1月15日・1

7・マイ・ボディガード

 驚いたことに、目覚めはスッキリしていた。
 むろん、あれほど飲んだわりには…という注釈がつくが…。
 秘密のドリンク=ウコンの力を飲んでいなければ、おそらく今頃地獄の苦しみを味わっていたことだろう。
 「どう?残ってる??」
 うちの奥さんが聞いてくるので、今の頭の中の状態を歌で表してみることにした。聞いてみる?

 〜♪モヤヤ〜ン、モヤ〜ン、モヤヤヤヤァァァァァ〜ン……

 靄がかかっているような、それでいて酒はそれほど残っていないという、不快感があるのかないのか、本人にさえわからない微妙な状態を見事に捉えた歌といえよう。ウコンの力を信じれば、きっとあなたにも体験できるに違いない。

 さてさて、今日は15日。
 旅行記が始まってすでに7ページ目というのにいまだ那覇を出発していない。
 ようやく今日出発か…と思いきや、そうは問屋がおろさない。
 今日は新年会である。

 本来は今日の朝島を出て、鳥をクリニックに預けてから先輩宅に野菜を届け、その後ちょこっと所用を済ませて夕刻に新年会へ、という予定だった。どこにも無駄がない。
 ところが本島に出てからの用を昨日のうちにほとんど済ませてしまったので、日中ポッカリ時間が空いてしまった。

 しょうがないので、たっぷりある午後の時間を映画に費やすことにした。
 「マイ・ボディガード」である。
 いやすまぬ。もはや旅行記なのか普段のログなのかさっぱり区別がつかないであろう。でも書いている本人も…いや、そのときその場にいた僕でさえ、自分たちが旅の途上であるという意識はまったく持っていなかったのだからしょうがない。

 さてこの映画、特にデンゼル・ワシントンのファンでもダコタ・ファニングを愛する変態でもない僕がなぜ観ようと思い立ったかというと、普段よくアテにしている映画評サイトのこの記述を見たからである。

 なんか「スパイ・ゲーム」のときも同じことを書いたような気がするが──正月映画随一の「男」のための映画である。オンナや家族と一緒なら「Mr.インクレディブル」や「ハウルの動く城」をお勧めする。息子と観るなら「エイリアン vs.プレデター」か「ゴジラ FINAL WARS」か。元旦からは「カンフー・ハッスル」だって始まる。だが男が観るなら「マイ・ボディガード」だ。

 同じように書かれていたスパイ・ゲームは、評者がおっしゃるとおり間違いなく傑作だった。だったらマイ・ボディガードも面白いに違いない。
 
A.J.クイネルの小説「燃える男」が原作のこの映画、原作を読んだことのある人からするとなにやら大変物足りないらしいのだが、僕はまったく未読なのでそのあたりは心配ない。
 その点、例によってうちの奥さんは誰が出ているのか、どんな映画なのか、まったく白紙の状態である。ある意味とてもうらやましい。

 前半で特筆すべきは、ダコタ・ファニングの人間離れした…いや、子供離れした演技力とその可愛さである…という人が大半を占めるだろう。たしかに超人的子役である(なんとなく子供の頃の安達祐美に似ている)。
 しかし我々にとって注目すべきは、メキシコアカボウシインコ(当サイト同定)である。うちのテンちゃん――アオボウシインコ――の親戚だった。昨夜いっときの別れを済ませたばかりだというのに、こんなところで里心がついてしまった――<逆だろう、それは。
 ヴェー
 と鳴く声まで懐かしい。
 おまけに、デンゼンル・ワシントンが差し出す人差し指をガブリと噛み付くところなんざ、テンちゃんそのものではないか。ああ……<バカ。

 感情移入するところをやや間違えつつも、前半と後半でまったく性質の変わるこの映画、R−15指定というのを見て後半の予想がほぼついてはいた。
 後半はバイオレンスである。
 でも、前半あってのバイオレンスなので、主人公の行動にはうなずけるものがある。残虐シーンに納得するだけの根拠があるのだ。
 が。
 おそらくは原作を読んだことのある方にとっては大どんでん返しなのであろう「感動」エンディングになっていたのだった。そりゃハリウッド映画だもの、そうせざるを得ないことはわかる。しかし、そうなると後半部分の主人公への感情移入の足元が思いっきりふらついてしまうじゃないか……。それあってのバイオレンスだろう?という「それ」が「それ」じゃなかったとなると……。
 ネタバレになるので曖昧で申し訳ない。とにかくそういうわけで、「同じことを書いた」スパイ・ゲームと比べるなら、僕はスパイ・ゲームに軍配を上げたい。

 それでもやはり、「映画を観た〜」という充足感は充分に得られる映画だった。
 こういう、短時間で起承転結が終わってしまうものを旅行前に見るのは間違っている。
 だって、自分の心の中で、プロローグがあり、だんだん盛り上がってきて、そして感動のエンディングが……というひととおりのプロセスを味わってしまったら、なんだかもう一度リセットしてこれから旅行のプロローグに心を転ずるのが億劫になってしまうんだもの……。<あんた、それは最初からわかってたじゃないか。

 とにもかくにも映画は終わった。いよいよ本日のメインイベント、新年会である。
 今宵もウコンの力が「マイ・ボディガード」になるだろう。