7・ひろめ市場

 ホテルの部屋に荷物を置いてしまえば、あとは身一つ、目指す場所ももちろんひとつ。

 南国らしく燦々と降り注ぐ日光を浴びて緑に輝くフェニックスロード、追手筋をゆく。

 毎週日曜日には、この片側2車線すべてが1キロに渡って市になるというのだから、さぞかし壮観なことだろう。 

 もうすでに何度も歩いているから我が庭のごときこの界隈、夜と昼とで姿は違えど、ひろめ市場は夜昼カンケー無し。 

 時刻は11時30分。
 各店は早くも全開状態ながら、閑散期の平日ということもあってか、恐れていたほどの混雑はない。

 混雑はないけど、みなさん当然のように昼からお酒。
 やっぱ旅は朝酒、昼酒ですよねぇ!(共感強要)

 昼から酒という心強い同志を得るにはうってつけの空間だという意味では、ここひろめ市場は新世界のジャンジャン横丁に勝るとも劣らない。

 ジャンジャン横丁と同じく、ひろめ市場に飲み屋は星の数ほどあるなか、我々が陣取ったのはやいろ亭の前。

 ヤイロチョウにあやかっているのであろう店名だからというわけではなく、地元県外問わず多くの方が、ひろめ市場でカツオを食べるならオススメナンバーワンに挙げている店なのだ。

 イートインシステムが整っているこの市場にはテーブル席が数多く設けられており、とりあえず席を確保してからお好みの店舗で酒・肴を購入し(スイーツでもOKです)、テーブルにてゆっくり食べるというルールになっている。
 食器ジョッキその他は、どこで購入したものであろうともテーブルに置いたままで大丈夫。

 市場内には各テーブルに残された使用済み食器回収専門スタッフがいるので、テーブルはただちに次のお客さんが使用可能状態になるのである。

 まさに、イートイン特化市場。

 やいろ亭の生ビールは、アサヒとキリンのいずれかを選べた。
 それでも、客から中生のオーダーが入ると、女将さんは必ず最初に「アサヒでいいですか?」と問うていたところをみると、アサヒビール高知支社、相当なりふり構わぬ営業をしていると思われる。

 もちろん我々はキリン一番搾りの生。

 たっすいがは、いかん!のである(キリンの公式見解では、このキャッチコピーに他者をディスリスペクトする意図はない、とのことです)。

 そうこうするうちに、ついに登場、ザ・カツオのタタキ@1250円!!

 塩、タレどちらか選べるようになっているので、迷わず塩でいただく(副菜の大葉や大根のツマには柚子風味のポン酢がかかっている)。
 もちろん、当然のようにニンニクスライスも添えられている。

 昼から生ニンニク!

 ただの旅行者に、なんの躊躇やあらん。

 矢も盾もたまらず、まずは一口。

 ムフフフフ……♪

 やはりこちらの土地でのタタキというのはメインディッシュ的存在感で(価格的にも)、濃厚かつ上質なレアステーキを食べているかのよう。

 カツオといえば内陸にお住いの方は臭みがある魚というイメージがあるかもしれない。
 しかしそれは、モノが違う、調理が違う。

 臭みどころか旨味がある!

 ただ、昨夜かもん亭でいただいたモンズマガツオのタタキとは違い、ここでいただいたザ・カツオのタタキは、外側に比べて内側が随分冷たい感じがした。

 すでに薄々は見当がついていたその理由は、やがて明らかになる。

 そうはいっても我々のような高知のタタキビギナーにとっては、やはりメインディッシュ級の美味しさだ。

 ともかく今こうして昼から飲んでいる身には、何にも勝る肴である。

 そして↓こちらは、あおさのり入りじゃこ天@200円。

 じゃこ天はご当地の名物練り物だけど、それにあおさのりが混入されて淡いグリーンになっている。
 添えられてあるマヨネーズをつけずそのままいただいてもしっかりした味があり、温めてあるから味がすぐさま口内に広がる。

 これまた旨し。

 一方、オタマサが別の店からゲットしてきたのがこちら。

 のれそれとともに、高知で一度は食べておきたかったどろめ@300円。

 1匹1匹はこんなに小さいにもかかわらず、イワシらしいワタの苦味がちゃんと存在感を出していた。

 これに比べればのれそれは遥かに大きいというのに、内臓?それ何語?ってなくらいに体内に何も無かったような気が……。

 これも醤油やポン酢味だけじゃなく、オリーブオイルと塩でもいただいてみたいなぁ…。

 後日うかがったところによると、季節により獲れるイワシ類の稚魚の種類が微妙に異なるそうで、それに応じて味も変わるのだとか。

 季節ごとの違いも感じてみたいところである。

 興味深いところで、こういう貝もゲット。

 ご当地でマイゴと呼ばれている、きれいな巻貝(正体不明)@300円。

 500円玉ほどの大きさのきれいな巻貝が、ほどよく味付けされて10個ほど入っている。

 爪楊枝で身を引っ張り出してチビチビ食べると、妙にクセになる味。 

 サザエなどとは違い、最初はその存在に気づかないまま食べてしまったほどフタが柔らかい。

 そして、オタマサが興味津々だったご当地山菜がこちら。

 いたどり@200円。

 黒ゴマを少々和えつつ油で炒めてあり、オタマサによると食感が良くてクセになるそうだ。

 これらはどれも持ち運びしやすい小容器に入れられていて、少しずついろんな種類を食べてみたい方にはうってつけの適量&低価格で用意されている。

 そのまま尽きることなく次々にいろいろと食べてみたい品々だらけだ。
 しかしここで矢尽き刀折れ憤死するわけにはいかないので、そろそろトドメの一品を再びやいろ亭でお願いした。

 その頃にはすでにお昼時になっていて、出張その他ビジネスで高知市を訪れているのであろう会社員風のみなさんが行列を作っていた。

 こんな真っ只中に到着していたら、生ビールひとつ頼むのも大変になるところだった…。

 各テーブルも、いつの間にか……

 こちらはやいろ亭がある区域とは別のところで、テーブル数が多い分お客さんも多い。
 青少年たち以外、もちろんみなさん飲んでます。
 とても正午とは思えないテンションで……。

 そして、この昼最後の品登場。

 ハランボの唐揚げ。@700円

 ハランボとはこちらの言葉で魚の腹側のことで、沖縄風にいうならハラゴー。

 カツオのハラゴーといえば本部町内のさしみ亭でも特に区別してメニューになっているほどだから、腹側のやる気系旨さは全国区なのである。

 でまた土佐のカツオのハランボ、ポン酢でいただくやる気系がビールに合うこと!!

 あー美味かった。

 やいろ亭の前に座ると、そこで注文した品は女将さんがビールも肴も運んでくれるので、ほぼほぼ居酒屋の雰囲気で楽しめる。

 できることならこのままダラダラと、気の向くまま腹の向くまま過ごしていたいところ。
 ああしかし、我々には午後、行かねばならない場所がある。

 せっかくの青空、ここでビールを飲み続けている場合ではないのだ(それでもよかったけど…)。

 市場内のコロッケ屋さんでコロッケをひとつゲットし、ウマイウマイと立ち食いしながらほろ酔い気分で我々が向かったのは……