浦添の先輩宅を辞した時点で、時刻は午後8時になろうとしていた。
これから船員会館に向かい、チェックイン後すぐさま向かったとしても、カネモトさんが待っている居酒屋にたどり着くのは9時ごろになってしまうだろう。
またしても旨旨教の教祖になって、カネモトさんにその旨を告げると、
「待っている」
とにかく飲みたいらしい。
なんとか8時半に船員会館に到着し、チェックインしたあとおっとり刀で居酒屋に駆けつけた。
カウンター席でゴキゲンになっているカネモトさんがいた。
すぐさま座敷席のテーブルにショバ移動である。
この居酒屋、名を「独眼」という。
マスターが故あって隻眼なのでこう名づけたらしい。店内には「独眼」と聞いて誰もが連想するであろう独眼竜政宗公を称える品々があるものの、全体的にこじんまりとして落ち着いた雰囲気の、居心地のいい酒屋である。あ、それを居酒屋というのだろうか……。
そしてなにより、マスターの手によるという味のある文字で書かれたメニューの数々が、まさに味のある肴なのである。
ボキャブラリーがないので一言でいうと
美味い……。
かててくわえて、居心地がいいのでついつい長居してしまう。
マスターがカネモトさんと高校時代(沖縄水産)の同級生で、店に訪れる客のうちの何人かはカネモトさんの顔見知りとくれば、居心地が良くなるのも当然だろう。
すでに泡盛に突入していた我々は、すんなり出てきたボトルはてっきりカネモトさんのキープボトルと思っていた。ところが、ボトルに書かれている名は
「東恩納」
カ、カネモトさん、自分のじゃないじゃないですか!
「ダイジョーブ」
何がどう大丈夫なのかわからなかったが、どうやらゴルフ仲間のボトルらしい。
さらに、イタズラっぽくボトルに書かれた日付を指差していた。
1/18
え?つい最近来たばっかりだったんですか?
「まだ…(訳:まだ今年はその日になってないよ)」
あ!
そういえば今日は14日だった。ってことは……
1年前のキープボトル??
なんとまぁ……。
クロワッサンですら3ヶ月で流れてしまうというのに。
とにかくこの居酒屋はカネモトさんのやりたい放題状態にできているらしい。
〜♪(沖縄水産高校校歌のメロディで歌いましょう)
泡盛・ビールは無尽蔵
酔いよさかまけ 風も吹け
居酒屋独眼の中こそは なりてしやまぬ五臓六腑
ふるう我らの 独壇場ぞ
激二日酔い なんのその
新酒も古酒も波打ちて
世界の酒を 統御せん……
そんなこんなですっかり居心地よく過ごしていたら、他の客が一人帰り二人帰り三人帰り四人帰り五人帰り、気がつくと我々だけになっていた。そりゃそうだろう、さっきからマスターも同じテーブルに来て話をしていたんだから。はて、何時になったのだろう?
え”ッ!?
午前1時を回っていた。
このあたりが終電のない沖縄の素晴らしさであろう。9時に来ても4時間以上飲めるのだから。
いやはや、この先長い道のりが待ち構えているというのに、いきなり「前夜祭」から痛飲してしまった。なにしろ警戒したうちの奥さんがいつからか僕のグラスには水だけ注いでいたらしいのに、それにも気づいていないのだから。
ただし水だけ作戦中、マスターからこれ飲んでみる?と注いでいただいた芋焼酎・森伊蔵をグビグビと飲んでいたので、水だけ作戦は事実上崩壊していた。
酔っ払ってしまった。
カネモトさんもゴキゲン状態である。
最後のほうは何をどう話していたのかすっかり忘れてしまったけれど、心地よかったことだけは覚えている。おまけに多良間島出身というマスターから花パンピンという名の多良間のお菓子をお土産にいただき、とてつもなくいいコンコロもちでカネモトさんと別れ、店を後にしたのだった。
これは間違いなく二日酔いになるだろう…。
部屋に戻り、寝る前にやや冷静さを取り戻した僕は、すかさず秘密のポケットから秘密のドリンクを取り出した。旅行前に掲示板でおなじみのカタカシさんからいただいた秘密のドリンク――ハウス食品のウコンの力ともいう――である。
旅行に携帯しようかどうしようか悩んだ末に、酒だらけの旅程を目にしてついに携帯を決断したドリンクだ。本数というエネルギーには限りがあるというのに、いまだ那覇を出発していない段階でいきなり1本目に手をつけてしまった。
うちの奥さんにも一口あげて、グイッと一息に飲み干す。
うーん……染み渡るうっちんの味……かと思いきや、なんだかアルギンZのような味。
本当に効くのこれ??
明らかになる日とかいて明日と読む。
すべては明日、明らかになる。