33・2月5日

そしてナイロビ

 僕たちの行きの飛行予定がいかにラッキーだったかということを、この帰りに思い知った。
 何度も離着陸を繰り返すとさすがにうっとうしい。
 耳抜きに不慣れな小さな子供だったら、けっこう苦痛なのではあるまいか…。

 ただし、飛行機から眺めるサバンナの風景は素敵だ。
 ヌーの群れやゾウさんたちがよぉ〜く見える。
 このルートの下に大地溝帯があるらしいのだが、上から見るとどこがどう溝なのかさっぱりわからず、やがてあきらめて機上の午睡人となった。

 そして。
 もともと都会だということはわかっちゃいるものの、マサイマラから帰ってくると、ナイロビの街はとてつもない大都会に見えた。大都会と動物たちの世界は、けっして両立はしない。それを考えると、このナイロビの繁栄が、やがては動物たちの暮らしにさらなる影響を与えていくのは間違いないだろう。

 ウィルソン空港に降り立ち、ターミナル(というほど大きな建物ではないけど)を出ると、ジャクソンが迎えに来てくれていた。
 なんだか懐かしい。

 「どうでしたかぁ?」

 「とんでもなく素晴らしかった!面白かったよジャクソン!!」

 社交辞令でもリップサービスでもなんでもない。心の底からの感想である。
 遠足から帰ってきた子供のように、滞在中の出来事をいろいろ話す僕たちだった。
 ところで、実はバルーンサファリをこの日裏技的に果したIさんご夫妻も、我々と同じ旅行社、ファイブスタークラブを利用されていた。なのでナイロビでのケアーは、我々と同じストロング・テッコーツアーだ。
 だからこの先ナイロビ空港までの時間を共に過ごすことになるのかと思いきや、それぞれ別々の車を用意してくれていた。
 途中に寄る行き先の一つは同じなのに、2組のゲストのために2台の車。
 うーむ、やるなテッコー&ファイブスター。

 土産話に花を咲かせつつ、我々が目指すのはカーニボアという、主に観光客を主要ターゲットにしている焼肉屋だ。
 牛、豚、鳥、ダチョウ、らくだ、ワニ…………その他いろいろの肉をワイルドワイドに食べるお店である。
 ジャクソンとの待ち合わせ時刻を定め、ゆっくり食事をした。
 タスカービールでの最後の乾杯でもある。

 
(左)まるで乱入してきたタイガー・ジェット・シンみたいだが、彼は穏やかな人物である。 
(右)ここでありとあらゆる肉を焼く。

 ここではインパラの肉を食べられることもあると聞いていたので、ヘンリーからさんざん美味い美味いと聞かされていた僕たちは、是非ともインパラを食べてみたかった。しかし残念ながらこの日インパラの肉は用意されてはいなかった……。
 次々に出てくる肉を「美味い美味い」と食べているうちに、時間は思いのほか速く過ぎていったようだ。定められた時間までたっぷりあると思っていたら、デザートを食べる頃にはすでにジャクソンとの待ち合わせの時刻まであとわずかになっていた。
 大量だったものなぁ……。

 カーニボアをあとにし、次は僕たちが行きの時点でリクエストしていた場所に行ってもらうことにした。
 土産物を買うのだ。

 何かケニアらしい食品を買うなら、観光客向けの土産物屋よりも、地元の人が通うスーパーがいいに決まっている。そこなら、間違いなくあれも手に入る。
 そう、これだ!

