワーホテルのチェックアウトは11時。

 このあと滞在する大阪の実家には、この日午後3時頃に到着する旨知らせてあったから、午前中はたっぷり時間がある。

 11時までたっぷり休養した後は、昨夜の大事件など何事もなかったかのようになっていた我々。

 ホテルをチェックアウトし、京都駅のロッカーに荷物を預け、烏丸通りを一路北上し始めた。

 がんばるオジサン!ご夫妻が教えてくださったことには、なんと烏丸通りの先に、イノシシを祀っている神社があるというのだ。

 前夜さんざん味わい尽くしたイノシシさん。
 感謝を捧げるためにも、この際是非足を運んでおかなければなるまい。

 でも歩いて行ける距離なんですかね?

 「植田さんらやったら全然大丈夫やって!」

 と、がんばるオジサン!から太鼓判をいただいてはいた。

 が。

 一本道ながら、歩いても歩いてもなかなか到着しない。
 地下鉄にして駅4つ分の距離だったのだ。

 充分遠いですって!!

 帰りは地下鉄に乗ることにしよう……。

 でもそのおかげで、京都に昔からある童歌の、

 〜♪丸竹夷二押御池〜姉三六角蛸錦〜四綾仏高松万五条……

 の歌詞を、(「とどめさす」よりはずっと途中から)逆に遡って通っていけたのが面白かった。

 で、結局1時間ほど歩いた果てに……

 いのしし神社こと護王神社に到着。

 ここは足腰にご利益のある神社でもあるという。
 到着するまでに足腰ヘロヘロになった我々にはおあつらえむきかもしれない…。

 しかしどちらかというと、今のオタマサには足腰じゃなくて胃腸のお守りのほうが必要な気が……。

 ところで、真ん中下段に写っている妙なモノ。
 これはこうするものらしい。

 これをクルリと回すことによって、本来であれば読破するのに人生をかけねばならないほどの有難い有難いお経をすべて読み終えたことになるんだとかならないんだとか。

 詳細はわからないけど、とにかく有難いご利益付きのようなので、大事件の主犯はそのまま1000回くらい回していなさい。

 別名いのしし神社と呼ばれているだけあって、境内はイノシシだらけだった。

 狛犬は狛猪。

 そして手水も猪から。

 

 ……って、イノシシのゲロで手を洗うってどうなのよ。

 ゲロすらもありがたいのである。

 ちなみにこの手水のイノシシさんの鼻を撫でると幸が訪れるそうで、 みんな触るから鼻だけ北野天満宮のなで牛さんのようになっていた。

 イノシシだらけの境内には、全国津々浦々から寄せられた各種イノシシフィギュア展示コーナーすらあった。
 時にはホンマモノの猪さんがおわすこともあるという。

 イノシシを祀るだなんて、なにやらチャラけた今出来の神社??

 さにあらず。

 なんとその由来は、女性天皇をたらしこんで権力の座に就くという、日本ではかなり稀なことをしでかした弓削道鏡を追い落としたことで名を馳せた、和気清麻呂にあるというのだ。

 道鏡の手によって窮地に陥った和気清麻呂を救ったのが、乙事主に率いられた…かどうかは知らないけど……イノシシ軍団だったというのである。

 そのエピソードはかなり眉唾ながら、いずれにしても、皇統を保持した忠義の臣、そしてその彼を救ったイノシシ軍団。

 国家神道の時代となった明治後に、それらを祀らぬはずはなかった。

 というわけで、イノシシ神社こと護王神社がこの地にできたのは、明治の世のことなのである。

 とりあえず、和気清麻呂には縁がないけど、イノシシさんには感謝感謝して参拝を終えた。

 さて、忠義の臣を祀る護王神社というくらいだから、すぐ目の前にかつての皇居、京都御苑がある。

 護王神社からテケテケ歩いてみると、京都御苑で最も有名であろう門にたどり着いた。

 ご存知、蛤御門。

 その昔、この蛤御門をアサリゴモンと真面目に読み間違えて僕を笑わせてくれたのは、他でもない鳥羽のタコ主任である。

 以前も、それもがんばるオジサン!のご案内で、この場所に立ったことはあった

 でも、何を隠そう僕もオタマサも、これまで一度もこの門の向こうに入ったことがない。

 京都御苑内は自由に出入りできるので、御苑の東西を行き来するための生活道路にすらなっているほど。

 ここまで来たら、せっかくだから中に入ってみよう!

