6・白いネクタイはどこに?

 天下の横浜である。
 大都会である。
 水納島や渡久地近辺とはわけが違うのである。
 礼服用の白いネクタイくらい、そこらじゅうで売っている……と思うじゃないですか、普通。
 でもよくよく考えてみれば、大都会横浜といっても僕らのいるところは中華街のすぐそば。中華街にはチャイナドレスはズラリと並んでいても、白いネクタイなどあるはずはなかった。

 じゃあ、コンビニならあるかな?
 そう期待して、中華街およびこのあたりのガイドを買って出ていた違いのわかる男の案内のもと、ホテルを出てテケテケテケ彷徨ってみた。
 元町商店街に行ってみよう。

 そういえばこのあたりは、かつて北海道へスキー旅行に行った際(2003年)、行きに経由したのがこの横浜だった。中華街で中華料理を食べるべく立ち寄った横浜だったが、元ドレイ・ケンタローのガイドの下、右も左もわからない我々は、この元町商店街も散歩したのだったっけ。

 そのときのイメージどおりのまま、元町商店街は高級感漂う商店街だ。
 はたして白いネクタイは??

 どうみても居並ぶお店は高級ブティックっぽい。
 ちょこっと試しに有無を問うと、2階にあるという店があった。
 ここですぐさま気がつかねばならないところだ。僕が探し求めているネクタイなんて、店先で売っているような安物で充分なのである。そんな、ブティックの2階にキチンと陳列されているネクタイなんて、そもそも手が出るわけないじゃないか。
 でも案内されてしまったので、仕方なく2階の店員に訊いてみる。

 「礼服用の白いネクタイってありますか??」

 「ございますよ……こちらです」

 あった、というヨロコビよりも、いったいどんなものが出てくるのだろうかという興味もあった。
 スーッと開けられたネクタイ用の引き出しの中には、思わず「?」となるような柄物ばかり。
 えーと……礼服用なんですけど………??

 「ええ、こちらの水玉なんかも普通に礼服でご使用になれますよ」

 み、水玉!?
 それも、白じゃなくてシルバーというかグレーというか、そんな地に黒い水玉………。
 隣で思わず噴出すオチアイ。
 おそらくこれを僕が着けている姿を想像しているのだろう。
 いやあ、お値段はともかくとして、この柄はいくらなんでも若々しすぎるんじゃないのかなぁ……。
 服装には無頓着な僕も、さすがにご辞退申し上げたのだった。

 さてさて、他にネクタイを置いているところは……?

 これがあなた、まったくないのだ、この元町商店街には。
 なんで犬用のチョッキは星の数ほど置いてありそうなのに白いネクタイはないんだよ、この野郎…。
 ちょっとラフっぽい服を売っている店に入って、藁にもすがる思いでネクタイの有無を聞いてみたところ、

 「キオスクに行ったらあると思いますよ」

 キオスクって、駅の??
 あ、もう少し先に行ったところにある石川町駅か。
 なんだよ、結局駅まで行かなきゃなんないのかよぉ…

 と不満を表明しつつ駅に到着すると……

 キオスクはすでに閉店!!

 な、なんでよぉ??
 その後、コンビニというコンビニを回っても、ついに白いネクタイは発見されなかった。
 そうやって途方にくれつつホテルに戻っているとき、ケータイ電話が鳴った。

 坊主

 と出ていた。
 あ、お坊様からだ。
 もしもし?

 「社長、今どちらですか?」

 どちらって、今ネクタイを探して途方にくれつつホテルに戻ろうとしているところです。

 「ネクタイ??」

 と驚くお坊様に事情を話すと、それだったら関内や伊勢佐木町のほうまで行けば手に入るはず、と教えてくださるものの、右も左もわからない人間に関内だ伊勢佐木町だって言われたって……。
 というと、

 「なんでしたら明日午前中、お買い物にお付き合いしましょうか??」

 いや、いくらなんでもそれは申し訳ないですよお坊様。
 そう、実はお坊様のお寺は横浜にあるのである。これまで当サイトでお坊様だのバトルボーズさんだのナマグサ坊主だのと呼んでいるのは、ニックネームでもなんでもなく、本当にお坊様なのだ。

 それにしても、なんでそこまで親切にしてくださるの??

 アッ!!

 そういえば僕はこの旅行に出かける前に更新してきたログコーナーで、この旅行が今オフの旅行記になるだろう、そう書いてきた。
 ひょっとしてお坊様、その旅行記に出演したいんじゃ………??
 なぁ〜んだ、お坊様ったら……かわいいなぁ!!

 …などとのんきにしている場合ではなかった。
 ネクタイを探さねばならないのだ。
 最後の頼みとしてとっておいた、ホテル内のお店を回ってみた。
 すると……

 「ございますよ」

 あった!!
 それも、無難な柄のお手ごろ価格のヤツが。
 なんだ、ホテル内にあったんじゃん。これぞ大正デモクラシー……じゃなかった、灯台下暗しってヤツだね。

 こうして、ただ白いネクタイを探すだけで、元町商店街を縦断し、テケテケテケテケえらく歩き回ったのだった。
 何がうれしくてこんなに歩き回るのか。
 その答は誰にもわからないものの、我々夫婦は翌日もまたひたすら歩くことになる。

 なにはともあれモンダイは解決した。
 あとはシャワーを浴びて、少しゆっくりして……

 いよいよ横浜の夜の街に繰り出すのだ!!