全長 25cm
フツーに見られる、とりたてて小さくも大きくもない、際立った体色ではない、特徴的な行動をするわけでもない…という、まっとうな一般ダイバーにスルーされる要素をこれでもかというくらい数多く持っているヒメタマガシラ。
もちろん一般ダイバーにおけるその名の認知度は、限りなく低い。
普段はたいてい単独もしくは付近に数匹一緒にいるくらいで、水納島のように海底の砂が白いと、ただでさえ特徴のない体色はかなり白っぽくなってしまう。
シブイ脇役的にわりと存在感を発揮する近縁のフタスジタマガシラに比べると、ヒメタマガシラはたとえ数匹そこにいたとしても、ほとんどのダイバーの目の端にすら入っていないかもしれない。
時代劇に例えていうなら、表の通りを横切っていく商人風の通行人A、といったところだ。
そんな彼らが、なぜだかやたらと集まっていたことがあった。
10月のことだ。
画面の外にはもっといて、総勢20匹くらいだったろうか。
群れというほど密集しているわけではないものの、たいてい単独でいる魚がこのように集まっていると不思議な感じがした。
その後4月にはフタスジタマガシラも同じような感じで8匹くらいが一カ所に集まっているのを観たことがある。
ひょっとして、繁殖期に観られる行動なのかも。
ヒメタマガシラがどのような産卵行動をするのかまったく知らないけれど、彼らの幼魚にはチラホラ出会える。
野辺に咲く名も無き小さな花なみの可憐な味わいを醸し出すチビターレ。
恥ずかしながら、夏にチラホラ見かけるようになるこのチビターレ、いったい誰のチビなのか、長い間ナゾだった。
今もなお100パーセントの自信があるわけではないので、間違ってたらそっと教えてください…。
このチビターレが観られる場所で、もう少し成長したチビにも会える。
体側を走るこの1本の黒い線がどうやらヒメタマガシラのアイデンティティのようなんだけど、オトナになるとなぜだか薄〜くなってしまう。
フタスジタマガシラ同様、海底の砂ごとボイッと口に含んでは、ワラワラワラ…と砂を吐き出す様子は面白いといえば面白い。
エキストラの通行人Aも、気にし始めたらいつも通りを歩いていることに気づくはず。
しかしだからといって通行人A観たさに水戸黄門を見ていたヒトなどいないのと一緒で、こういった魚にわざわざ注目してじっくりお近づきになる方は、それはそれでやはり変態社会の方ということなのだろうなぁ、きっと……。
※追記(2020年7月)
その後も通行人Aを見かけるたびにチラ見程度に気にかけていたところ、彼らが体側のラインを薄くしているのは砂底の上にいるときで、根の周辺に来ると……
凛々しくもクッキリバシッと黒い帯を出していた。
なんだか「濃いの出たッ!」とレモンサワーの新しい商品を宣伝している眉毛濃いバージョンの梅沢富美男のような雰囲気を醸し出しているヒメタマガシラだった。