全長 15cm(写真は4cmほどの幼魚)
普段ちょくちょく訪れる砂地のポイントの、一面茫漠たる白い砂底には、唐突にポツンとヤギが生えている。
ヤギ類は砂から生える生き物ではないから、おそらく基盤になっている岩が砂で埋もれてしまっているのだろう。
せいぜい30cmほどの高さしかない小さなヤギながら、見渡す限りそのあたりで唯一の刺胞動物だからか、小さなエビ、タツノイトコ、コブシメのチビなどが拠り所にしている。
いつ行ってもなにかしら居てくれるので、カメラを携えて潜っている際のオタマサは、そのポイントを訪れるたびに、必ずチェックしに行く。
今年(2019年)4月のこと。いつものようにフラフラ〜とそのヤギを訪れた彼女は、これまで目にしたことが無い魚がヤギに寄り添っているのを発見した。
ハナツノハギだ。
オトナになってもせいぜい15cmほどのカワハギの仲間で、オトナはもっぱら、一般的な健全ダイバーが普通は立ち入らない深い水深を、暮らしの場にしているという。
一方幼魚は何かに身を任せつつ漂う習性があるからか、水面付近の流れ藻などについていたり、このようにオトナほど深くはない海底で何かに寄り添っていることがままあるようだ。
分布域的にはこれまで観たことがあってもおかしくはなかったハナツノハギ、記憶にあるかぎりでは水納島初登場である。
ただしこの4cmほどのハナツノハギチビターレ、カワハギの幼魚がたいていそうであるように、彼もまた自分自身の体の特性をよく理解している。
このようにヤギに寄り添っているのも伊達ではなく、いざとなると……
ワタシはヤギ……
ワタシは枝……
…とばかり、自分が細く見える方向へ方向へと体の向きを変え続ける。
背ビレの最初の1本を、ソウシハギと同じように細く長いアンテナ状に立たせる様子を是非観たいところながら、これだとなかなかキビシイかも。
アンテナ背ビレピヨヨンは難しくとも、その姿をワタシも是非観てみたい。
再訪したら、まだ居てくれるだろうか??
というわけで、翌日さっそく再訪してみた。
こういう場合、無情にもたちまちGoneというのが定番ながら、翌日だったのがよかったのか、ハナツノハギは同じ場所に居てくれた。
前日同様、ヤギの枝間に紛れ込むように隠れ潜んでいた。
前日オタマサが撮った写真と色味が違って見えるのは、ヤギのポリプが完全に閉じた状態のためオレンジの反射がないためか、そもそもストロボが違うからかは不明。
ともかくポリプが開いていないから枝の隙間はその分広くなりはするものの、ハナツノハギ幼魚は枝にかぶるようにうまい具合に場所をとる。
そのため、このように全身を覗ける位置に来てくれるのを待つだけで時間がかかる。
流れが出始めてきたのでハナツノハギが同じ向きのままでいてくれるのは都合が良かったものの、ヤギの枝が揺れるほどの流れとなれば、特徴的な第1背ビレをピヨヨ〜ンと伸ばすような雰囲気ではなくなってしまった。
せめて何にも隠れていないその全身だけでも…
と粘っているうちに撮れたのが冒頭の写真。
写真を見比べてみると、ハナツノハギがヤギの枝間に隠れて「まだバレてないよね?」と思っているであろう時の模様と、バレたと悟ってその場を移動する際の模様には、若干の違いがあることがわかる。
「バレてないよね?」と思っている時は、ラインが滲んだようになっているのだ。
生き延びるための武器といえば、せいぜい体の色を変えることくらいしかないハナツノハギの、とっておきのサバイバル機能なのだろう。
残念ながらハナツノハギは、GWにはもう姿を消していた。
シーズン中に訪れてくださるゲストにご覧いただいてこそのダイビングサービスとしては、ハナツノハギ幼魚はプロ野球オープン戦のホームラン王なみに、仕事に活かすことはできなかったのだった…。
※追記(2022年11月)
ハナツノハギ幼魚との束の間の出会いから3年後(2022年)の夏に、まさかの再会が待っていた。
一望礫混じりの砂底で、遠目にテンスモドキが2匹でいるように見えた魚に近づいてみたところ、開けてビックリ玉手箱、その魚は…
ハナツノハギのペアだった!
この2匹は10cmほどだからおそらくオトナのペアで、オスと思われるほうは興奮気味に体高を嵩高くしているのか、メス(と思われる)ほうのフォルムとはまったく違って見える。
実はちょくちょくここの砂底で観られるものなのか、それともこの日たまたま奇跡的に遭遇できたのか、普段あまり来られないところだから実態はよくわからないものの、個人的には千載一遇。
ああしかし、手にしているレンズは…(涙)。
実は上の写真、トリミングする前の元の写真は↓こんな感じ。
これでもペアまで50cmくらいまで近づいてるんだけど、フィッシュアイレンズじゃいかんともしがたい。
ポッケのコンデジで撮った方が良かったかなぁ…。
しばらくこのあたりに居続けてくれるのかと期待したこのペアは、残念ながらこの時かぎりとなってしまった。
また忘れた頃の再会に期待しよう。