山形駅前にあるバス乗り場にて、蔵王温泉行きのバスに乗車。 どうせ終点まで行くヒトしか乗らないんだろうから、いっそのことシャトルバスにしちゃえばいいのに……と思っていたら、案外途中で降りる地元の方もいらっしゃった。 全国にその名が轟く蔵王温泉行きのバスながら、なにげに地域の足なのである。 初上陸(?)の山形市は、さすがに雪があるとはいえ、ここから小一時間でスキー場になるの?ってなくらいにフツーの街。 ……という素朴な疑問は、バスがやがて坂道を登り始めるようになってから氷解した。 標高が高くなるにつれ、どんどん窓外は雪の世界に。 そしていよいよ終点の蔵王温泉バスターミナルに到着。 〜♪追いかけてぇ〜〜雪国ィ〜〜〜 ここ3日間も雪は随所で見てきたけれど、これぞまさしく銀世界!! しかもここは蔵王である。 日本最古の温泉地♪ 湯煙のそばを歩いているだけで、その硫黄臭のせいかマイナスイオンのせいか、体に良さげな雰囲気があたり一面に満ち溢れている。 この蔵王で我々がお世話になる宿は、開湯1900年を誇る蔵王温泉のなかでも老舗中の老舗といっていい高湯通りの奥の奥、温泉神社でもある酢川神社の参道の階段手前のえび屋−Mさん……じゃなかった、 えびや旅館さん。 あらかじめ告げてあった時間どおりに到着。 あれ? 声をかけても音沙汰がない。 すみません、本日から予約していたウエダですけど…………今玄関にいます。 まさか玄関から電話がかかるとは誰も思うまい。 その後女将さんとは朝夕の食事の際にいろいろとお話をする機会があったので、おかげでいろいろな豆知識もご教示いただいた。 このえびや旅館さん、なんと創業は江戸時代という超老舗である。 昔の人々は健脚だったのである。 なにしろ開湯1900年、ウワサによれば、ヤマトタケルの東征に同行したナンタラタガユというヒトに由来するらしい。 ちょうどその頃、ローマ世界はテルマエ・ロマエ。 当地を訪れた歴史上の著名人は数多く、八幡太郎源義家も西行さんももちろん芭蕉も、この地で詠んだ歌を残しているようだ。 まったく関係のない話ながら、このうちの芭蕉の句で僕はひっかかってしまった。 調べてみたら、なんとなんと、カッコウの別名は「閑古鳥」。 ってことは、クロワッサンの頭上では、いつも カッコー………カッコー…… って声が飛び交っているわけか。 ちなみに芭蕉には、閑古鳥を詠んだ別の歌もあった。 憂きわれを さびしがらせよ 閑古鳥 芭蕉って…………鬱?? さてさて、当時からここは本来、閑古鳥とは無縁の高湯温泉。 いつごろ撮影されたのか詳細はわからないけど、少なくとも戦前であることはたしかな昔のえびや旅館さんの様子。 旅館内の廊下に設けられていた資料コーナーにあった、 昔の絵葉書集のうちの一枚。 そりゃ冬はとんでもなく寒かったろう。しかしこういう風情っていいなぁ……。 ちなみに2階左端にある「岡崎勘四郎」という名前が気になったので、女将さんにうかがってみた。 それによると、このえびや旅館さんのお名前がそもそも岡崎さんで(蔵王では石を投げれば岡崎さんに当たるほど多い姓らしい)、ご当主は代々「岡崎勘四郎」を襲名するのが習わしなのだとか。 なんだか歌舞伎みたい……。 そして今は、 昔の面影を残しつつも、しっかり近代化した姿になっている。 サンデッキ(?)の内側にある本来の玄関には、昔を偲ばせる看板が掲げられていた。 ロビーで説明を受けたあと、部屋へ案内してもらった。 蔵王温泉といえば白濁の湯である うちの奥さんは随分前から、遠い目をしてそう語っていた。 何がどうでどうなるなんてことはまったく知らない温泉成分ながら、同じ入浴剤でも紫色のラベンダーの湯よりは登別の湯の白のほうが体に良さげな雰囲気がぷんぷん漂う。 