1・プロローグ・プチトマトに消えた夢
2007年のシーズンもおかげさまで無事終了し、クロワッサンは平安なるオフを迎えた。 クロワッサンのオフといえば旅行である。 と思われても仕方がないほどに、国内外を問わず、毎年オフになるとどこかへ旅行していた我々夫婦なので、秋も深まる頃に訪れるゲストにはたいていこう訊かれる。 「今年はどこに行くの?」 そりゃあ、東西南北気分次第でどこへでも行ける身分であればいいけれど、クールな顔を装いつつも(?)内実は火の車のクロワッサン。心頭滅却して火もまた涼しくなればなるほど、懐はよりいっそう涼しくなっているのだ。今年はあちら、来年はこちら、という具合にあっちゃこっちゃ行けるわけがない。 しかし今オフはまたとないチャンスでもあった。 ニュージーランドにはとびきりの海があるとか、ラム肉に目がないとか、触ってご覧ウールだよとか、そんな特別な理由はないけれど、友人が現地にいるということほど楽しい旅行はない。 それやこれやで、今年の旅行はニュージーランドだ!! ……と、僕はひそかに盛り上がっていた。 が。 ともかく先立つものがない。 これまで長い間ずっと我々の足となって沖縄本島を駆け巡ったカローラスーパーリムジン号は12月で車検が切れた。別れもお金も惜しいものの、彼にはそろそろ引退してもらわねばならなかった。 そんなわけで、旅費はプチトマト号に。 ならば、と目的地設定距離をグーンと小さくして県内に絞り、知人が豪邸を建てて引っ越した石垣島に、引っ越し祝いで乱入しよう!! ……………と盛り上がりかけたのだが。 我々が島内で乗っているクロワッサンマッハ軽トラ号のラジエーターに、収拾のつかない大穴が開いてしまった。ラジエーターは機能しなくとも桟橋や畑までの行き帰りならばなんとかなるとはいえ、シーズンに入ってゲストの送迎やら器材の運搬やらなにやらで、使用頻度が増してしまえばそうも言っていられなくなる。 というわけで、ひそかな目論見であった八重山遠征予算は、来シーズン以降クロワッサンを支える軽トラに変身せねばならなくなってしまった。 ……うーむ。 こうして八方塞りとなってしまった我々には、ついに単なる「帰省」という名の旅行だけが残された道となったのだった。 でもモノは考えようである。 かくなるうえは、現在も引き続き進行中である「日本全国サザエさんオープニング制覇計画」にのっとり、大阪といえばここ!!という場所に行ってみることにしよう。 大阪城??…………いえいえ。 それは……………… 通天閣!! どうです、まさに気球に乗ったサザエさんが横切っていきそうな大阪の象徴。 子供の頃はちょくちょく天王寺動物園に行っていたから、ひょっとして記憶にないだけで本当は通天閣に登ったことがあるのだろうか?と親に尋ねてみたところ、 「ない」 断言されてしまった。 そしてそのふもとに広がるのが……… 新世界だ。 新世界なんて、一昔前はそれこそその名がブラックジョークであるかのごとく、時代から取り残されたただの場末の街ってイメージで、その隣近所の西成区では、なんと国家権力である警察署に対して暴動を起こすほどの炎の労働者たちの街だったような気がするのだけれど、いつの間にか大阪観光といえばこの新世界ははずせない界隈になっている。 その新世界で……… どて焼きを食べたいッ!! どうです。 こうしてただの帰省は、アラスカ行やアフリカ行と肩を並べても差し支えないほどの旅行になったのだった。 題して「新世界紀行」。 まぁ、つまりはいつものログの延長のようなものなので、以降、お気軽にお付き合いくださいませ…………。 |