水納島の魚たち

ヒレナガスズメダイ

全長 6cm(写真は2cmほどの幼魚)

 このヒレナガスズメダイも、クロスズメダイと同じくその昔はオトナと子供でそれぞれ別の魚だと考えられていた。

 なので昔々の図鑑には、上の写真の幼魚は「フタオビスズメダイ」という名で載っている。

 別々の魚と思われていたくらいだから、オトナになると色柄はガラリと変わる。

 熱烈タイガースファンのように見えなくもない可憐な子供が、オトナになるとこうなる。

 オトナの体色には個体差があって、もっと黒っぽいモノもいる。

 ヒレの先に黄色が残っていればまだしも、全身が黒ずんでしまうと、幼魚時代の面影はほとんど残っていない。

 この両者が実は同じ種類であるということを皆が知ることになったのは、やはり↓こういう段階の若魚のおかげだ。

 もう少し成長した段階になると、↓こんな感じ。

 そしてかろうじて残っていた「フタ帯」の名残りは、やがて消えていく。

 たしかにこの変遷を見れば、タイガースボーイとオトナが同じ種類であることがわかる。

 すでに30年前からこれらのことが周知の事実だったヒレナガスズメダイに限らず、どれほど劇的にオトナと子供で体色が変わろうとも、今や数多ある図鑑を見れば一目瞭然、当たり前のこととして誰もが知っている。

 とはいえそのために、誰も知らなかった事実を初めて知るというヨロコビを、我々はなかなか味わうことができなくなっている、ともいえる。

 フタオビスズメダイが実はヒレナガスズメダイの幼魚だったなんてことが初めて明らかになったときは、どれほど衝撃的だったろう…。

 どんな世界でも、「オドロキを味わえる度」でいうなら、黎明期のほうがよっぽど魅力に富んでいる気がする。

 さて、ヒレナガスズメダイは幼魚もオトナも同じようなところに住んでいて、どちらもほぼ単独で生活している。

 縄張りを持って生活しているようながら、体が小さい分、縄張りもそれほど広くはない。

 なのでリーフの岩壁づたいに泳げば、ポツン、ポツン、と次々に彼らを見ることができる。

 クロスズメダイと違って「中間段階」に出会う機会もけっこう多いし、たとえ中間段階がいなくとも、幼魚のそばにオトナがいてくれると、その両者が同じ種類の魚だとはまだご存知ではないゲストに、「オドロキのジジツ」をその場で説明できるからありがたい。

 冬を越してまだ幼魚模様のまま春を迎える前年のチビがいる一方、毎年梅雨時になると、1cmそこそこのチビターレがそこかしこに出現し始める。

 それはそれは小さな小さなヒレナガスズメダイ(といいながらどこのヒレも長くない)チビターレが、早くも健気にタイガースファンになっている。

 こんなに可憐な野球少年も、これからひと月ほどもすると、いつのまにやら、甲子園球場から帰ってくる阪神電車車内で観られるような、 迷惑な 立派な 阪神ファンになっているのであった。