大阪に実家がありながら、関空を利用するのが今回が初めて。実家のある高槻の場合はどう考えても伊丹空港のほうが便利だから、これまでは帰省するにあたっても、頑なに那覇―伊丹便を利用していた。
初めての関空。
見るものすべてがもの珍しい。
初めての空港だからといって、あたふたする必要はまったくなかった。
我々にはたっぷり時間があるのだ。
だって、関空に到着したのが午後1時過ぎ。ドバイに行く飛行機は夜11時発。その間いったい何をしていろというのだというくらいに時間がある。
ある意味映画の「ターミナル」状態のおかげで、初めての関空だというのに、空港内のあらましにすっかり詳しくなってしまった。
とりあえず荷物を一時預け、朝から何も食べていないので食事をすることにした。
昨日に引き続き、悔いの残らないよう食べ納めをしよう。思い残すことなくカツ丼を食べておきたい。
大阪でとんかつといえばKYKである。
その昔高校卒業のおり、ずっとあこがれていた同級生と最初で最後のデートをして、食事をする際に入ったお店がKYK。…って普通、デートでとんかつを食うか?<食うんです。
そんな懐かしい記憶がフ〜ッと頭をよぎりつつも、さすがとんかつ専門店、どんぶりモノはヒレカツ丼しかなかった。
僕が食べたいのは普通のカツ丼なのである。
それに、とんかつしかないからうちの奥さんの食指が動かなかった。
仕方がないので、すぐ近くの釜飯屋さんに。そこなら普通のカツ丼もある。ここで、カツ丼と生ビールに別れを告げることにしよう………。
食後は本屋その他を巡る。
実は、地球の歩き方の「東アフリカ」を買ったのはここ関空なのだ。
沖縄の書店で「地球の歩き方」を全巻揃えているところがあるはずはなく(当サイト推測)、だからといって通販してまで買おうという気も起こらなかったのでそのままにしていたら、さすが大阪、マイナーな東アフリカでも、こんな小さな書店にすら……、<って、それはここが空港だからでしょう。
これまでエラそうにケニアについて語っていたことの大半は、この時以降に知ることになる…。
こういう空港の小さな書店では、旅行ガイドブックのほかに必ずあるものといえば語学ものだ。
今回は特に英語で困ることはないだろうとタカをくくっていたのだけれど、旅行社から直前に届いたケニアの最新トラベルインフォメーションによれば、最近空港職員が何かとインネンをつけては賄賂を要求するケースが増えているという。
黄熱病の予防接種済みカード(通称イエローカード)を必要としない路線で来た客に、法律が変わったから持ってないと罰金が要る、とかなんとか言いがかりをつけてくるらしい。
そういう場合は、
「あなたの上司の説明を聞きたい」
「大使館に確認する」
などなど、ビシッと相手に伝えてしまえば簡単に引き下がるという。
ようするに英語が苦手であろう客を見計らい、小遣い稼ぎをしようという人たちがいるわけである。
……って、英語が苦手であろう客って僕らのことじゃないか。
しかも、エミレーツ便で到着の客がけっこう被害に遭っているという。
どうしよう、インネンつけられたら……。
むろんのことお金を払うことはないだろうけど、いかんせんバシッと引っ込ませるだけの英語力がない。語学は、相手の言っていることを聞き取るのも大事だけど、こちらの言いたいことをキチッと伝えるのもかなり重要だ。特に旅行のトラブルの場合は、ハッキリと文句を言えるかどうかが大きい。
……ということが頭の端にずっとひっかかっていたので、この書店でついつい「旅行の英語」を一冊買ってしまった。きっと虎の巻として活躍してくれることだろう……。
空港施設の物色を終え、出発ロビーのベンチに陣取って本でも読むことにした。
その頃には、両替をする銀行は片方しか開いていなかった。そのせいか長蛇の列。我々が到着したころは全然混んでなかったのに…。空いているうちに両替をしておいて良かった良かった。
二人してときおりうつらうつらしつつ、ずーっと本を読んでいた。
本来は現地宿泊先でのリゾートライフ用だったというのに、あれよあれよという間に読み進んでしまった。いったい何のために持ってきたんだか……。
そのほか、暇にあかせてインターネットをしたり、珈琲店に行ったり……。
店といえば、ちょっとしたパブにじゃがりこがおいてあったのでビックリした。他にスナック菓子がたくさんあるわけじゃなく、唐突にじゃがりこだけが売られているんですぜ。
普段から美味しい美味しいと思っていたけど、じゃがりこはいつの間にかインターナショナルなお菓子になっていたのだ。
ついつい非常食として持って行く気になり、2つも買ってしまった……。
さて。
旅行社を利用しているこのツアー、実はチケットはおろか、ビザ取得のため預けてあったパスポートまで、この関空のカウンターで受け取ることになっていた。
つまり、旅行に行くに際し最も重要なそれらのアイテムは、今日ここに至るもいまだに手にしていないのである。
