全長 10cm
ニジギンポの仲間は、その可愛い顔とは裏腹にけっこうスルドイ牙を持っており、その牙には毒を有しているらしい。
それにあやかり、オウゴンニジギンポのフリをすることによって身を守っているのがイナセギンポである、ということはイナセギンポの稿で触れた。
それにしてもオウゴンニジギンポ、いったいどこが黄金なのだろうか。
たしかに背ビレや体後半の黄色は印象的ではあるけれど、それで黄金と言われても…。
実は、フィジーあたりにいるこのオウゴンニジギンポの仲間は全身が真黄色で、それこそ黄金の名にふさわしい体色をしているのだ。
カナリーブレニーというインボイスネームで、海水魚ショップでよく売られている。
この色だったら、たしかに黄金かも。
ちなみに、カナリーブレニーがいるフィジーの海にいるイナセギンポの仲間もまた、黄金色なのであった。
魚たちの世界ってスゴイ…………。
牙に毒があるからこそ、世界の海でイナセギンポの擬態モデルになっているオウゴンニジギンポ(とその亜種たち)だから、他の魚たちに襲われることはほとんどないらしい。
でも、魚には襲われずとも、こういう攻撃には自慢の牙も役に立たないようだ。
「目に寄生虫が付いちゃいましてね、ええ…。」
オウゴンニジギンポたちは、リーフ際でヒラヒラパッパと泳いでいる姿を見かける。
普段はたいてい単独もしくは近くにお仲間がいる程度なのに、なぜだか春になると群れ集うようになる。
集まっている彼らの性別まではわからないものの、中にはヒレを広げてアピールしているっぽい子もいるし、その後若夏頃になるとチビターレの姿が目立ち始まるから、きっと繁殖にまつわる集まりなのだろう。
集団見合いでもしているのだろうか。
初夏から目立つようになるチビターレはかなりカワイイ。
チビターレの可愛さといい、集団でお見合いしている穏やかさといい、きっとオウゴンニジギンポの世界には争いなんて無いに違いない……
…と思いきや。
もう少し水温が温かくなると、戦いのゴングが打ち鳴らされるらしい。
おそらくはメスをめぐっての争いなのだろう、オス同士が出会うと、最初から喧嘩腰だ。
互いに体側を誇示し合い、まずはサイズで優劣を競うオウゴンニジギンポのオスたち。
しかしそれであっさり決着がつかなければ、本格的バトルに発展する。
互いに相手の隙をうかがうマナザシは、いたって真剣そのもの。
このあと一撃二撃の攻防で決着がつくこともあれば、白旗を揚げている相手をしつこく追い詰めることもある。
これは顔のすぐ下にある穴に逃げ帰ろうとしている敗者の姿。
尾ビレ付け根よりやや腹側にある傷跡からも、彼が戦いの果てに敗れた者であることがわかる。
決闘に敗れ、巣穴に逃げ込む敗者。
すると、ほうほうのていで巣穴に逃げ帰った敗者の背後から、忍び寄る黒い影……
先ほど勝利を納めたオスが、しつこく敗者を追いかけてきたのだ。
そして敗者の巣穴にやってきた勝者は、巣穴の前で勝利のポーズ…
…かどうかはわからないけど、巣穴の中から恐る恐る外を見ている敗者(チラリと頭が見えてます)を、かなりしつこくいじめていた勝者である。
2分ほど経過するとようやくほとぼりが冷め、勝者の姿は付近に見えなくなった。
すると、恐る恐る穴から出てくる敗者。
はたして彼に、勝利の栄光が輝く日は来るのか。
それにしても、このオス同士のケンカっぷりを観ていると、春先から観られる彼らの集団って、いったいなんなんだろう?とますます不思議になる。
その年の恋バトルに参加する力士たちの、顔見せ的意味合いの土俵入りとか??
※追記(2019年5月)
GWの真っただ中のこと。
リーフ際まで戻ってきてから、いつものようにフリータイムにしたあと、リーフエッジ付近の浅いところで過ごしていると、オウゴンニジギンポがアヤシゲな動きをしていることに気がついた。
普段の暮らしではそうそう巣穴に出入りしないオウゴンニジギンポなのに、巣穴に入っては出て、入っては出てを繰り返していたのだ。
この季節のギンポとなれば、きっとそーゆーことに違いないと思い、オウゴンニジギンポが巣穴を出ている隙に中を覗いてみると……
やっぱり♪
オウゴンニジギンポの卵!!
周辺にはすでにハッチアウトしたのだろうか、殻だけになっている卵も見受けられる。
キラキラお目目の彼らも、もう間もなく孵化するのだろう。
※さらに追記(2020年4月)
昨年(2019年)末にも、オウゴンニジギンポのバトルシーンに遭遇した。
ただ、水温が低くなり、繁殖期にはまだ遠い季節ということもあるためか、このように体を誇示しあったりを繰り返すばかりで、 牙を剥き出して攻撃するシーンは1、2度だけで終了した。
面白いのは睨み合っているように見えるとき。
ジッと睨み合うのではなく、体を細かくくねらせ、左右の眼で交互に相手を確かめあっているようなのだ。
でも梅雨時に観られるような牙を剥き出しての激しいケンカはなく、まるで儀式のような、剣道いうなら「形」のような様式にさえ見えた。
来たる本番に向けて互いに演習しているのだろうか。
春先に観るオトナのオスに比べると、尾ビレ上下端のヒレ先が短いような気もする。
若気の至りゆえの出会い頭のストリートファイトなのかもしれない。
※追記(2023年10月)
毎年梅雨頃になると、オウゴンニジギンポのチビターレがそこかしこでチラホラし始める。
今年はその数がやたらと多かった。
2cmほどのチビターレといえば、たいてい単独、もしくはせいぜい近くにもう1匹いるくらいが常なのに、今年はなんとチビターレの頃から集団になっていることもあったほど。
たまたま彼らがこの場で鉢合わせたというわけではなさそうで、他の場所でもそれぞれ4匹、3匹のグループが観られた。
オウゴンニジギンポの幼魚たちは、本来こういう暮らしをしているものがやむなく単独で暮らしているのか、それとも今年はやたらと数が多いために異例の事態となっているのか、どっちなんだろう?
真相は不明ながら、チビターレも集団になることがある、ということを初めて知ったのだった。