期待に胸を膨らませて、いざお風呂へ!! いつ入っても他に誰もいないので、 しまいにはカメラを持って入ってみた半露天風呂。 江戸の昔から続く宿は温泉も自家泉源で、温泉表示的源泉名は「海老屋源泉」。 泉質・硫黄泉。 そしてそのphは…… 1.45!! 1.45ってあなた、無敵不沈艦の第3艦橋が解け落ちてしまったガミラス星の海に匹敵するんじゃね?? まさかそんなはずはないけれど、入浴の際の注意ってことで、 「温泉が生地に着きますと衣類が傷みますので、身体を良く拭いてください」 とあった。 男湯、女湯に別れているお風呂は、24時間いつでも利用可能で、内湯とそこから続く半露天のどちらも、もちろんのことずーっと掛け流し。 だから湯船に入るときは、ワタシの温泉での至福の瞬間である、 ザーーーーーー…………… をいつでも味わえる。 「ニッポンって…………………いい国だなぁ」 思わずスネークマンショーになってしまう(意味わかりますか?)。 滞在中、1日平均3度ずつ入ったけれど、結局ずっと貸切状態だったおかげで、思う存分ゆったりさせてもらった。 至福の時間は温泉だけではない。 海辺の街仙台とは違い、山深い蔵王ともなれば、鮮度高い海の幸を求めるのは無理というもの。 そしてここ蔵王は、ジンギスカンで名を馳せているのだ。 水納島の民宿に泊まれば、一泊目の食事はたいていバーベキューであるってことを考えれば、初日は間違いなくジンギスカンに違いない。 はたして…… やっぱりジンギスカン!! 北海道のジンギスカンはマトンが主流なのに対し、ここ蔵王のジンギスカンはラム肉なのだそうな。 左上がアケビ、右がワラビ、そして下が菊とサーモン。 山の幸といえば欠かせないのが川魚。 というわけで出てきたのが鮎の塩焼き。 ……すみません、食べる前に撮るの忘れてました。 こんな肴を前にして、うちの奥さんが黙っているはずはない。 ビールはスーパードライしかなかったのに対し、地酒の充実ぶりときたら!! 魅惑の肴の数々を冷酒にて流し込む……… …… 旨い。さすが米どころ、選り取りみどりの米が醸し出す至福の味。 おおそうだ、米といえば!! なんとえびや旅館さんで振舞われるご飯は、宿のご主人が自ら田んぼで作った米なのだという。 このところ島の生活ではデンプン断ちを続けているため、ご飯粒を食べる機会がほとんどないんだけど、今は旅行中、それも米どころである。 近頃は「つや姫」という品種がもてはやされているらしいけれど、どうしてどうして、この「はえぬき」もその名のとおりのスグレモノ。 米が旨い国に生まれてよかった。 日本って……いい国だなぁ。 2日目の夕食は鴨鍋だった。 これがまた、我々の一致した意見としては、ジンギスカンより鴨鍋がよい。 しかしメインディッシュ(鍋?)もさることながら、やはり副菜の魅力溢れることといったら! これ、左からミズの実、タコのから揚げ、そしてヌタのキノコ和え。 このなかで一度で理解できるのはタコのから揚げだけである。 ずんだのことをこのあたりではヌタというのだそうな。 これはミズの実としかいいようがないらしい。 とにかくどれもこれも美味しい。 強いて名付けるならひき肉ばさみレンコン揚げ こういうものも。 トンブリon山芋ザクザク タコ以外、すべて山の幸♪ もちろん肴がこんなにあれば、当然今宵も酒。 風呂上りに部屋でビール飲んで夕食時は酒から始めようか、と言って、わざわざサッポロビールを買って部屋で飲んでいたというのに、結局ここでもビールから始めてしまった。 でもそりゃ酒が進みますわなぁ!! 望みどおりの山の幸、そして期待通りの地酒たち。 しかし我々にとってのこの蔵王におけるメインイベントは、温泉でも山の幸でも酒でもなかった。 それは生命を懸けたアトラクション………になるかも?? |