全長 80cm(写真は50cmほど)
沖縄では「アカジン」という方言名のほうがつとに有名で、アカマチ、マクブと並ぶ、県内3大高級魚として君臨し続けている。
高級魚だけあって、煮ても焼いても美味しいけれど、なんといっても刺身が極上。
ただし高級魚なので、居酒屋でおいそれとはオーダーできない魚でもある…。
アカジンという方言名は、水揚げされた時の鮮やかに朱に染まった体色に由来している。
水揚げされると同じように赤く染まるコクハンアラもアカジンと呼ばれるようで(やはり高級魚)、釣果となると、場合によっては見分けるのが難しいこともあるようだ。
でも海中で観るオトナのスジアラは同サイズのコクハンアラよりも体高があり、全体的にドテッとしている感じがするので見分けるのは容易だ。
海中では、夜間寝ている時にはライトで照らすと輝くように赤くなっている。
けれど日中は深く暗い岩場でもないかぎり、赤色をしていることはほとんどなく、水納島のように明るいところ、特に砂地のポイントでは、どこにいても日中はたいてい↓こんな感じだ。
体色の濃淡を自在に変えることができる彼らながら、水納島の場合外敵がほぼ皆無なため警戒する必要が無いからか、砂底にいる場合でも体の色を濃くしたまま休憩していることが多い。
でも接近してくるダイバーに危険を感じると、素早く体色を薄くする。
いずれにしても、日中砂地のポイントにいるスジアラを撮影しても、赤く写ることはまずない。
……と思いきや、昔撮ったポジフィルムをふりかえっていると、砂底に鎮座しているスジアラが赤っぽくなっている写真があった。
これって、ポジフィルムとデジタルカメラの、色の再現性の違いなのだろうか??
フィルムであれデジカメであれ、若い子はけっこう赤味がかった色をしていることが多い。
これくらい(30cmくらい)なら、まだ無敵ゆえのふてぶてしさはなく、行動範囲はさほど広くない。
けれどふてぶてしいオトナになると、その行動範囲はリーフ際から深い深いところまで、かなり広範囲になる。
オトナのスジアラはあちこちを広く行き来するので、それを利用する魚もいる。
同じくらいの体長がある魚に寄り添い、「動く物陰」に隠れながら移動する習性があるヘラヤガラが、スジアラにピタリと寄り添って泳いでいるところ。
こうして隠れつつ、どさくさ紛れに小魚を捕えるためなのだろうけど、ほぼ同じ食性のように思えるスジアラに寄り添っていて、隠れている効果があるのだろうか。
ひょっとすると、移動している時のスジアラは、小魚たちにとっては安全牌認定されているのかもしれない。
このように少しは他の魚の役に立っているスジアラではあるけれど、なにしろ彼らは、水納島のような海では食物連鎖のほぼほぼ頂点付近のプレデター。
ひとたび縄張りを確立するや、隠れ家がある根を広い行動範囲内にいくつかキープしつつ、そこらじゅうでやりたい放題になる。
40cmくらいになると、フツーにハナダイ類を食べている……
…ということを知ったのは、俎板の上に乗せたスジアラの口からキンギョハナダイが飛び出てきたからだった。
50cmを超える個体では、その胃袋からアカヒメジが出てきたこともある。
それがユカタハタなどのゴッドファーザーのように、根の公序良俗安寧秩序を維持する見返りとして得ているみかじめ料的なものならばともかく、広範囲を遊泳するスジアラは「おいしいとこ取り」でしかない。
その根の秩序などまったくおかまいなしだ。
しかも60cm〜80cmのオトナが複数匹ウロウロするようになれば、小魚たちの被害はユカタハタのみかじめ料どころではない。
そんなスジアラを殖やそうと、水産資源確保目的で稚魚の放流が行われるようになって久しい。
食物連鎖のピラミッドのほぼ頂点に位置しているといってもいいこのスジアラをやみくもに放てば、そこらじゅうの小魚という小魚が、彼らによって駆逐されてしまうことになるかもしれない……
……といったことを、水産資源にしか目が行かない人々はけっして考えない。
もちろん、放流した稚魚の全部が全部そのままオトナになるまで成長するわけではないし、実際に海中で出会っている個体が放流個体である可能性のほうが低いかもしれない。
でも、放流されるようになる前から比べると、近年は出会える個体数が格段に増えていることだけはたしかなのだ。
スジアラを殖やしたいのであれば、まずはその餌となる小魚が増える環境を維持しなければ。
なにごともバランスが大事なのである。
水納島周辺の海中の自然環境に鑑みれば、人為的にやみくもに増えてしまったスジアラは、現在のところ「害魚」でしかない。
この「害魚」、駆除せねばなりますまい?