持っているものといえば、じゃがりこ2つとファイブスタークラブのカウンターでチケットを受取ってくれという案内のみ。その際は旅程表を提示してくれ、ということだった。
アラスカ旅行の際の、バウチャーというたった紙切れ1枚だけだったときもけっこう不安だったけど、パスポートまで預け、クーポン券すら持っていない今回はさらに心細かった。
ファイブスタークラブが空間工房みたいに夜逃げしてしまっていたら、僕たちはこの広い関空でじゃがりこをボリボリ食べているしかない……。
一応、事前にカウンターの位置を確かめに行くと、ファイブスタークラブの看板が出ていた。
ほっ……。
どうやら会社はあるらしい。
そして夜8時30分頃、カウンターに行くと……見事チケットを受け取ることができたのだった。
やがてエミレーツ航空のチェックインの時間となった。
夜11時過ぎ出発の飛行機ともなると、チェックイン開始の時間はもうすっかり夜である。
先ほどまでロビーにたくさんいた修学旅行生たちの姿ももうなく、出発ロビーはけっこう閑散としていた。
ドバイに行く客層というのはさすがに種々雑多で、見ようによっては…というか、飛行機嫌いの僕から見るとどいつもコイツもハイジャック犯に見えてくる。
ハイジャック犯たちに睨みを効かせつつ、カウンターでついにチェックインするときが来た。
長距離の場合、単純に窓側嗜好だとえらい目に遭うってことは、アラスカへ行く際のシアトル便で学習していた。3列並ぶ窓側席で窓側に二人して座ると、用を足すときにいちいち通路側の方に断らなければならない羽目になるのである。
それだけは避けたかったので、カウンターのオネーチャンに空き具合を尋ねがてら確認してみると、
「窓側でしたら2列の席ですので大丈夫ですよ」
な〜るほど。
スーパージャンボと違ってドバイ行きのエアバス機は、2−4−2になっているのだ。
こういうことって、いつもさくらラウンジでくつろぐウロコムシさんやきのこ岩さんなんて初手からご存知なんだろうなぁ……。
まったくなにもご存知ではない我々は、もうひとつ驚く事態があった。
荷物が現地空港で紛失してしまったら元も子もないから、とにかく荷物は機内持ち込みにしよう!というケニア旅行者のコメントなどを見ていたから、荷物は絶対に機内に持ち込むつもりでいた。現に、那覇から関空までもそうしてきたのだ。
ところが
「すみませんがエコノミーのお客様は7キロまでとなっておりますので……」
さっきはあれほど優しかったオネーチャンはにべもない。
機内に持ち込める手荷物は7キロまでというのだ。
聞いてねーよ、そんなこと。
ビジネスクラスだったら15キロまでのくせに、エコノミーだとその半分。このあからさまな差別が悔しい……。
仕方なく、ほぼ衣類しか入っていない両者のバッグを機内預けにしたのだった。
そんなすったもんだを終え、ついにイミグレーションを通過。いよいよ気分は海外へと旅立つ準備を始める。
まだチェックイン開始直後だったからだろうか、無人のシャトルに乗ってたどり着いた27番ゲートには、まだそれほど人はたむろしていなかった。
窓外にはすでにドバイ行きEK317便が、乗客が揃うのが待ち切れないのか、俺はやるぜ、俺は飛ぶぜと、ドッグスレッドの犬のように興奮してスタンバっていた。
そう、行きがけに姫に手渡してもらったハツおばさんのサーターアンダギー。
モグモグモグモグ食べちゃおう。
ああ、いよいよ出発が近い。
ここまで長かったなぁ……。
那覇空港に着いたのは午前10時すぎだったっけ。
それから関空に着いたのが午後1時過ぎ。
こうしてやっと登場口にやってきたのが午後10時。なんとまぁ、まるまる12時間も経っているじゃないか。
えーとえーと、これからいったい何時間飛行機に乗るんだったっけかな??
アンダギーを食べながら、余裕をかましつつ旅程表などを取り出してみる。
さてさて……関空初11時15分。フムフム。
ドバイ着が………午前5時55分か。な〜るほど。モグモグ……。
っていっても時差があるんだよなぁ。たしかドバイとは5時間の差?
ってことは、えーとえーと………モグモグ。
え”?
ええ”―ッ!?……ゲホゲホ(アンダギーで咳き込む音)
ほぼ12時間じゃんッ!!
なんてことだ!!
これから12時間も飛行機に乗ってなきゃいかんのか!!
ちなみにドバイからナイロビまでは??
ご、5時間!?
な、な、な、なんということだ………。
トランジットの時間を含めたら、那覇空港からナイロビ空港まで、都合30時間もの長きに渡って空港〜飛行機〜空港〜飛行機……じゃないか!!
いやあ、今の今まで知らなかったってのもいかがなもんかってところだけど、よくよく考えたら、知ってたらずっと前から憂鬱になってたろうなぁ……モグモグ。<まだ食ってんのかよ。
はたして僕は、機内で発狂せずにすむのだろうか?