 タスカービール1ケース!!
 この流通の時代、東京あたりに行けばタスカービールなどいともたやすくゲットできるのかもしれないが、水納島ではなかなかそうもいくまい。ちょっとした話のタネ代わりの土産として、これ以上のものがあるだろうか。<たくさんあると思います……。
 問題はでかすぎて重過ぎるということだった。
 瓶は重いから缶がいいよ、とジャクソンが言ってくれたとおり、缶ビールを1ケース買ったのだけれど、当たり前のことながらそれでも重い。
 仕方なく無理矢理うちの奥さんのソフトキャリーに詰め込むと、このバッグはただのビール入れになってしまった。
 そのほか、珈琲や紅茶などなど、島の各家庭にそっと渡せる程度のお土産を買う。
 それにしてもこのスーパーの棚は高い。
 ここに買い物に来るのはみんなバスケット選手なのかというくらいに、上の段なんてうちの奥さんを肩車してもきっと届かない。ジャクソンがいなかったら取れないところだった。
 そういえば、オロロロゲートを通過する際、トイレに入った方が言っていた。

 「便器の位置がメチャクチャ高い!!」

 その方はわりと上背のある方だったのだが、それでも男子小用便器は容赦ない位置にあったらしい。僕などがそれで用を足そうと思えば、おそらく子供用の台座が必要だったことだろう。
 ケニアの人たちはみな背が高い。

 観光客の姿などどこにもないこのスーパーマーケットは、当然のようにお客さんはみな黒い。
 僕らの目から見るとそれが「奇異」な感じなんだけど、彼らから見れば間違いなく僕らが「奇異」そのものだったろう。
 そんなお店で、自分用のお土産も買った。
 ジャクソンにケニアのポピュラーソングのCDを買いたいと申し出たところ、彼がいろいろ探してくれたのだ。

 「これはケニアのとっても有名な歌ね。でも今CDな〜い……」

 ジャクソンが指し示す、まるで台湾から入ってくる海賊版のようなそのカセットテープを見てみると、最初の曲名が

 JUMBO JUMBO!

 となっていた。
 これってひょっとして……
 ムパタのディナータイムで、ケニアのショーをやっているときに彼らが歌っていた歌じゃないか?

 ジャクソン、これって「ジャンボ、ジャンボ」のあとに「ハバリガニ」って続いて、最後に「ハクナマタタ〜」で終わる歌?

 「そうで〜す!」

 買う!!
 妙に耳に残って離れなくなっていたこの歌を、ついに形として残すことができた!
 (ただし、さすが海賊版っぽいテープ、肝心のその歌の部分だけ音が割れていたけど………)

 今日のドライバーは、行きのウィリアムに代わってサムさんだった。
 街を走っている間、ジャクソンやサムにいろいろ話を聞いてみた。

 ジャクソンさんはファイブスタークラブのヤマモトさん(僕たちの担当者)に会ったことある?

 「おー、ヤマモトさんにあったことありまーす。小柄な人ですねー」

 若い人?

 「はーい」

 きれい?

 「フフフ…。ヤマモトさんといえば、このサムさんとマサイマラを6日間も一緒に車で回りました」

 え?なんでなんで??

 「いろんなロッジやキャンプを調査する仕事ですねー。とっても大変」

 じゃあ、ヤマモトさんもテッコーなんだね。

 「イエス、彼女はとてもストロングでーす」

 それにしても6日間!!
 あの悪路をずっと車で揺られ続けるってのは、想像以上に体力を消耗する。それをテッコーといわずになんという。
 ところで……

 「ずっと二人きり??ロマンスは生まれなかったの、サムさん??」

 「ロマンス!?ワォ!、サムさん、どうだったのぉ??」

 ジャクソンにうけた。はたして真実は??
 我々ゲストが心地よく滞在できるように、旅行社の人たちっていうのは、知られざるところで地道で大変な作業をしているのだということをあらためて知った。

 そしてナイロビ空港へ。
 行きにいささかの緊張を持って到着したことが、今となっては懐かしい。
 到着したときは、周りにいるすべての黒い人たちが凶悪強盗団に見えたけれど、今は誰も彼もがレディース&ジェントルマンだ。
 我々のジェントルマン・ジャクソンたちともいよいよここでお別れだ。
 ありがとうジャクソン、そしてテッコーツアーズ。