水納島の魚たち

アカホシイソハゼ

全長 2cm

<重要>

 どの稿でも程度ということでは似たりよったりではあるのだけれど、ことイソハゼの仲間たちに関しては、いつにも増して最初にお断りしておかなければならない。

 ここで〇〇イソハゼと紹介するのは、あくまでもワタシが「きっとそうだろう…」とウスラボンヤリ思っているというだけで、ホントにその種かどうかについてはまったく自信が無い。

 昔と違って図鑑類が充実しているのはうれしいところながら、これまた昔と違って掲載されている種類が増えてしまい、「うれしい」は悲鳴を伴うようになってしまった。

 ハゼに特化した図鑑が世に出て久しく、ネット上では種ごとの検索でさえ綺羅星のごとく画像が並ぶのが当たり前になっている、というのはとってもありがたいことなんだけど、2cm前後の小さなハゼの模様がどうだこうだ言われたところで、数枚の写真と比較しただけで判別できるはずがない(※個人の能力です)。

 ところが困ったことに、ハゼ界ではもはや帝国といっていいほどの変態社会が隆盛を極めており、このどうにも区別不能の小さな魚たちを小気味よいほどに見分け、それぞれの種に同定してキチンと整理できるヒトたちで溢れかえっているのだ。

 昭和の寛容な社会ならいざしらず、不寛容社会の21世紀においては、少なくとも酔っ払った雑貨屋のオヤジが〇〇イソハゼでござい〜♪なんてやってはいけない世界なのである。

 …以上を麦踏み200回分くらいふまえていただいたうえで、毎度バカ話を一席……。

<重要>終わり。

 イソハゼの仲間はどれもこれも小さいから、注目していなければ、目の端でチョロチョロしているだけの存在になってしまう。

 でもマクロレンズなどを通してその姿をつぶさに見ると、小さな体に美しさがギッシリ詰められているものも多く、なかなか侮れない存在になってくる。

 アカホシイソハゼ(とワタシが思っているハゼ)は水納島でも出会う機会は多く、砂地の根で何か別のモノに注目しているときでも、チョロチョロっと岩肌を移動する姿を観ることができる。

 出会う機会が多いといっても集団で暮らしているわけではなく、普段はたいてい単独で、物静かな雰囲気を漂わせている。

 ところが、恋の季節となると話は違ってくる。

 ヒレを全開にし、興奮モードになっていることを全身でアピールしているその姿。

 そういう場合は近くに別の子がいることが多く、きっとオス同士なのだろう。

 こちらも相当張り切っている。

 やがて両者はにらみ合いを始め……

 互いに位置を変えつつ、ヒレ全開のまま睨み合い、ジワジワと間合いを詰めていく。

 そして臨界に達した刹那、渾身の一撃……

 ……のシーンは撮れず。

 このジワジワ接近、そして攻撃…を何度か繰り返してくれたのに、あまりにも瞬時すぎて対応できなかった…。

 何度か刹那攻撃を繰り返すうちに決着がついたらしく、1匹がスゴスゴとその場を離れていった。

 勝者はやはり大きめのほう?

 違った。

 小柄なほうが、その場で雄々しく踏ん張っていた。

 かつて無敵の王者ホセ・メンドーサの顔にまったく傷もケガもなかったように(※架空の人物です)、無傷は強者の印。

 尾ビレがきれいなままなのは伊達ではなかった。

 尾ビレが傷んでいたほうは、歴戦の勇士でもなんでもなく、単に連戦連敗戦士だったらしい…。

 まぁ勝敗は時の運、こんな小さな魚たちの一所懸命な戦いを見ていると、美しさのうえに健気さも倍増だ。

 このバトルの際に付近に可愛いあの子がいたのかどうか、それはわからなかったけれど、大事な縄張りを巡ってもこのように争うのだろう。

 これとは別に、2匹の姿が見えるうちの片方だけが、威勢よく発色しているシーンもあった。

 明らかによそ行きの衣装に身を包んでいるオスらしき子の近くには、ノーマルカラーの子がいた。

 これはひょっとして、アカホシイソハゼの恋模様?

 メスらしきノーマルカラーのほうは、イヤそうな素振りを見せつつも、オスの視界の中でなにげに気を引きながらウロチョロしていた。

 するとオスは、入魂状態で後を追い……

 あら?

 ケンカしてたの??

 オス同士だったのだろうか、それとも熱くなりすぎて、恋しているんだかケンカしているだかワケがわからなくなってしまったのだろうか、もともとアカホシイソハゼの恋はバイオレンスなのだろうか…。

 普段は静かなたたずまいを見せるアカホシイソハゼなのに、盛り上がると見境が無くなるらしく、時にはまったく異なる相手に対してバトルモードになっていたこともある。

 何を勘違いしているのか、カスリヘビギンポに対してヒレ全開で反応していたのだ。

 アカホシイソハゼがノーマルカラーなのは、ハゼにとってまだそういう季節ではないからなのだろう。

 一方、春先から恋の季節を迎えるギンポたちなので、カスリヘビギンポは完全興奮モードだ。

 ハゼとギンポといえばまったく別グループの魚だから、たとえオス同士であったとしても本来なら争うべき要素など何もない。

 にもかかわらず、まるでマイケル・ジャクソンの「Beat it」のプロモーションビデオのナイフバトルのように、互いの距離を維持しつつも牽制しあいながら、時計の針のように2匹でクルクル回っていた。

 この場合一方的に盛り上がっているのはカスリヘビギンポのほうだから、アカホシイソハゼとすれば売られたケンカを仕方なく買っているってところだろうか。

 でもいくら売られたからといって、体格差はストロー級とヘビー級くらいの違いがあるんだし、そもそもハゼとギンポじゃ興奮モードで争う意味がないじゃん。

 恋は盲目とはよくいったものだ(この場合盲目なのはカスリヘビギンポか…)。

 ところで、アカホシイソハゼはモードによって体色が変わることこそあれど、オスメスともにフォルムは変わらないと思っていた。

 ところが、たま〜に↓こういうタイプがいる。

 背ビレの先がピンと雄々しく立っているヤツ。

 オスではこのフォルムが特徴になっているオオゴチョウイソハゼかなと思ったものの、赤星模様といい体の模様といい、これはアカホシイソハゼですよね?

 ホントにアカホシイソハゼなら、このロングフィンタイプはたまたま?それとも環境の違い?(写真の子がいたのは岩場のポイント)

 たくさん観られるアカホシイソハゼでこうなのだから、他のイソハゼたちとなったらいうに及ばず。

 ここまでご覧になっていろいろ信じかけた方は、もう一度<重要>に戻ってご自身を戒めてくださいね…。