水納島の魚たち

ホシススキベラ

全長 15cm

 ホクトベラの仲間たちのなかで最も数多く観られるのは、水納島の場合断トツでこのホシススキベラだ。

 隠れ家としてサンゴの枝間への依存度が高い幼魚の頃は、リーフエッジ付近で複数集まっていることも多い。

 そういった場所には同じようにサンゴの枝間を頼る他のベラのチビたちもいるので、そこかしこにチビチビのベラの幼魚たちがベラベラしているから、ホシススキベラのチビターレは、同じ仲間のホクトベラの幼魚と連れ立っていることもある。

 ホクトベラのチビが白い点々模様なのに対し、ホシススキベラのチビは…

 ルリホシスズメダイのような、美しく輝くブルースポット。

 3cmくらいあってこれくらいの色になっていたら、クラシカルアイでもひと目でホシススキベラだとわかる。

 しかしこれよりもう少し小さいと……

 色味にメリハリが無くなる。

 写真で実物以上に大きなサイズで見ればホシススキベラのチビターレだとわかるけど、これくらいのチビターレが複数集まってサンゴの枝間をスルスル泳いでいる様子をクラシカルアイで見ると、あのサンゴの枝間のプリティチビターレに見えてしまう。

 そう、テングカワハギのチビターレ。

 夏場、そろそろテングカワハギのチビターレが出てきそうな頃に、その年初のテングカワハギチビターレの姿を求めてサンゴの枝間を覗いている際、何度「おッ!?」と思わされたことか…。

 静止画像で観れば両者の違いは明らかではあるけれど、サンゴの枝間にいる小さな幼魚なんていったら、クラシカルなゲストの目には、どっちも同じに見えているかもしれない…。

 テングカワハギと紛らわしいのは2cm前後のチビターレで、それよりさらに小さい頃からホシススキベラの変遷をたどってみると…

 肉眼で認識可能なミニマムサイズ(1cm弱)の激チビターレは、フラフラ漂う海藻の切れ端のような淡く薄い透明感漂う色味でしかない。

 1cmを越える頃には、体に点々模様が出ている。

 その背ビレの白い部分の入り方あたりを見ると、ミニマム激チビサイズの名残りが見受けられる。

 この背ビレの激チビ名残りは、ほどなく見られなくなる。

 15mmを越えたくらいからの体色の変遷には個体差があるようで、どれくらいの大きさだからこういう色と決まっているわけではないものの、いずれにせよオトナへの階段をのぼっているわけだから、色味が変わっていく方向は同じだ。

 初夏ともなると、サンゴの枝間を覗けば成長段階がそれぞれ異なるホシススキベラチビターレがそこかしこにいるから、ひと目で成長記録を追うことができる。

 チビの頃に顕著な輝くブルースポットは、サンゴの枝間で暮らしている間までのようで、その後成長してサンゴの庇護から離れて暮らし始めるにつれて目立たなくなっていく。

 ↑これは10cm弱くらいのメス。

 チビの頃にはややスター性を秘めた色柄だったのに、ビミョーに地味なベラになる。

 これくらいのメスが周辺に複数いる海底付近には、ひとまわりほど大きな個体がいて、それがオスらしい。

 メスと大差ない色柄ながら、矢印の先の部分にある赤緑黒の小さな模様が、オスの印なのだそうだ。

 上の写真の子はまだメスと変わらぬサイズだったから、ひょっとすると立場上「オス」になったばかりのメスなのかもしれないけれど、もっと育って立派になると…

 オス印はクッキリハッキリ、顔の周りの模様も随分ベラベラしてくる。

 ただ、ブルースポットは成長とともに消えていくのかと思いきや、↑このオスはやたらとハッキリしている。

 個体差なのか、その時その時の感情で変わるのか、このオスを追跡したことがないのでわからないけど、これが常態なのなら、けっこうきれいじゃん、ホシススキベラ。

 もっとも、海底付近でエサを物色しつつ、のんびりと縄張り内を泳いでいる彼らは、わりと多数いるにもかかわらず、注目されることはほとんどない。

 おかげで今日も、呑気にアクビをしていられるのだった。

 追記(2021年7月)

 水温が上昇する気配など微塵もない3月半ばのこと、ホシススキベラたちが集団を作っていた。

 ホクトベラの仲間たちは、チビターレの頃こそ複数が集まっていることがちょくちょくあるけれど、オトナになるとめいめいが好き勝手にそこらで食事している、というイメージなので、このようにオトナのホシススキベラが集まっていると「ん?」となる。

 上の写真だけだとたまたまこのサンゴの上に集まっただけに見えるけれど、彼らはこうしてときどきエサをついばみつつ、何か目的を持っている集団のように行動していたのだ。

 メンバーには大小あれど、どうやら全員メスらしい。

 ベラやブダイの仲間たちがこのような行動をするといえば、それは産卵前のイベント。

 実際、集まっていた1匹1匹のメスたちを観てみると……

 ポッコリ膨らんでいるお腹、これは卵に違いない。

 この時は産卵に至るまで観たわけではないから、ホントにこのあと産卵したかどうかは不明ながら、GW頃になるとチビターレがそこかしこに出没し始めることを考えあわせれば、ホシススキベラたちは寒い寒いこの季節から熱い産卵ショーを繰り広げているのだろう。

 ベラやブダイの仲間たちは人目もはばからず日中に産卵する種類が多いのだけど、ホクトベラの仲間たちの産卵はこれまで観たことがない。

 慎ましく上品に夕暮れ時を選んでいるのだろうか?