全長 7cm
ある程度経験を積まれたダイバーのなかには、海水浴やスノーケリングでも楽しめるような浅い海を、ともすれば興味の対象外にしてしまう方がいる。
非日常的未体験ゾーンは、日の届かぬほどの薄暗い海にこそある…と思う気持ちもわからなくはない。
ところがスズメダイの稿で紹介しているクジャクスズメダイもそうだったように、灯台下暗しも甚だしい場所で、予想だにせぬ非日常の出会いがあることもある。
このギンガハゼもまた然り。
立派な和名がついているくらいだから、もちろん日本国内で発見されている魚である。
が、日本にいるとはいっても、それは八重山諸島であったり奄美大島であったりと、地域はかなり限定されているのだ。
そんな魚が水納島にも!!
ってことだけでもかなりのオドロキなのに、その居場所ときたら、なんとなんと…
ビーチの中!!
シーズン中は大勢の海水浴客で賑わう場所、しかも、波打ち際から10mあるかないかという浅いところだ。
これをオドロキといわずになんと言おう。
ちなみに、水納ビーチ内のことなら隅から隅までなんでもご存知の巨匠コスゲさんでさえ、まだビーチでご覧になったことがないハゼである。
ビーチ、侮りがたし。
そんな魚をワタシが目にすることができたのは、ひとえに発見者であるかねやまん氏のおかげだ。
それは2009年のことだった。
3本目のセルフビーチダイビングから戻って来たかねやまん氏が、ポツリとつぶやいた。
「なんか黄色いハゼがいたんですけど…」
そう言いつつ見せてくださった写真は、紛れもないギンガハゼ!!
過去14年間(2009年当時)、水納島で誰もその姿を観たことがなかったハゼが、こともあろうに海水浴場エリアに。
我々の衝撃をご想像いただきたい。
ナニゴトにもソツがないかねやまん氏のこと、そのハゼが居る場所を確認すべく、ギンガハゼの直上の水面から顔を出し、桟橋や突堤、モクマオウの位置を頼りに精密な山立てをしてくれたのはいうまでもない。
その情報を元に作成された地図で居場所を示してくださったおかげで、後日ワタシも難なく発見することができたのだった。
ギンガハゼには、ノーマルタイプと黄化個体の2タイプあって、ベースの色はまったく異なる両者ながら、銀河の星々のごとく散りばめられたブルーのスポットはどちらにも観られる特徴だ。
水納ビーチにいたギンガハゼは黄化個体だったから、遠目にもすぐさま居場所がわかるほどに目立っていた(ハゼの世渡り的にそれでいいのだろうか?)。
ビーチにいたギンガハゼキレンジャーは、このエビちゃんと同居していた。
モンツキテッポウエビ。
どういうわけかこのギンガハゼは、エビが出てくる都度、キバッた格好をする。
エビちゃんが出てくるたびにアブノーマルなポーズをしてくれるおかげで、動きのある絵も容易に撮らせてくれる。
動きといえば、彼の食事の仕方も面白い。
このテの形態をした共生ハゼといえば、流れてくるプランクトンや浮遊物を餌にしているものが多いのに、このギンガハゼ君は、しきりに砂底をボイボイと物色していたのだ。
もともとは内湾性のハゼとのこと、餌となる有機物の沈殿が多いであろう環境に住む者の、もって生まれた習性なのかもしれない。
このギンガハゼがずっとビーチにいてくれれば、セルフビーチダイビングのタンクレンタルだけで、我が家には御殿が建つかも。ウフフ♪
……などという銀河のことも夢のまた夢。
発見後こそ同じ場所にしばらくいてくれたギンガハゼ君は、残念ながら2ヶ月後にはいなくなってしまった。
そりゃあ、潮がひけば海水浴客にフツーに足蹴にされる場所だもの、そのまま平和に暮らしていけるはずはないわなぁ……。