ヴィラメンドゥ海中レポート
ハウスリーフ編 part 2

悔い改めよ

 7年前にバンドスに行ったとき、悔いを残した物の一つに、裏がピンク色のイソギンチャクに住んでいるモルディブアネモネフィッシュをキチンと撮らなかった、ということがあった。今回はモルディブアネモネをたくさんキチンと撮ろう、と心に決めていたのだけれど、ダイビングセンター前のハウスリーフではそれほど多くは見られなかった。
 よく雑誌などで、このクマノミがわんさかイソギンチャクに付いている写真を目にする。こんなのモルディブに行けばいつでも撮れるんだろう、なんて思っていたら大間違いだった。このクマノミがいたとしても、なかなかわんさかとイソギンチャクについているというシチュエーションに出会えないのである。
 ちなみにボートで行ったポイントではそこら中にこのクマノミがいた。けれどやはり一つのイソギンチャクにたくさん付いている、というシーンには出会えなかった。これは時期のせいもあるのだろうか。

 7年前の悔いはまだある。そこら中で普通に見られるインド洋の魚をついに撮らずに終わってしまった、ということである。
 いつでも撮れるからいいや、と思ったままついに撮らずじまいになるのはなにもここだけではなく、僕たちの場合はどこに行っても同じだ。反省が生かされないのである。バカなのだ。
 幸いなことに今回はセカンドチャンスが訪れたのだからキチンと撮っておきたい。
 その代表選手がスミスズブレニー(写真上)とその真似っこザル、インポスターブレニー(写真下)である。
 水納島の魚に置き換えるとオウゴンニジギンポとイナセギンポにあたる両者は、彼ら同様そこら中で見られる。にもかかわらず前回はどっちか忘れたけれど片一方だけ撮るにとどまった。

 この両者、フィジーに行けばどちらも真っ黄っ黄になっていたりして、海域が変わってもお互いはどこでもそっくり、というコンビで、僕はいつかあちこちの組み合わせを撮りきってみたい、と密かに夢見ているのだ。
 たくさん見られるギンポといえば、ハナダイギンポも負けてはいない。
 このギンポは沖縄あたりだとけっこう珍しい魚なのに、モルディブではイヤというほど、というより本当にイヤになったほどどこにでもいる。
 前回は結局ろくな写真が撮れていなかったから、本来ならコイツもリターンマッチリストに入るはずだった。ところが、すでに水納島でたくさん写真を撮っていたから、数の多さにビックリこきはしても、遮二無二コイツの写真を撮る必要はなくなった。

奇跡のマッコスカーズラス

 ハナダイ類はハウスリーフでは結局キンギョハナダイとエバンスしか見なかった。
 エバンスは場所が限定されているようなので、好きな人はダイビングセンター前からエントリーしたら吸水管?のあたりまで右に進むといい。
 マニア受けするイトヒキベラ類はニシキイトヒキベラしか見なかった。水納島のと同種とは思えないくらいに素晴らしく派手である。海の魚たちまで異文化の香りだ。

 イトヒキベラに近いクジャクベラの仲間であるマッコスカーズ・ラスを最終日前日に見つけてしまった。翌日は無制限ダイビングの料金に含まれない日でもあるのでスノーケリングだけでもいいかぁ、と思っていたのだが、このベラの出現によってにわかに予定が変わった。

 このベラ、とにかくメスに対してオスがヒレを広げたら美しいのなんの。
 見つけたオスはたった一匹で、素早く泳ぐうえにめったにヒレを広げてくれないこのオスの勇姿を撮るために翌日タンク2本費やし、結局シャッターチャンスは3度。もう奇跡が起こらない限り間違っても撮れてはいないだろう、とあきらめていた。

 ところがどっこい!!現像されてきた写真を見ると、なんと3回のうち2回はピントバッチシだったのである!!思わずガッツポーズをしてしまいました。奇跡は起こったのだ。 
 このベラ、クーターさんもモルディブの魚図鑑の表紙に載せているくらいだから、やはり彼も撮るのに苦労をしたのだろう。
 見てみたい方は、ダイビングセンター前から右に少し行ったところ、水深13mほどの根(ソリハシコモンエビなどのクリーニングステーションになっていた)のまわりに行こう。オスは一匹だったけれど、メスはチラホラいたので見つけられると思う。
 もっとも、ちょっと場所を変えればじつはたくさんいたりするかもしれない。
その他モロモロ

