水納島の魚たち

カガミチョウチョウウオ
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アミメチョウチョウウオ

全長 10cm

 チョウチョウウオ類やキンチャクダイ類では、近縁の種同士で交雑個体が観られることがある。

 写真のチョウチョウウオもそんな交雑個体で、その体色からみても、カガミチョウチョウウオアミメチョウチョウウオを親に持つのであろうことは容易に推測できるし、実際に異種同士でペア行動をしている様子もちょくちょく見かける。

 それに↓この合いの子君は、カガミチョウチョウウオとペアになって暮らしていた。

 カガミチョウは、相手を探すのに困らないほど個体数が多いのだから、なにもわざわざ別種のアミメチョウとペアになる必要などなさそうなのに、このカガミ&アミメのハイブリッド個体を目にする機会はわりと多い。

 色の出方は個体ごとで微妙に違い、体後半部の色が黒っぽいものが多い一方で、↓こういうタイプもいる。

 アミメチョウ側の特徴を色濃く残すと、体の色は濃くなくなるようだ。

 はたしてこのハイブリ君(ちゃん)は、繁殖能力を有しているのだろうか…。

 追記(2022年11月)

 今年(2022年)の梅雨明け直後くらいに、久しぶりにハイブリっ子ことこのハイブリッドチョウに遭遇した。

 リーフ際の水深10mほどのところにしばらくいてくれたから、その後訪れるたびに観察していたところ、どうやらこのハイブリっ子は、近くにいるカガミチョウにお熱(死語?)のようだった。

 ただ、観ているといわゆるチョウチョウウオ類のペアとはいささか様子が違い、もっぱらノーマルカガミにハイブリっ子がついて行っているのはいいとして、ついてこられているノーマルカガミが、いちいち威嚇のポーズをとっていた。

 反射的にハイブリっ子も同じポーズをとることも多く、それってチョウチョウウオ類の場合、「争い」の仕草なんじゃ…?

 その都度受け入れても色模様が違うものだから、ハイブリっ子に近寄られるたびに、ノーマルカガミは反射的に戦闘態勢になってしまうのだろうか。

 それともそもそもノーマルカガミは、ハイブリっ子を「拒絶」しているのだろうか。

 どう邪険に扱われようともノーマルカガミについていくハイブリっ子の様子は、傍から観ていると健気ですらあった。

 20分くらい観ていた間、ずっとこのような感じだったのだけど、どういうわけか突然2匹は別行動に。

 束の間離れただけなのかと思いきや、その後10分ほど経っても、一緒に泳ぐ気配がまったくないほど遠く離れ離れになったままだった。

 ノーマルカガミにどうしても受け入れてもらえないことを知り、ついに諦めてしまったのだろうか。

 その一週間後にまた観に行ってみると、ハイブリっ子はすっかりロンリーライフになっていた。

 すぐ近くに同じくロンリーなノーマルカガミがいるのに(一週間前のものと同一個体かどうかは不明)、ハイブリっ子は見向きもしない。

 そのかわりそれとは別の、仲睦まじくエサをついばんでいるノーマルカガミペアに接近していくハイブリっ子。

 まさか…?

 …と思ったら、そのまさかだった。

 相手はペアだというのに、横恋慕状態になってちょっかいを出しにいったのだ。

 ハイブリっ子、そんなことしたらきっと…

 …と思ったら、ホントにそうなった。

 蹴飛ばされる勢いで、ノーマルカガミに追い立てられるハイブリっ子。

 ペアにちょっかいを出すのは、さすがに無茶だろう…。

 のんきにエサをついばんでいるように見えつつも、やっぱり1人じゃ寂しいのだろうなぁ。

 残念ながらこのハイブリっ子はその年かぎりで、以後姿を見せなくなってしまった。

 追記(2024年5月)

 姿を見せなくなっていたハイブリッ子は、実は居場所を少しばかり変えていたらしい。

 姿が見えなくなってから1年以上経った今年(2024年)2月、冷たい水温にめげそうになりながらリーフ際を徘徊していたところ、以前ハイブリッ子がいたあたりからもう少し先に行ったところにその姿があった。

 2023年は一度も出会えなかったというのに、こんなところにいたとは。

 ホントに同一個体かどうかは、ハイブリッド個体ならではの、体後半の模様の滲み具合を観ればわかる。

 どうやら同じ子であることは間違いなさそうだ。

 一度消息を絶つ直前、最後に出会ったときには、ようやくパートナーと巡り会えていたっぽいハイブリッ子だったけど、あれから1年以上経って、はたして…?

 ペア♪

 彼らの結びつきは他のチョウチョウウオたち同様とっても強く、10m以上離れていても、何かあると(=ワタシが近づくと)一目散に相手がいるところまで駆けつける。

 俯瞰で観ているわけでもないのに、離れ離れでいてもなんですぐに互いの場所がわかるんだろう…。

 ちなみにハイブリッ子のパートナーはこちら。

 一昨年の年末に会ったペアでは、カガミチョウのほうがオスっぽい雰囲気を漂わせていたんだけど、このときはなんとなくメスっぽさが滲み出ているような…。

 男っぽいとか女っぽいといったジェンダー・ステレオタイプの押しつけ話はたちまち批判の的になってしまう今の世の中ではあるけれど、魚たちはそういうことは言わない。

 オスっぽい子がメスっぽくなったのか、それとも相手が変わったのか、どっちなんだろう?

 ともかく居場所はわかったから、また時々チェックしてみることにしよう。

 で、2か月後。

 また時々チェックしてみることに…なんて言っていたことなどもちろんのことすっかり忘れてはいたけれど、たまたま通りかかったらほぼ同じ場所にハイブリッ子がいてくれた。

 しかもペアのままで。

 そして模様を見比べたかぎりではまず間違いなく同じ子と思われるパートナーのカガミチョウのお腹は…

 …(おそらく)卵でポンポコリン。

 ペアになっているのを見かけた後も、ハイブリッ子がオスなのかメスなのか、いまひとつ決め手に欠いていたんだけど、これでもうハイブリッ子を「彼」と呼んでも差し支えあるまい。

 やがて迎えることになるであろう産卵・放精の暁には、ちゃんと孵化する有精卵になるのだろうか?

 そしてハイブリッ子とノーマルカガミの子は、いったいどのような特徴になるのだろう?

 そういえば、豆チョウサイズのハイブリッ子なんて、これまで一度も観たことないなぁ…。

 毎年毎年新発見に遭遇するというのに、次から次へと見たいもの知りたいことが湧いてくるから困ったもんだ。