 ……と門をくぐりかけたら、蛤御門の脚に、寒さのあまり気絶しそうになっているカメムシがいた。

 ……さすが古都、カメムシまで雅ですなぁ。

 さてさて人生初の京都御苑!!

 広いッ!!

 広いッ!!

 でかいッ!!

 

 ってゆーか、こういう写真を金沢で撮りたかったんですけど。

 こんな青空、金沢滞在中に一度も観なかった……。

 それにしても、陽気に包まれた行楽日和のお昼時、京都のど真ん中だから観光客でごったがえしているのかと思いきや、観光客はパラパラといる程度で、ほかはジョギングしているヒトや自転車に乗って行き来しているヒトがいるだけ。

 実にのんびりほのぼのとした空間である。

 ここからほど近いところにご自宅があるがんばるオジサン!が、散歩コースにしておられるのもよくわかる。

 彼が子供の頃は、畏れ多くもこの土塀にボールを当てて、よく一人キャッチボールをしていたのだとか。

 日本にもおおらかな時代があったのですな。

 ボールを当ててもお咎めがなかったくらいなのだから、今でもこれくらいならきっと許してもらえるに違いない。

 建礼門前の大の字♪

 世が世ならその場で殺されてるかも……。

 たとえ世は許してくれても、にわかにかき曇る空。

 ……神罰でしょうか。

 いやあ、それにしても広い。
 こんなに空いていてポカポカ陽気なのだったら、来る途中の道端で売られていたお弁当でも買って、数多く設けられているベンチでゆっくりお昼ごはん……てことでも良かったなぁ。

 ところで、御苑内では自転車も通行しているんだけど、ご覧のとおり地面は隅から隅まで砂利が敷かれている。
 自転車は乗りづらくないんだろうか…と思っていたら、

 自転車の通り道だけ、砂利が払われているのがおわかりいただけるだろうか。

 同じ場所を何台も自転車が通行することによって自然にできるそうで、ひとたび道ができあがると、みんなそこを通るようになるという。

 これを京都では「御所の細道」と呼んでいるんだそうな。

 なんだかステキ。

 いい時間になったので、建礼門前の大通りを南下。
 とにかく広い。

 御苑内には様々な種類の木々がたくさん植えられていて、さながら里山のような雰囲気もある。

 もちろん野鳥もたくさんいた。

 これはイカルという小鳥。

 沖縄では、いないといっていいほどまず見ることはできない鳥さんだ(ごく稀に迷鳥として渡ってくることがあるらしい)。

 それがここでは、群れ集って餌を啄んでいた。

 群れ集わずに単独でいたのはこちら。

 多分ビンズイ。

 沖縄にも冬になると渡ってくる野鳥ではあるものの、これまで水納島では観たことがない。

 京都御苑内ではありふれた冬の野鳥も、我々にとってはどちらも人生初の出会いなのであった。

 がんばるオジサン!も、大きなカメラを抱えてここ京都御苑にバードウォッチングに来るという。
 息をひそめて、カワセミやアオバズクにカメラを向けているそうだ。

 でも、水辺がないところでカワセミなんているんだろうか??

 そんなこんなでまさかのバードウォッチングをしつつ、のんびり歩き続けると、御苑南端にあるのがここ。

 公家さんの屋敷跡で、敷地内にはこんな広大な池も(神社もあった)。

 そりゃカワセミもいるはずだわ!

 初めて入ってみた京都御苑、思いのほか素晴らしいところだった。
 清水寺だ、金閣寺だ、二条城だ、と多くの観光客に混じりながら慌ただしく巡るのもいいかもしれないけど、こういう場所でホゲーッと過ごしてみるってのも、ある意味京都っぽいことなのかもしれない。

 このあとどこかで和菓子とお茶でも……なんてことだったら最高ですな。

 しかし我々にはもう残された時間はなかった。

 束の間の京都観光、これにて終了!!

 さて、京都駅から実家の最寄駅摂津富田まで、時間にしてほぼ本部から名護まで行くくらい。

 快速に乗って高槻で乗り換えたら、あっという間に着いてしまった。

 そんな摂津富田の駅で、ふと目についたJRのポスター。

 いや、けっしてキャンディーズのファンだったわけではない。

 この伊藤蘭の背景、これってひがし茶屋街じゃね??

 併設されているモニターでは、この「おとなび」のCM動画が流れていた。

 やっぱり金沢、ひがし茶屋街だ!!

 僕たちは一昨日ここで寿司食ってたんだよなぁ……。

 訪れたことがなければ絶対に気づくことはなかったであろう風景が、一度訪ねただけでグッと身近なものになる。

 旅行って、ホントにいいもんですね。