水納島の魚たち

ヒメスズメダイ

全長 4cm

 大きなものになると20cmを超えるサイズになるものもいるスズメダイ類。

 しかしなかにはこのヒメスズメダイのように、小さな省エネタイプもいる。

 岩場のポイントの水深10m未満の浅いところで、サンゴの上でたくさん群れているヒメスズメダイ。

 砂地のポイントのリーフ上でも群れは観られなくはないけれど、量的には岩場のほうが圧倒的だ。

 ただ、たくさんいるのはいいものの、1匹に注目しようとすると、なまじ小さな種類だけにチョコマカ動くため、カメラを向ければすぐにパシャ…というわけにはいかない。

 となると、いつでもどこでも会えるのだから、また今度でいっか…ってことになって、ついつい撮らないままになる。

 写真のヒメスズメダイなんて、また今度ね…と言っているうちに結局15年ほど経ってしまい、ようやく撮ることができたものだ。

 いわば、構想15年の大作なのである。

 ……といいつつ、上の写真はまだ幼けない小さなチビターレをだまくらかし、カメラの前に登場願ったもので、その後6年経っても……

 ……活発なオトナはちゃんと撮れないまま。

 ヒメスズメダイ、なにげにハードルが高い……。

 追記(2020年4月)

 その後2018年になって、もうひと踏ん張りしてオトナを撮ってみた。

 ところで、オトナになっても4cmほどと小さなヒメスズメダイは、小さすぎるあまりお掃除ケアをしてくれる魚やエビに不自由するんじゃなかろうか……

 と思いきや、まったくもって心配御無用。

 ホンソメワケベラのチビターレが、かいがいしくヒメスズメダイをクリーニング。

 物心ついたときから(?)もう働き始めているホンソメワケベラのチビチビたちのおかげで、小さなヒメスズメダイの体のケアは万全なのだった。

 追記(2024年6月)

 昨年(2023年)の梅雨時のこと、岩場のポイントのリーフエッジ付近にたくさん現れ始めたヒメスズメダイのチビたちを観ていた際に、不思議なことに気がついた。

 ↑こうしてたくさん集まっているチビたちのほとんどは、↓このように尾ビレの下端に黒いスジが入っているタイプなんだけど…

 …数は少なめながら、黒いスジが入っていないタイプも混じっているのだ。

 よく観ると尾ビレ下端に黒いスジが入っていないものにもいろいろタイプがあって、↑この写真の子は背ビレの後端だけ黒いのに対し、なかには背ビレ全体が黒っぽい↓こういうものもいる。

 実は気づかぬうちにみんな同じ個体を撮っていた…なんてオチがあったら単なる体色変化ってことになるからわかりやすいのに、少なくとも観ている間に同じ子がコロコロ色を変えることはなかった。

 彼ら同士は色の違いなど特に気にかけていないようで、フツーに一緒に泳いでいる。

 同じところにいるわけだから生息環境の違いによる体色の差ってわけじゃなさそうだし、感情でコロコロ体色を変えているわけでもないとなると、それぞれがそのタイプの体色の子、ということになるのだろうか?

 たとえば黒いスジがある子は沖縄県産で、スジが無い子はもっと南洋の熱帯地方産…なんてのはどうだろう?

 でもサイパンその他、南方で撮影されている画像をネット上で見るかぎりでは、現地のヒメスズメダイにも黒スジがあるなぁ…。

 チビたちの体色バリエーション、今のところヒメスズメダイが秘めたるヒメゴトってことで納得しておこう。

 今年(2024年)の梅雨時には、オトナのヒメゴトを目撃する機会を得た。

 普段ヒメスズメダイが暮らしているリーフ上の浅いところで、観た瞬間思わず「おや?」となる、普段まったく見かけない動きをしていたのだ。

 急速垂直上昇しては素早く元に戻る、逆Uの字スイミングを繰り返すヒメスズメダイたち。

 動画では画面に2匹くらいしか入っていないけど、このリーフ上のそこかしこでヒメスズメダイたちが同じような動きをしているものだから、なんだかお祭り騒ぎのようににぎやかになっていた。

 垂直上昇する前後には、逆立ち状態になってプルプル震えたりもしていた彼ら、この様子はどうみてもメスに対するアピール泳ぎ、いわば求愛ダンスに違いない。

 でもアピールしているらしきオスが、その気になったメスを伴って産卵床に…という動きがこのあとに続かない。

 はて、どうしているんだろう…?

 憑りつかれたようにずっと観ていたところ、メスを連れ込みはしないものの、逆Uの字スイミングの合間合間に、岩肌に穿たれている穴に入り込んではまた出てくるという動きを繰り返していた。

 そして時々その穴に別のもう1匹が入っては、瞬時に出てきたりもする。

 いったい穴の中で何がおこなわれているのか、観られないから詳細は不明ながら、おそらくそこに産み付けられている卵をオスがケアしている、そしてたまにメスが産卵している…ということなのかな?

 ちゃんとケアしているからだろう、一度巣穴に入ると、1分近く出てこない(↓この動画でも冒頭に穴に入ったあとなかなか出てきませんので、その間傍らにいるヒナギンポをご覧ください…眼しか動かないけど)。

 ヒメスズメダイもけっこう付き合いが長いというのに、ダンスといい岩穴へ入り込む様子といい、このような動きを見せるだなんてことはまったく知らなかったなぁ。

 世間ではとっくの昔に認識されている行動なのだろうか?