全長 30cm
シーズン中にしょっちゅう潜りに行く砂地のポイントに、いつ行っても必ずそこにホウセキキントキがいる。
リーフ際のオーバーハングになっている岩陰の奥の奥、暗いところでジッとしていることが多い。
夜になると外に出てブイブイいわすのだろうに、夜が明けるとおとなしく同じ場所に戻ってくるあたりがカワイイ。
いつも単独で、同じ個体だとすれば、彼がここに暮らすようになってもう随分長くなる。
とはいえこのようなリーフ際の浅い所まで戻ってきたあとは、ゲストにはフリータイムを過ごしていただくことが多く、特に珍しいわけでもなく、面白い動きをしているわけでもない魚を、それもライトを当てて岩陰の奥の奥を覗き込まなきゃならない魚を、わざわざ案内する機会は滅多にない。
それでも過去に20名くらいの方にはご案内していると思われ、年に何度もお越しくださるゲストには、この魚の健在ぶりをお伝えするためにご案内することもある。
「ご長寿のホウセキキントキです」と。
しかし。
実はこの魚は、ホウセキキントキではなく、ゴマヒレキントキなのだった。
両者は一見そっくりなんだけど、決定的に違っている部分がいくつかある。
そのひとつは、尾ビレの形。
尾ビレを広げた際、ホウセキキントキは湾曲するのに対し、ゴマヒレキントキは真っすぐなのだ。
また、その名の由来でもあるのだろう、ゴマヒレキントキのヒレは、各軟条ごとに赤い点線模様が明瞭に入っている。
それに対しホウセキキントキにはそのようなハッキリした点線模様はない。
以上を踏まえて観てみると、件の魚は思いっきりゴマヒレキントキなのだった。
これまで30回くらい「いつものホウセキキントキ健在です」とご案内した気がするIKAMAMAさん、この場を借りて訂正させていただきます…。
その区別がついてからあらためて過去の写真を見てみると、これまでずっとホウセキキントキで通してきた魚たちのうち、日中にもかかわらず表に出て単独もしくは複数で泳いでいるのはホウセキキントキで、いつも岩陰やサンゴの下にいるのは、みなゴマヒレキントキだった。
サンゴの下にいるこの子もまた、ゴマヒレキントキ。
ゴマヒレキントキもやはり気分でコロコロ体色を変えるため、冒頭の写真とは色味が異なる。
日中はこのような陰でジッとしていることが多いゴマヒレキントキながら、時にはアクビをすることもある。
間近で観る大きく開けた口の巨大なことといったら!!
そんな千載一遇のチャンスにもかかわらず、ゲストご案内中のためワタシの手にはカメラはなかった。
でもゲストの手にはカメラが!
ああしかし。
オタオタしておられる間に、アクビは終わってしまったのだった。
ああ、千載一遇が泡と消えていく……。
IKAMAMAさん、この場を借りて文句を言わせていただきます…。
ところで、魚たちにストロボを当てて写真を撮る際、内臓ストロボがレンズのすぐそばにあるコンデジはレンズと光源の角度がほぼ同じになってしまうため、魚たちの目がまるで、夜のサバンナでライトを当てて撮影されたハイエナの目のようになってしまう。
キントキたちのように目が大きいとそれが顕著で、真横からパシャッとライトを当てると……
いや〜ん、ハイエナ!
なまじ目が大きいものだから、少し斜めから撮ったくらいでは……
やっぱりハイエナ。
その点、デジイチであれコンデジであれ、外付けのストロボをレンズとは別角度から光らせて撮ると……
あら、ナチュラル♪
ハイエナ目防止のためだけでも、投資の価値はある??
なにはともあれそういうわけで、ホウセキキントキクリソツのゴマヒレキントキ、以後お見知りおきくださいませ……。
※追記(2024年5月)
昨年(2023年)のことながら、リーフ際のテーブルサンゴの下でくつろぐゴマヒレキントキの姿があった。
夏から秋にかけて3か月以上同じ場所で見られたのだけど、彼らは夜の帝王だから、夜中になると外に出て泳ぎ回りながらブイブイ言わせているはず。
ところが日中は必ずここにいる。
大きな魚だから行動範囲は広いだろうし、こういうふうに日を避けることができて身を隠せる場所であればどこだって良さそうなものなのに、夜ごと出掛けては同じ場所に戻って「ピト…」と納まっているだなんて、なんだかトランシルバニアの伯爵さまのような…。
夜ごと外で何をやらかしているのかは不明ながら、このゴマヒレキントキにとってテーブルサンゴに挟まれたこの程よいスペースは、さしずめ伯爵の棺のようなものなのだろうか。
でもお天気のいい日中にこういう場所に居る様子を観ていると、なんだか日傘をさしてのどかに過ごしているようで、なんとも心地よさそう。
その様子を動画で…。
こうして動画で見てみると、体色の変化が瞬時といってもいいくらいに早いことがよくわかる。
残念ながらこのゴマヒレキントキは、その年のうちに姿を見せなくなってしまった。
もっと素敵な休憩場所を見つけたのだろうか。