全長 12cm
ヒトスジギンポやイシガキカエルウオが属するこの仲間はどれもみな、着地しているのが常態だ。
ところがこのハナダイギンポは唯一例外的に、巣穴にいる時以外は遊泳して過ごしている。
砂地の根で観られるハナダイギンポは、キンギョハナダイなどハナダイ類の群れに混じって泳いでいることが多い。
といっても水納島ではハナダイギンポの個体数は多くはなく、いたとしてもひとつの根に2匹以上いることはほとんどない。
個体数は少ないけれど、一度見つけるとけっこう長い間同じ場所にいてくれるので、見つけさえすればひと夏の間くらいの長いお付き合いが可能だ。
ハナダイのように見えるといっても、そこはギンポなので、ハナダイとギンポの区別さえつけばすぐに見分けられる。
ただし近づいて撮ろうとすると、警戒心が強い子はスーッと巣穴のほうに逃げていき、スルスルスルと自分の巣穴に入る。
余裕があるときは写真のように尾ビレ側から入るけれど、慌てている時は頭から入り、巣穴の中で方向転換して顔を覗かせることもある。
巣穴から顔を出している姿は、泳いでいるときの取り澄ました顔とはまったく違い、あどけないくらいにかわいらしい。
ただし警戒して巣穴に入った子は、目立たないように顔の色をすぐに変えてしまうから、オレンジ色の可愛い色ではなかなか撮れない。
でも↑これならまだ暗い色になっただけだからいいのだけれど、場合によっては……
…ガイコツメークになってしまう(以上写真3点は同一個体です)。
色の変化といえば、普段の体色もオレンジだけではないようで、もう少し落ち着いた色で暮らしている子もいる。
尾ビレの上下端に黒いスジが入っているあたりにも違いが観られる。
これが雌雄差なのか、成長段階によるのか、気分次第なのか、とにかくその場に1匹しかいないから区別のつけようがない。
図鑑を見ると他にもカラーバリエーションがあるようだけど、少なくとも水納島では、一番上の写真のタイプの率が高い。
ひとつの根には自分以外に他に仲間がいないからだろうか、ハナダイギンポはときおりこんなことをすることもある。
自分の尾ビレを相手に、しきりに突っかかっているのだ。
繁殖期になっても、パートナーもライバルもいないから、自分の尾ビレを仮想敵に見立て、スパーリングしているのか?
天涯孤独だと、切磋琢磨も大変なようだ。
※追記(2023年11月)
GW時期といえば、まだ水温は冷たく海中ではときに戦意喪失級の寒さに包まれる。
でも今年(2023年)の端午の節句には、それまでの寒さが吹き飛ぶホットな出会いが待っていた。
ハナダイギンポのチビターレ!
季節柄各種ハナダイのチビチビがワッと湧き始めている頃で、フタイロハナゴイのチビチビがキンギョハナダイのチビチビの中に混じってないかなぁ…と覗き込んでいたところにまさかの登場。
水納島ではただでさえ遭遇チャンスが少ないハナダイギンポ、それもこれまで出会ったことがあるのは、多少のサイズ差はあれどいずれもオトナだったから、このようなキンギョハナダイチビチビサイズ(2cmほど)のハナダイギンポだなんて、2位に圧倒的大差をつけての人生最小級だ。
時をおかず再訪しても再会できる保証はないので、この機会にそのかわいい姿をちゃんと残しておかねば…。
いやまったく、なんちゅー可愛さ!
さすが子どもの日である。
ちなみに、このチビターレの成長を追うことができれば…と、その後再訪を重ねたものの、ついに再会は果たせず。
一期一会の儚き出会い、チャンスを与えてくださった海神様に感謝!