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2月5日〜2月10日
エピローグ〜夢の続き…〜 チェックインを済ませ、イミグレーションへ。 うーん……。 おそるおそる係官にパスポートと出国カードを渡す。 二人して真剣に悩んだ今までの時間はなんだったのだ……。 そんな人々のおかげで、関空で買った「旅行中の英会話」なる本は、結局1ページも開けることはなかったのだった。 ボーディングが始まるまでまだまだ時間があったので、行きにチェックしなかったナイロビ空港内の土産物屋さんを物色してみたり、休憩がてらカフェのようなところに入った。 やがてボーディングが始まった。 「ナイロビは言われているほどコワいところではない」 などとはけっしていえない。 その素敵な世界にも、治安の悪化とはまた違ったところで、それほどのんきにしてはいられない問題があるという。 野生動物のそばで普段の暮らしをしているマサイの人たちにとっては、野生動物による被害というものが、僕たちが想像する以上に深刻であるらしい。 おまけに、国立保護区や国立公園内の動物保護のために、水の利用や家畜の飼育など、日常の暮らしにかかわる様々なものごとが制限され、その一方で本来見返りがあるはずの観光収入もほとんど彼らには回っては来ないらしい。 そもそも国立保護区や国立公園というのは、もともとはマサイの人々の土地だった。そこを国が接収し、もともと住んでいた人たちを移住させ、動物を保護しようというのだ。矛盾がいろいろ生じてくることは避けられないだろう。 野生動物と人の暮らしと、いったいどちらが大事なのか。 という問いは、 日本の安全保障と人々の暮らしと、いったいどちらが大事なのか。 という問いに似ているといえなくもない。 沖縄の海を仕事の場としている僕たちは、悲観的にものごとを見ているわけではないものの、沖縄をとりまく自然は、けっして「今」以上に良くなることはないだろうと思っている。言い換えるなら、これまでも、そしてこれからも、だんだん悪くなっていくと覚悟している。 そういう意味では、今回のアフリカ・ケニアのサバンナの日々は、僕たち夫婦の人生の中では貴重な経験だった。ゾウさんが、キリンさんが、ライオンが、チーターが、その他様々な野生動物が生きる世界の空気を味わい、その息使いを感じられるほどの距離で日々をともに過ごしたのだから。 帰りの飛行機は、行き同様やたらと飛行時間が長いということ以外は、特に問題なく過ごすことができた。 1ケースも買ってしまったタスカービールは、帰宅後もしばらく活躍してくれた。喉が渇いているときに飲むこのビールは、それがナイロビであれマサイマラであれ水納島であれ、その底力をいかんなく発揮してくれる。 帰ってきてからしばらくは、多くの人に「アフリカはどうだった?」と訊かれた。 めちゃめちゃおもしろかったッ!! それ以外にどう答えればいいというのだ。 ただの旅行者でしかない僕たちにとっては、このサバンナの日々はやがて夢幻のようなものになってしまうだろう。たとえそうなっても、その夢幻の世界が遠く日本を離れたかの地でなおも存在しているのであれば、いつでも夢の続きを見ることができると安心して僕たちは日々を送ることができる。 ゾウよキリンよライオンよ、そしてアフリカの風よ、その日までしばしのお別れだ。 |