〜湯けむり地獄うどん旅〜

別府地獄組合

 やや呆気にとられつつ貴船城を後にした。
 この後はいよいよ地獄めぐりである。そのためにはいったん元の場所まで戻らなければならない。
 同じ道を通るとつまんないので、沖縄風に言うと「スージィグァー」をクネクネと歩いてみることにした。ようするに小さな筋である。
 路地裏のあちこちから、湯けむりが噴出している。ボイラーからの激しい噴気もあれば、排水溝からの柔らかい湯気もたくさん。町並みは、見ようによっては
 「古臭い」
 のだが、古くからの温泉街である。それを楽しむつもりで見れば、
 「レトロ感たっぷり…」
 ということになる。なんだか意味が同じようだが、ネガティブにとるかポジティブにとるかの違いだけで、まったく金をかけずとも同じ風景が観光資源に生まれ変わるのである。3セク企業には考えつくまい。

 この町並みをただただ歩き回りたかったが、今はとにかく地獄めぐりをせねばならない。なぜかうちの奥さんが燃えている。 

 別府といえば地獄めぐり、というほど有名なこの温泉地獄、実は鉄輪がその中心地なのである。
 別府市内にはウソかまことかなんと数十ヶ所も地獄があるそうで、それらを全部めぐってしまえば杜子春も真っ青の地獄体験だろう。もちろん、とてもそこまでは周れない。そんななか、もっともメジャーな地獄めぐりが、代表的な8つの地獄を巡るコースである。
 この代表的な地獄を経営している人たちは組合を作っている。その名も
 「別府地獄組合」
 という。大真面目な組合である。なんだか田舎のアカヌケナイやくざの組みたいなんだが…。

 地獄地獄って、なにを大げさな……と思われるかもしれない。
 そんなあなたは泉温を思い出していただきたい。
 地中深くから、100度近い熱湯や蒸気や熱泥がものすごい勢いで地表に現れているのである。
 無理やり掘って温泉地となったところと違い、もともと天然の湯が湧いていたこの地域、今のように観光名所となるはるか以前から、すさまじい噴気と熱気が人をまったく寄せ付けなかったのだ。そんな場所を地獄と言わずしてなんと呼ぶ。

 この八箇所、全部タダで入れるなら感動的なのだが、やはりそこはそれ、地獄組合まであるのだからもちろん有料である。1ヶ所につき、400〜500円。
 ん?ちょっとまてよ、それを八箇所も周ると………。
 そんなあなたに便利な八地獄共通券。2000円で八箇所全部周れるんです!!
 「えーっ!!たった2000円で八箇所全部!?安いですねぇー!!」

 などとテレビショッピングごっこをやっている場合ではない。
 たしかに2000円はお買い得だが、ようするに5箇所以上周らないと元はとれない、ということではないか。
 さいわい、鉄輪近辺に六ヵ所が近接している。あとの2ヶ所は、あるガイドブックによると
 「血の池地獄、竜巻地獄以外は徒歩で周れる……」
 とあった。そうか、歩くとつらいのか。ほんじゃ6ヶ所でいいか。

 と僕は思ったのに……。