湾に沿って続く一本道を歩いていくと、ほんとにすぐ漁港が見えてきた。 きっとあそこが入り口に違いない。 テケテケ歩いていくと、そこは想像していたよりも大きな港だった。 はて、水揚げはどこで?? わからないので、付近に集っていた漁協関係者らしき方に伺ってみた。 「あ?あー、こっちは養殖のブリの水揚げをしているところで、延縄の舟がつくのはあっちだよ」 という意味のことを教えてくれた。 おお、延縄漁の舟、今まさに接岸せんとす。 それにしても、岸壁で集っている人たち、漁協関係者らしからぬ人がやたらと多いような気がするんだけど? 不思議に思いつつさらに近寄ってみたら、その理由は即座に判明した。 接岸した舟から次々に水揚げされるお魚さんたちが、水揚げ専用マシーンらしきベルトコンベアーのような機械から続々と吐き出され、なおかつスタッフの方々の手で素早く魚種ごとに選別されていく。 するとすかさず群がる人々。 そうなのだ。 漁港における水産物の直売所ってのは沖縄でもかなり増えてきたけれど、水揚げされたばかりのものをこうして一般消費者が買い求める仕組みなんて、今まで見たことないや。 水揚げされたばかりのものは、当然ながらどれもこれも鮮度抜群だ。それなのに、台上に放たれたものを選び抜く目は誰も彼も真剣そのもの。 バケツ片手に、まるでかるた取りのごとき素早い動きでみなさんが選び抜いているものは、昨夜刺身やソテーでいただいたイカさんだった。 さらにどんどん漁獲物が水揚げされてくる。 おお、これはマトウダイではないですか!! マトウダイといえばその昔、伊豆は大瀬崎で潜っていた頃、存在感たっぷりに悠然と泳いでいる姿をよく目にした魚だ。 籠詰め。 まとまって水揚げされてくる魚は、選別を経て大きな入れ物に納められていく。 購入者は、その作業の途中にいくらでもインターセプトしていいらしい……。 ところでここに納まっている魚に、我々は見覚えがなかった。 40〜50センチほどのスリムな光物。 気になったうちの奥さんは、この魚を物色中の地元の方に訊いてみた。すると… 「えーと、なんだったかねぇ……ちょっとちょっと!」 と、作業中の漁協スタッフを呼びつけて尋ねてくれた。 で、親切に教えてくれた漁協スタッフさんによると、これはこのあたりで「さごし」と呼ばれているサワラの若魚なのだそうだ。 サワラのヤング!! 若魚がこんなにまとまっているくらいなら、大人もけっこうな数いらっしゃるに違いない。 サワラヤングの隣の入れ物には、ブリヤングがどんどんその数を増やしていた。 このあたりではこのサイズのブリをなんて呼んでるんだろう? また別のベルトコンベアーに目を移すと、朝味わったばかりのお魚さんが大量に流れ出てきていた。 カマス!! おいそれとはお持ち帰りできないほど巨大なイカもたくさん揚がっていた。 どのようにいただく類のイカさんなんだろう?? このようにまとまって大量に水揚げされるもの以外にも、買い物客はスルドイ目を走らせる。 コチやカワハギ類、アカヤガラやエソ、フグもいれば、アジやカツオといった類も紛れ込んでいるようだ。 我々がつい注目してしまうお魚さんもいた。 小さすぎて誰にも見向きもされないアンコウ、ナヌカザメっぽいサメ、スズキ、そしてミノカサゴ! カゴにポツンと1匹だけ入れられているミノカサゴの若魚もアワレなお姿だったとはいえ、まだカゴに収容されているだけシアワセだ。 排水溝に横たわるアバサー。 そんな脇役たちのなかに、実に興味深いクリーチャーも混じっていた。 イカのようなタコのようなイカ? 誰も見向きもしない系のカゴに納められていたので、きっと水産資源的にはなんの用途もないものに違いない。 そうやって我々が脇役を物色している間も、水揚げは着々とこなされ、目の肥えた買い物客のバケツの中身も増えていく。 そして選別を終えた方から順に、お会計コーナーに進む。 魚種ごとに値段が設定された量り売りだ。 それにしても、なんとまぁ活気みなぎる地元密着型の漁港だろう!! 町内にアナウンスがあり、それを合図に人々が漁港に集まる。 延縄漁の舟はこのあとも何隻か戻ってきていたから、そのたびに港は活気づいていたことだろう。 そりゃ立地的に漁に出られない日が少ないだろうから、統計的にも数字に表れるだろう。けれどまさかこの小さな漁村の漁獲量が府下最大とは…。 それほどの漁獲量を誇りつつ、それでいてここまで地元密着型の漁協というのも素晴らしい。 家の近くにイオングループの巨大スーパーがある便利さよりも、毎朝こうして新鮮なお魚さんを買い求めることができることにシアワセを感じる、そういう人々が暮らす国に、私は住みたい。 それはさておき。 ここで買い物をして、それを食べたかった!! ああ、この地にもう一泊できていたなら。 そんな夢のようなひとときを過ごせたに違いない。 |