水納島の魚たち

イナセギンポ

全長 8cm

 イナセギンポは、同じくリーフ際で観られるオウゴンニジギンポに擬態しているという。

 擬態モデルのオウゴンニジギンポはこんな魚。

オウゴンニジギンポ

 たしかにそっくりだ。

 オウゴンニジギンポの牙には毒があるため、敵に襲われることがほとんどないらしく、そのまねをしていれば敵に襲われにくいということらしい。

 なかなか魚の世界もうまくできていて、擬態モデルのオウゴンニジギンポは、所変われば種類がマイナーチェンジし、体色が日本で観られるものとはまったく異なる色になる。

 するとその海域にいるイナセギンポの仲間もまた、その地のオウゴンニジギンポの仲間の体色にそっくりになっているのだ。

 その昔モルディブに行った時に、両者に注目して撮ってみたのがこれ。

 上がモルディブ版オウゴンニジギンポで、下が同じくモルディブ版イナセギンポ。

 イナセギンポのものまね芸は、ワールドワイドなのである。

 そっくりぶりは、初夏になると目立つようになる子供の頃から始まっている。

 ちなみにオウゴンニジギンポのチビターレは…

 やはりそっくり。

 それだけでさえ襲われにくいのに、イナセギンポはそのうえ巣穴に入ってあたりの様子をうかがう、という念の入れようだ。

 巣穴に入った後は、顔だけ出している。

 この巣穴に入っているイナセギンポ、鼻面に白線が浮かんでいる。

 面白いことに、この線は遊泳中は痕跡を残す程度になる。

 さらに接近。

 オウゴンニジギンポにはこのような線がないから、泳いでいる時に白線があると、擬態上都合が悪いのだろう。

 ただ、もっと成長したイナセギンポは、そのへんがテキトーになってくるのか、擬態だけではない防御作戦があるのか、単に年をとって反応が鈍くなっているのか、わりと白い線を残したまま泳いでいる子もいる。

 それでもやはり、穴に入っている時に比べればまったく目立たない。

 これほどセキュリティ対策がしっかりしていれば、体に傷ひとつつかない人生を送っている……

 …かというと、そうでもない。

 オトナのイナセギンポを観ていると、ヒレが傷んでいる子がけっこう多いことに気づく季節がある。

 これらの写真はそれぞれ年度は違えど、どれも4月に撮影したもの。

 このテのギンポは春先に繁殖期を迎えるものが多く、初夏頃にチビターレが目立つようになるイナセギンポも、おそらく同様と思われる。

 繁殖期にはメスをめぐっての戦いがオス同士で繰り広げられているであろうことは想像に難くなく、このヒレの傷みはオス同士のバトルの結果に違いない。

 途中で追記(2024年2月)

 2024年の年明け早々、冬の真っ只中に、そんなバトルシーンに遭遇した。

 他の魚から身を守る術はパーフェクトでも、恋のバトルでは攻撃あるのみ。

 この激しさでは、背ビレが傷むのも無理はないのだった。

 追記(2023年10月)

 本文中では触れていなかったけれど、イナセギンポもまた、他の魚のヒレやウロコを齧り取るという食生活を送っている。

 巣穴から顔を出しているときは、ニコニコと微笑みを浮かべているかのようにさえ見えるというのに、ひとたび穴から出ると、けっこう悪さをしているのだ(それが彼らの生きる道だから仕方ないんだけど…)。

 その様子がよくわかる動画が撮れた。

 サンゴの陰で休憩してるアヤコショウダイの背後からスルスル…と忍び寄り、素早くアタック!

 もう一度アタック!

 さらにアタック!

 アヤコショウダイが怒らないのをいいことに、調子に乗って3連発をくらわせるイナセギンポなのだった。

 この時のアヤコショウダイは、そばからカメラを向けているワタシを警戒して意識を集中しているため、イナセギンポに対して怒らなかったのだと思われます。