水納島の魚たち

アミメチョウチョウウオ

全長 10cm

 水納島ではシチセンチョウチョウウオ同様、砂地のポイントではなかなか出会えない。

 なにかの拍子にたまに砂地のポイントに現れることもあるけれど、シチセンチョウと違ってたいてい海底付近で、個体数が少ないからだろう、カガミチョウチョウウオと仲良しになっていることが多い。

 岩場のポイントではけっこう深い壁際や海底付近でたまに見かけることがあり、ペアでいることもよくある。

 それに対して砂地のポイントで観られるものはリーフ際にいることが多いから水深は浅く、若魚サイズながら水深10m未満で出会ったこともある。

 いずれにしても個体数は少ないから、幼魚に出会うチャンスなどほとんどない。

 ……と思っていたら、水深20mほどのガレ場で500円玉サイズと遭遇した。

 色柄的にはオトナとほとんど差はないけれど、あどけなさが残る表情がカワイイ。

 過去30シーズン(2024年現在)でアミメチョウのチビターレに出会えたのはこの1個体のみだから、この千載一遇のチャンスを逃さずに済んでよかった…。

 追記(2025年11月)

 上記本文中で、アミメチョウチョウウオ同士のペア写真が無いことに気がついた。

 それは出し惜しみしていたわけではなく、手元に1枚も無かったからだった。

 ここ数年、シーズン中にはちょくちょく足を運ぶ岩場のポイントのとある場所で、アミメチョウのペアをよく見かけていた。

 そもそも個体数が少ないから、岩場のポイントの深いところに行ったからといっておいそれとは会えないアミメチョウ、そのペアがせっかく数年居続けてくれていたのに撮っていなかったとは。

 そこで今年(2025年)のGWに、ペアを撮ろうと現地を訪れてみた。

 で、幸先よくアミメチョウと遭遇。

 ところが、パートナーはアミメチョウではなく、カガミチョウになっていた。

 これまでのパートナーが不慮の死を遂げたのだろうか。

 本文中でも紹介しているように、個体数が多いカガミチョウをパートナーにし(ようとし)ているアミメチョウ…というケースはそれほど珍しいわけではないのだけれど、いずれの場合もアミメチョウが言い寄る側で、このペアの場合も、カガミチョウが行くところどこまでもついていく…というくらいのしつこさでアミメチョウが頑張っていた。

 その様子はペアというよりもストーカーといったほうが近く、カガミチョウが岩肌の何かを啄もうとすると、すぐさま同じように岩肌をつつこうとするアミメチョウ。

 傍から見ているとカガミチョウの邪魔をしているようにしか見えず、カガミチョウ自身も相当うざがっている様子。

 ご賢察のとおり、どう見てもアミメチョウがオスで、カガミチョウがメスなのだろう(カガミチョウのお腹はポッコリ膨らみ始めてもいる)。

 すなわち、種類は違えどオスの懸命な婚活。

 なので共にエサを啄むだけではなく、メスに対するアピールも怠らない。

 近づきすぎると反射的にパッと背ビレを広げるものだけど(上の写真のカガミチョウのほうはその反射行動と思われる)、このアミメチョウの場合は反射的にこのように背ビレを広げているわけではなく、メスに対して広げて見せているっぽい。

 そのため一瞬で閉じるのではなく、広げたまましばらく静止していた。

 カガミチョウが泳ぎ始めても、アミメチョウはついていきながら背ビレを立てっぱなし。

 ここまでアピールされてもカガミチョウにはまだそこまでのキモチはないようで、アミメチョウを袖にして、つれなく居場所を変えるのだった。

 アミメチョウの「あらら…?」という顔が切ない…。

 翌日同じ場所を訪れたオタマサによると、この異種ペアは、もう1匹カガミチョウが加わった異種トリオになっていたという。

 カガミチョウにかぎらず、チョウチョウウオ類ではトリオで行動している種類がわりといて、カガミチョウもそのひとつ。

 それはパートナーが不慮の死を遂げた場合の保険…と見えなくもないんだけど(生理学的にチョウチョウウオ類も1匹が両性の機能を有していることが判明しているそうな)、時々その「保険」の立場らしき者がオスに対して反旗を翻していることもあるから、横恋慕しているオスがつき従っているだけ…なのかもしれない。

 保険であれ横恋慕であれ、同種であればともかく異種が混じるトリオとなると、アミメチョウはたちまち「保険君」もしくは「横恋慕君」に格下げされるんじゃ…。

 もっとも、ハイブリッド出現率の高さに鑑みれば、カガミチョウたちはアミメチョウを「異種」と認識していないかもしれない。

 となると、この服喪中のアミメチョウにもチャンスはあるか?