30・宮川朝市買い物記
これまで朝食前の散歩のたびに宮川沿いを歩いたので、宮川朝市の通りも何度か歩いていた。
しかしよくよく考えてみると、いつも早朝だったので我々が目にしていたのは準備中の姿ばかりだった。「かかさ」と呼ばれるお母さんたちが楽しげにお客さんと語らう姿を見たことがない。
こりゃいかん。
この日は土曜だったし、きっとこれまでよりもにぎやかだろう。
さっそく下見を兼ねて朝食前に行ってみた。
その前に………
私もやってみたい!
この日ついに鴨呼びおじさんと会えなかった代わりに、自分で鴨を呼びたいという。どうやらこのために昨日パンを買ってきたらしい。
雪をかき分けかき分け、鴨たちがやってきた。
うちの奥さん、いたくご満悦である。
昨日の雪は降りやんではいたものの、あたりはまだ雪に覆われている。
そういえば……。
昨年のアラスカで撮った写真を思い出した。
干し芋である。
今年も我々のピンチを救ってくれた(行きの特急の中で)。
あまり意味はないが、とりあえず今年も雪に刺してみた。背景は宮川にかかる不動橋。
やはり犬のウンコのようだった…。
宮川朝市は、やはり土曜日とあって昨日一昨日よりもテントの数が増えている。
それに、準備を始めている時間が早い。
これまでの散歩ではまだ商品を並べ始める前の状態ばかりだったのに、今日はもう商品を並べ始めているテントもあった。
ようやく、品物を眺めながら歩くことができる。
プラプラ歩くと、ウワサどおり気軽にかかさたちが声をかけてくる。
「はいこれ、食べていって」
漬物やお餅など、試食させてくれるのだ。
買う気のあるなしは関係ないらしい。訪れた観光客を楽しませる、まずそこから始まっているようだ。
夏場や秋なら色とりどり、たくさんの野菜やきのこも売られているらしいけれど今は冬。主力商品は漬物である。
お土産に赤カブは欠かせないのでこの朝市で買う予定だった。
でもこの漬物、実は一箇所でまとめて作っている同じモノを各テントで売っているだけだったりして……。
そういう危惧を抱きつつ、初めて朝市でお買い物をしてみた。
そしてそのお店のかかさのお話をうかがってみると、それはまったくの誤解であることを知った。
各テントごとにみなさんがおうちでこしらえたものがほとんどなのだという。
ということは、それぞれで味も種類も微妙に異なるってことじゃないか。
これは…いろんな店の味を試してみたい!
そのほかの店もいろいろ物色し、朝食後に必ず来るからと言いつつ下見を終えた。
初日に続き2度目の朴葉味噌でまたまたバカの3杯飯をしてしまい、腹一杯になって再び宮川朝市へ。この間に宿をチェックアウトしているがそれは後で触れる。
再びやってきたのは午前10時過ぎ
いやいや、これは。
早朝とは比べ物にならないくらいに活気に溢れていた。
本格一眼レフカメラを抱えた観光客が多い。
買い物もしないのに撮るのは失礼だと思うのが普通だとばかり思っていたけど、傍若無人というかなんというか、遠目から望遠で撮るのならともかく、人が買い物がてらかかさとお話している横からそういうシーンを撮っていきやがるのである。
一声もない。
大変ですねぇ、とかかさにいうと、
「いやあ、商売だものぉ。しょうがないよぉ。でもあれだね、外人さんもカメラ持っている人多いけど、外人さんたちはみんな一声かけてから撮るよ。」
なるほどなぁ…。
そうやっていろいろテントをまわっていると、たしかに漬物にもいろいろあることがわかった。
あるかかさは、ここから車で15分くらいのところにある飛騨国府町(現在は高山市と合併)から来ているという。トーチャンが畑で作った野菜を漬物にして、こうして売りに来ているのだそうだ。
高山市街は都会だけど、ちょっと目を転ずればまわりじゅう畑だらけなのだろう。もちろん、今は雪に覆われている。
訳知り顔で話す人は、
あれは本当は山形産のカブで……
と身も蓋もないことをいうけれど、僕らが聞いた話はそうではなかった。自分で聞いた話を信じたい。
そうやってテントごとに呼び止められ、お話をし、漬物という漬物を、かかさがビックリするぐらい買い込んだ。買うとなると撮りやすいので、断ってからカメラを向けると、
「私は今、ほら、黒い縁つきの写真がそろそろほしいからさぁ、きれいに撮ってよ」
遺影のことである。
そんな、まだ若いのに何言ってるの…。
「でもあれだね、やっぱり素人が撮ると大きく伸ばしたらボケちゃうんだねぇ…」
むむ…、これはうかつに失敗できない…。
じゃあ、撮りますよ、はい、チーズ!!
ほら、かかさ、黒い縁つきの写真を用意するにはまだ早すぎますよ。
えー、どなたか、このかかさのご連絡先がわかる方、ご一報ください。写真送ります。
食べ物だけではなく、一刀彫やさるぼぼなどのお土産グッズを売っている店もある。
なかでも上の写真の右下のお店の方は、まるで寅さんを上品にしたようなお話し上手で、一刀彫なのになぜか実演販売という不思議な商品がズラリと並ぶ。
埼玉の実家の父ちゃんの車のバックミラーにあった道中お守りと同じものがここにあった……。
この通りは毎朝散歩していたというのに、こうして最終日にしてようやく宮川朝市の朝市らしさを体験できたのだった。
毎日この時間に来ていれば、毎日楽しい話が聞けたんだろうなぁ……。 |