水納島の魚たち

ハナオコゼ

全長 15cm(写真は8cmほど)

 名前にオコゼとついてはいるけれど、そのフォルムが物語っているようにれっきとしたカエルアンコウ科の魚であるハナオコゼ。

 ただしカエルアンコウ科ではあってもカエルアンコウ属ではなく、他のカエルアンコウとは違いハナオコゼ属という別グループになる。

 ここまで形がそっくりなのに、いったいなにがカエルアンコウ属の魚たちと異なるかといえば、決定的に違うのはその暮らし方だ。

 他のカエルアンコウたちが何かのフリをしてカモフラージュ効果を活かしつつ、海底や岩、付着生物の表面に鎮座しているのに対し、ハナオコゼは大洋を漂う流れ藻に身を寄せつつ、風の向くまま(流れ藻の)気の向くまま、ほぼ水面付近限定で広く旅をしているのだ。

 大洋を漂う流れ藻は、一生漂流生活をするもの、幼少期の頃だけ洋上を彷徨うものなど様々な小さな生き物にとって、このうえない拠り所になる。

 なのでエビやカニ、その他いろんな魚の幼魚などがわんさか集まってくるため、流れ藻に潜んでいるだけで、ハナオコゼは一生食うに困らない。

 そんな流れ藻は、時として風のイタズラで桟橋脇に流れ着くこともある。

 一見ただの千切れた海藻が浮いているだけにしか見えなくとも、それが遥か外洋ではいろんな生き物にとって洋上のオアシスなのだということに意識が向けば、きっと楽しい出会いが待っている。

 ある時桟橋脇に流れ着いていたのは、なんてことのない海藻の切れ端だった。

 でもこの流れ藻にも……

 矢印のところを拡大すると……

 ハナオコゼがチョコンと乗っかっていた(写真下側が頭です)。

 2020年の夏には季節外れといっていい強い南風が急に吹いた日があって、その際には桟橋脇がまるで河口港のように千切れた海草や流れ藻が大量に溜まっていた。

 そこにはソウシハギの幼魚が50匹くらいいたりするなど、普段なかなか見られないチビチビたちがいろいろ紛れ込んでいたのだけれど、もちろんながらこのハナオコゼの姿も。

 さて、どこにいるでしょう?

 大洋を漂う流れ藻に住んでいるという性質上、我々が出会う機会といえばこのように桟橋でのことが多く、それもたいていの場合ひっきりなしにボートやジェットが往来するシーズン中のため、見つけたからといってドボンと飛び込んで水中から眺める、ということができない。

 一方、通常のボートダイビングでは、水面付近はエントリー時とエキジット時に通過するくらいのものだから、よほどのタイミングと運に恵まれない限りハナオコゼと出会うチャンスはない。

 ただし、通常のボートダイビングでも、出会う機会を増やす方法はある。

 2015年4月のこと、ダイビングを終えて桟橋に戻る途中で、洋上を漂う大きなゴミのそばを通りかかった。

 放っておくと、プロペラに絡みついたりしてあとあと面倒なことになるかもしれないロープの塊だ。

 どこのどいつがこんなものを捨てているのか知らないけれど、ちょくちょくこういったゴミが漂っている。

 捨てたヤツを呪詛しつつ、ともかくゴミを回収した。

 するとこのゴミに、いろんな小動物がついているではないか。

 あらあらあら…とばかりにただちに回収作業に入るオタマサとゲストのIKAMAMAさん。

 ゴミを住処にしていた生き物たちとは……

 2匹のワタリガニ系カニのチビと、12〜13匹の(たぶん)ハナオコゼチビターレ!!

 せいぜい2〜3cmほどのチビチビたちはこんな感じ。

 これがホントにハナオコゼなのかどうかビミョーながら、12〜13匹もいれば間違いなく1匹くらいはハナオコゼだろう。

 ゴミだけでなく、移動中に流れ藻が漂っていれば、もれなくチェックするだけで会うことができそうとはいえ、残念ながらハナオコゼに出会うチャンスといえばこれくらいのもの。

 なので、ハナオコゼ自体はこれまで何度も観たことがあるというのに、海中から撮った写真といえば、90年代半ばにオタマサがビーチの水面で撮った冒頭の写真だけなのだった(撮影者の記憶が微塵も残っていないため、この時ハナオコゼはなぜ剥き身(?)で水面にいたのかはまったくもって不明)。

 追記(2022年11月)

 今年7月(2022年)、今世紀になって初めて、ハナオコゼを海中で撮る機会に恵まれた。

 …って、これじゃ何だかわからない。

 大潮で潮の移動量が増したからか、大量の軽石をはじめいろんなゴミもリーフ際に流れ着いていて、ボートに戻ろうと思ったらドライブ(プロペラがついているとこ)に太いロープが絡まりついていた。

 知らずにそのままボートを走らせてしまったら、すぐさまプロペラに絡みついてしまうからすぐさま排除。

 その際になにか魅惑的なクリーチャーがいないか、ちゃんと目視したはずなんだけど、その時には気づかずボートに揚げたところ、海中で気づけなかったハナオコゼがついていた次第。

 ロープとともに水揚げされてそのままでは即席干物になってしまうから、すぐさま放流して撮ったものだ。

 この場合、ヤラセとは言いませんよね?

 再び海に戻されたハナオコゼは、けっして長距離遊泳をするために特化しているわけではなさそうな運動機能を駆使し、懸命に泳いでいた。

 ただしゴミとはいえそれまで長い間拠り所にしていたものが突然無くなってしまい、傍に浮いているものといえば…

 …ボートだけ。

 できることなら拠り所にしてあげたいところではあるけれど、この場に停めたままにするわけにもいかない。

 ボートに縋ろうとする彼を追いやり、遥かな旅路へとついてもらうことにした。

 他にも浮遊物が多かったこの日なら、すぐさま次のマイホームを見つけることができるだろう。