 透明度はこの時期あまり高望みしてはいけないようだ。それでも満潮に向かうタイミングで潜った午前中は、最近の水納島のいいときくらいにはきれいだった。
 僕らが潜っていた間はいずれもそれほど強く流れなかったけれど、タイミングが違うと同じ日でもゴーゴーに流れるようである。海から上がってきた真紀さん(日本人スタッフ)が、凄く流れていてみんな鯉のぼりみたいになってしまった、と言っていた日もあった。

 エビカニ関係ではうちの奥さんが目をサラのようにして頑張っていたが、思ったよりも目にしなかったようである。
 宿主になりそうな付着生物はそれなりに見られたものの、そもそもいないのか魚が多すぎて夜中しか出てこれないのか、気合いを入れていたわりには事前に期待していたものは見つけられなかったようである。まぁ、エビカニオタクといいながら、彼らエビ・カニがもっとも活動的になるはずの夜には連日ビールを飲んでいい気分になっていたのだからこんなものであろう。
 真紀さんが、小物を見るんだったら夜もおもしろいですよ、と勧めてくれたのに、
 「いやあ、僕らは夕方以降はビールタイムだから……」
 と言ったら笑われた。どんなショップかと思われたろうなぁ。

 付着生物ということでいうと、ダイブセンター前からエントリーしたら左に行った方が多かった。
 東側の方が外海に近いということが関係しているのだろうか。とするとパッセージ1とか5に行けば、また違った雰囲気なのだろうか。今さらそんな疑問をもってどうするのだ。

 ウミウシ類も同様で、デベリウス著の貝・ウミウシ図鑑の表紙になっているヤツもモルディブにいるらしいのだけれど、ついに発見できなかった。イボウミウシ類以外はなかなか見つからない。もちろん、石をひっくり返してまでは探していないが。
 ウミウシではないがヘンテコ貝
Coriocella hibyaeというヤツは随所で見かけた。
 一本目で見たときはフィルムが残っておらず、ああ、やんぬるかな、痛恨このうえない事態、と思ったものだが、実はそこかしこにいたのであった。

ダイブセンター前だけなんです…

 実は今回、ダイビングセンター前以外のハウスリーフで潜ったのはパッセージ4に行った一回だけである。
 パッセージ4はなだらかな斜面が25〜30mくらいまで続く地形で、サンゴが白化で壊滅する以前はもの凄かったろうことが容易に想像できた。
 何度も潜れば、潜った数だけたくさん発見もあったろうが、なにしろ部屋から近いけれどもサービスから遠いので、器材をサービスに置いておくシステムになっている都合上何かと面倒くさい。一本潜って、あえて再チャレンジするほどの発見をしなかったので、結局一回でやめてしまったのである。
 他のパッセージについてはほとんど何も知らないに等しい。
 また、本来はパッセージから出て、流れに載って別のパッセージからエキジットする、というのが一般的なようである。いわゆるビーチエントリードリフトダイビングだ。
 それをするには流れの予測や段取りが重要だから、いい加減に流されないように注意しよう。
 そのために各パッセージの海中にはロープが引かれてあって、途中に水中ブイ(ワインか何かの入れ物だった)が付いている。海中にいてもパッセージの場所がわかるようになっているのだ。
 ただし深く潜りすぎていると見逃すはずだから、前もってだいたいの移動距離と浅場に戻ってくる時間とを考慮しておいたほうがいいだろう。
 ちなみに、強烈な流れのためにパッセージを行き過ぎてどうしても戻れなくなってしまった場合は、そのままフロートを浮かべて漂っていてくれ、ということだった。2時間して帰らなければドーニが救出に向かうのだそうだ。
 2時間以内にダイビングセンターに戻って帰ってきた時刻を書かないといけないのは、この緊急出動のためである。

 今回はこのダイブセンター前に8本潜った。一本90分近く潜っているので、合計12時間滞在していたことになる。それでもやはり帰ってきてしまえば、あれを撮っておけばよかった、これを撮るのを忘れた、なんていうのが次から次に出てくるのであった。