水納島の魚たち

ベニゴンベ

全長 9cm

 生息分布の中心が大平洋の真ん中よりなので、沖縄では極めて珍しいベニゴンベ。

 その主分布域に属する小笠原やサイパンあたりではイヤというほどいるらしい。

 なので、沖縄で本種を見た、というのとサイパンで見た、というのとでは、そのレア度はケタ外れに違ってくる。

 沖縄のガイドの方が、「ベニゴンベですよ!」と目の色を変えて興奮気味に教えてくれたら、けっして「あ、それサイパンで見ましたあ」などと興味なさそうに言ってはいけない。

 水納島では、リーフのかなり浅いところにある、枝ぶりのいいヘラジカハナヤサイサンゴを探せば、かつては年に1個体くらいは見つけられた。

 そこまでして探さずとも、90年代後半の数年で数個体観たことはある。

 近年は同じような場所を探してみても、まったく会えなくなってしまった(だからといって「いない」というわけではないと思う)。

 ベニゴンべの場合は、たとえいてくれたとしても観察するのはムツカシイ。

 なにしろ警戒心がとんでもなく強く、近寄る前からその気配を敏感に察知し、サンゴの隙間に逃げ込んでしまうのである。

 逃げ込んでジッとしているならともかく、サンゴの隙間をアカテンコバンハゼなみに器用にすばやく逃げ回るので、サッと動く赤い影……しか見えない。

 全身を写真に納めようなんていうのは、無理矢理外に追い出しでもしないかぎり、とうてい不可能だ。

 そうこうしているうちに会えなくなってしまったから、ヘラジカハナヤサイサンゴの枝間から恐る恐るこちらを眺めている冒頭の写真くらいしか残っていないのだった。