全長 35cm
オオスジヒメジほどではないけれど、ホウライヒメジはけっこうでっかくなるオジサンの仲間だ。
けっして珍しいわけではない。
が、かといってそこらじゅうで泳いでいるわけでもなく、ましてや水納島では群れていることはまずないから、観たいと思ったからといってすぐさま観られる魚ではない。
ま、「観たい」という奇特な方がいるとも思えないけど、リーフ際や砂地の根で、激しく餌を探すわけでもなく、忙しそうに泳ぎ回るわけでもなく、ときおり1〜2匹がのんびりしているホウライヒメジ。
リーフ際にいるものは体の色を濃くしているから、光を当てると冒頭の写真のように本当は赤みがかっているのに、肉眼だと赤色が目立たない色になるため、背後が岩だと彼らの存在が際立たない(それが彼らの意図するところだからしょうがない)。
一方、砂地の根に立ち寄っているものは、白い砂地で浮いてしまわないようにとの配慮なのか、色味を薄れさせている。
薄れてはいるものの、そのままのんびり中層を泳いでいるときは、背後のブルーによく映える。
ところで、地中海世界のグルメ業界では、ヒメジ類はけっこうな高級魚として認識されているそうで、オサレーなフレンチでは、「ルージェ」と呼ばれるヒメジの仲間は魚料理の定番なんだとか。
日本にはさすがに本場のルージェそのものの種類はいないから、国内のフレンチではその代替品として、各種ヒメジ類が使われているという。
とりわけこのホウライヒメジは大きさといい美味しさといい、かなり重宝されているそうだ。
その昔、機関長が差し入れてくれることがあったヒメジ類(おそらくオオスジヒメジ)の刺身を皮つきでいただいたら、「オジサンの仲間」と呼ぶのが失礼かも…と思ってしまうくらいにたしかに美味しかった。
刺身の美味さもさることながら、フレンチでもてはやされるくらいなのだから、ポワレにでもしてみればワインが進むこと請け合い。
いかんいかん、海中で彼らを観る目が変わってしまいそう……。
※追記(2024年6月)
一昨年(2022年)の春にはリーフ内の浅場探訪にハマっていた。
普段のボートダイビングではまず会えない魚たちがたくさんいるものだから、水深1mほどの世界はむしろ未知の世界で、それまで会ったことがなかった様々な魚たちとの遭遇が待っていた。
ホウライヒメジのチビターレたちもそのひとつ。
本文中でも触れているようにホウライヒメジの個体数は少なく、オトナが3匹以上でいるのを観たことがないけれど、3cmにも満たないチビターレたちはたくさんで群れ泳いでいた。
ホウライヒメジのチビターレ自体が人生初だというのに、いきなりまとめて10匹くらいに出会えてしまった。
ただしその様子はなんだかベラの幼魚たちのようだから、「ベラはベラ」な方ならそのままスルーするかもしれない。
よく観れば、もちろんチビターレにだってちゃんとヒゲがあることがわかる。
彼らがいたのはワタシが入り込めるくらいの大きめのタイドプールとはいえ、言ってみれば水溜まりのような場所。
こういう環境が好みなのなら、そりゃリーフの外では会えないはずだわ…。
ホウライヒメジにかぎらず、幼少時には海岸付近の浅いところで暮らす魚たちの場合、自然海岸が加速度的にどんどん失われていく本島では、相当暮らしにくくなっているであろうことは想像に難くない。
いささか乱暴な言い方をすると、そのような環境が失われていく「許可」を与えているのは漁業権をお持ちのみなさん方で、お金と引き換えに魚たちのゆりかごを壊滅させていく一方で、一般人がアーサを採るのは水産資源保護のためにダメ、密漁禁止!とかいうのだからバカバカしいったらない。
ま、こんなところでクダをまいたところで何がどうなるものでもないのだけれど、気がついた頃にはもっと多くの魚たちが暮らしの場を追われ、姿を消していることだろう。
ホウライヒメジのチビターレ、会えるうちに会っておいてください。