水納島の魚たち

ハゲヒラベラ

全長 20cm(写真は4cmほどの幼魚)

 水納島の砂地のポイントのように一望の砂底に根が点在する環境の場合、その根ごとにいろいろな魚たちが集まる。

 そのため広い砂地にたたずむ根は、ちょっとしたオアシスのような雰囲気がある。

 けれど隠れ家や住処としても、エサ場としても根にこだわる必要がない魚たちは、そのような「オアシス」を拠り所にすることはなく、砂底をもっぱらの住処にしている。

 テンスの仲間たちもそういった「砂漠の民」だから、彼らに会うためには、一見なにも無さそうに見える広い砂底に目を向ける必要がある。

 ホシテンスとほぼ同じような環境を好むハゲヒラベラは、チビターレが出始める時期もほぼほぼ同じで、真冬の間は会えたとしてもせいぜい前年生まれの大きめのチビくらいなのだけど、初夏ともなるとその年生まれの真チビターレに会えるようになる。

 冒頭の写真くらいのサイズの幼魚であれば、夏以降なら特にサーチしていなくてもチョコチョコ会えるけれど、この1cmほどのチビターレとなると、目を皿のようにして砂底をウロウロしなければなかなか会えない。

 ただ、スーパーファインサイズの砂粒に比してこの小ささだから、彼らの得意技である砂遁の術は闇雲に使えないらしく、あっという間につれなくシュッと砂中に逃げるってことがないので、わりと撮影しやすい。

 ホシテンス以外のこのテの幼魚となると、それがいったいどの種類の幼魚なのか、四半世紀前まではまったくお手上げ状態だった。

 ところがその後デジカメ&ネット社会になったおかげで情報が爆発的に増え、どうやらこのチビターレはハゲヒラベラの幼魚らしい、ということで落ち着いているようだ。

 この激チビが成長して3cmくらいになると…

 色味には個体差があるだろうから、こういう色をしているのはその1例でしかないかもしれない。

 これからもう少し大きくなると、水納島の砂底ではおおむね冒頭の写真のような色味になるようだ。

 ハゲヒラベラのチビは、チョコチョコ出会えるくらいには居るけれど、いつでもどこでもというほど見られるわけではない。

 また、オトナもチビも同じような砂底を好んで暮らしているはずなのに、チビはいてもオトナの姿はその周辺に見えないことのほうが多い。

 全体的に見るとハゲヒラベラはまばらにしかいないような感じなのに、場所によってはハゲヒラベラのオトナだらけというところもある。

 そのポイントの、アキアナゴの大群落が始まる水深25m超の砂底に行くと、そこらじゅうでハゲヒラベラのオトナたちが楽しげに泳ぎ回っているのだ。

 チビの頃の模様はまったく無くなり、ただのっぺりした白いベラ、といった雰囲気になる10cmほどのメス。

 彼女だけしかいないとこの子がホントにハゲヒラベラのメスなのかどうかまったく自信が無くなるけれど、周囲にはブイブイ言わせているオスが必ずいる。

 たくさんいるといっても群れていたり密になっているわけではなくて、彼らのソーシャルディスタンスは、撮り方によってはお隣さんが写らないくらいに広い。

 ところがオスが興奮モードになると、傘下のメスや隣近所のオス相手にブイブイいわせるようになるため、互いに干渉しあうようになるようだ。

 眼から口までの距離が長いのっぺり感からは想像できないほどブイブイいわせるハゲヒラベラは、ブイブイついでに正面顔も楽しませてくれる。

 この顔で本人はいたってマジメなのである。

 そんなオスが初夏頃に本気になる相手はといえば……

 卵でお腹がプックリ膨れているメス。

 こうして見比べてみても、完熟オトナになったオスとメスをパッとひと目で見分ける模様の違いはないようで、このように卵でお腹が膨れているとか、求愛っぽい行動をするとかしてくれないと、完熟オトナの雌雄を見分けるのはムツカシイ。

 …というか、先に紹介したチビターレがホントにハゲヒラベラの幼魚ってことで合っているのかどうかすら、いささか自信が無かったりする。

 間違っていたら、そっと教えてくださいませ…。