水納島の魚たち

バラハタ

全長 50cm

 どういう手違いか、築地市場に登場してしまい、一躍時のヒトとなったバラハタ。

 シガテラ毒キャリアーであるため、毒魚が商品として取り扱われている!!と、例によってマスコミが騒いだものだった。

 たしかにシガテラ毒の危険性が高い魚ではあるけれど、これまたどうやら地域性や個体差があるようで、事の善し悪しはともかく本部町内の鮮魚店の店頭に並んでいることもあるほどだし、基本的に沖縄県内では「食用魚」認定されている。

 とはいえそうやって大々的に報道されると、見るからに毒々しいその体の色ということも手伝って、やがてローカルでも市場から姿を消していくのかもしれない。

 だからだろうか、近頃とみにバラハタが増えている気がする。

 バラハタのオトナは、居心地が良ければひとつの根に長期滞在することもあるけれど、その行動範囲は広く、基本的に根に居つくタイプではない。

 大型のハタなので泳ぎっぷりは悠々としており、別目的でアカジン(スジアラ)を求めている時などには、遠目に見ると一瞬それと勘違いしてしまう。

 アカジンほどの頻度ではないにしろ、体色を薄めにして砂底に鎮座していることもあり、その様子もそっくりだ。

 でもアカジンやその他多くのハタの尾ビレが優し気な輪郭をしているのに対し、バラハタの尾ビレはまるでヨーロッパの鎌のようなラインを描く。

 この尾ビレさえ見過たなければ、間違えてバラハタを食べちゃいました…なんてことにはならないだろう(近縁のオジロバラハタも同じくシガテラ毒キャリアーで、同じような尾ビレの形をしている)。

 大型のハタ類にとっては食物連鎖上最大の脅威といっていいヒトから狙われなくなったためか、昔に比べてさらに悠然と泳いでいるバラハタは、子供の姿もそこかしこで目にすることができる。

 リーフ際の死サンゴ礫ゾーンに多く、オトナとはまったく違う体色をしたチビが、いっちょ前に縄張りを主張している。

 これで10cmちょいくらい。

 もっとも、小さいだけにけっこうビビリなので、我々闖入者を胡散臭げに睨みつつも、いざとなるとすぐに逃げてしまう。

 その逃げる前、逃げようかどうしようか逡巡しているときの様子がカワイイ。

 そしてよく観ると、このころのバラハタって……

 …セジロクマノミのようなラインがクッキリ。

 なんだバラハタ、チビターレの頃はかわいいじゃないか。

 でもやはりハタはハタ。

 ひとたび本気を出すと、その口はあたりの小魚くらいなんでも一息に飲みこめそうなほどに開く。

 チビの頃は基本的にこのような色合いのバラハタは、もう少し成長するとグッとオトナの色に近くなってくる。

 ここからオトナになるまでどれくらいの月日を要するのかは知らないけれど、40cmくらいあるものはみな、ほぼオトナの体色になっている。

 シガテラ毒をマスコミが大々的に騒ぐおかげで捕獲圧が皆無に近くなった彼らは、スクスクとオトナになっていくことだろう。

 追記(2023年7月)

 毎年梅雨頃になると、各種幼魚たちがドッと増えてくるんだけど、バラハタのチビたちもその頃から姿を見せ始める。

 ただし小さいだけに警戒心は相当強く、遠目に姿を察知できても、少し近寄るだけですぐに石の隙間に逃げてしまうため、姿を見はしても記録になかなか残せない。

 ところが今年(2023年)の梅雨に、ひとあじ違うバラハタチビターレに出会った。

 やはり石の下に隠れはしても、そこから外を伺っている姿が観やすい場所に居てくれたチビチビは、全長4cmほどと、画像に残せたなかでは人生最小記録だ。

 何も知らずにこの顔だけ見たら、「セジロクマノミのような模様が入っているゴンべの仲間なんていたっけ?」と思ってしまうかもしれないこのプリティフェイス。

 しかしその体側の模様を見れば…

 まぎれもなくバラハタのチビターレであることがわかる。

 たとえ体の模様が見えないままでも、そのままずっと観ていると、少なくともゴンべやハナダイとは違うことがすぐに判明する。

 将来の姿を彷彿させる大きな口は、紛うかたなきハタのものなのだった。