3・旅行前2

ケニアはコワイ?

 ケニアは、正式名称をケニア共和国という。
 その国土は日本の約1.5倍の面積、人口は3200万人ほど。
 スワヒリ語を国語とし、英語を公用語とする。
 その他モロモロ、お国柄についてはいろんなガイドブックに細かく載っている。
 そんなガイドブックの中でも有名なのが「地球の歩き方」。それを読んで、僕が最も驚いたのは、なんといっても

 歩かないで!

 そう随所に書いてあったことだった。
 「地球の歩き方」というタイトルのくせに、歩くなという。
 たとえば首都ナイロビのページ。
 わざわざ「歩き方」という小見出しをつけておきながら、

 ナイロビは歩かないでタクシー利用で

 と書かれてある。
 それほどまでに、治安が悪化しているのだ。

 冷戦時代、西側諸国にとってのケニアは、アフリカでの優良国ということで、先進諸国に手厚く遇されていた。ところが東西の対抗路線が終了するとともに、ケニアへの経済的援助は著しく低下、必然的にケニアの経済は低空飛行を余儀なくされた。
 それだけならともかく、冷戦が終了するとともに、行き場を失ったあらゆる武器が、今度は途上国の部族間闘争へと垂れ流される。
 映画「ブラックホークダウン」の舞台であったソマリアも、要するに国内の部族間の闘争だ。
 ソマリアなんて、いまだにそのへんの子供だってライフルを持っているくらいに武器が流通しているんだろうなぁ……。

 と思っていたら。
 なんとケニアとソマリアは国境を接しているじゃないか!!

 そんな国々から銃器がいともたやすく流れ込むようになったため、経済の悪化にともなって凶悪犯罪が絶えなくなってしまったらしい。それまではただの引ったくりですんでいたものが、強盗殺人になってしまうのである。
 そんなわけで、どこへ行くにもホテルからは必ずタクシー利用で、としつこいくらいに書いてあった。
 また、外務省が一般国民向けに発表している渡航情報でも、ケニアは

 なるべくなら行かないほうがいいんじゃないの…

 的な表現になっている。特にソマリアと国境を接する北東地区は、

 行くな

 と、にべもない。

 とにかく、読めば読むほど、調べれば調べるほど、ナイロビがスーパーデンジャラスゾーンであることがわかってきた。
 こんなところを経由して、はたして我々は無事に目的地までたどり着けるのだろうか?
 目的地に到着さえしてしまえば、あとはのんびりできるだろう。ソマリアあたりの国境付近は、山賊まがいの強盗団があちこちに出没しているらしいけれど、マサイマラはタンザニアとの国境。まったく反対側だ。

 と思ったら。
 昨年、サファリ中に強盗団が出現し、邦人観光客が指を切られたことがあったという。
 まったく……なんてところなのだ、ケニア!!

 そういったことをもともと知っている人は数多くいた。
 違いのわかる男は、その治安の悪さを憂慮し、我々に旅行先の再考をマジメに促していたほどだ。
 中東を駆け巡るナゾの旅行者ウロコムシさんでさえ、僕1人ならともかく、マサエさんもいるんだからけっしてホテルから出てはいけないよと、いつになく真剣にアドバイスをくれる。
 若い頃は世界の海を又にかけていたウミンチュ・キヨシさんですら、かの地のデンジャラスさを僕らに語る。

 うーむ……。
 ひょっとしてヘタしたらヘタすることもあるんじゃなかろうか…。
 だんだんそんな気がしてきた。

 なので、万一の場合に備え、遺言状を残していくことにした。
 旅行保険金の受取人、うちの船の行く先、ダイビング器材、アヒル、オウム、カメ………。
 さしたる財産はないけれど、手のかかるものが多く残ってしまうから、そのあたりははっきりさせておかなければならない。

 なかには「シメシメ」と思っていた人がいたかもしれないけど………。