水納島の魚たち

カマスベラ

全長 30cm(写真は20cmくらいの若魚)

 ブダイのようなベラがブダイベラなら、カマスのようなベラはカマスベラ。

 そしてブダイベラが1属1種で他に近縁の仲間がいない孤高の存在であるように、このカマスベラもカマスベラ属にただ1種のみ。

 他に類を見ない特異な存在なのである。

 浅いところを好むベラなので、水納島ではフツーにボートダイビングをするような水深で出会う機会はまずなく、せいぜいリーフ上で1〜2匹観られる程度でしかない。

 繁殖期なのか、夏場にはときおりアヤシげな動きをしている30cmくらいのオトナをリーフ上で見かけることもあるけれど、リーフの外よりはリーフ内のほうが圧倒的に出会う機会は多い。

 冒頭の写真のような真っ黄っ黄のキレンジャーがノーマルカラーというわけではなく、基本色は何色とひと口で表しづらい地味な色で、藻場環境を好むからか、もっと緑がかっているものもいる。

 藻の合間を縫うようにしてスルスルスル…と通り抜ける様子は魚というよりヘビっぽくもある。

 また、冒頭の写真でヒレを全開にしているのはたまたまで、普段はもっぱらヒレを閉じているから、ますます細長く見える。

 この細長い体でスルスルスル…と低空飛行で泳ぎ渡りつつ、ときおり何かをロックオンしては食事をしているようだ。

 ↑これくらいの若魚や30cmクラスのオトナには会えても、チビターレにはいまだ出会ったことがない。

 どうやらカマスベラ・チビターレは、浅い藻場が大好きらしい。

 そういえばまだ海水浴エリアや桟橋周辺に藻場がたくさんあった頃は、ビーチで潜るとカマスベラにもちょくちょく会えたような気がする。

 水納島のインリーフの藻場がかなり減ってしまった今でも、ビーチで潜ればカマスベラに会えるんだろうか…。

 緑色のチビチビ、観てみたいなぁ…。

 追記(2023年11月)

 今年(2023年)、水温が1年で最もチベタイ2月に、ビーチも桟橋もヒトッコヒトリーヌなのをいいことに桟橋脇に潜ってサンゴ群落を徘徊していたところ、サンゴの枝間で5cmほどのカマスベラのチビと遭遇した。

 本文中でも述べているように、もともとビーチエリアではカマスベラとの遭遇率は高かったのだけど、こんなに小さなものは初めてだ。

 ただ、藻場が広がっているわけではないから残念ながら緑色ではなく、スタンダードカラーのチビターレだったため、人生最小級というヨロコビには満たされなかった。

 チビターレも細長い体を活かしてスルスルと巧みにサンゴの枝間を泳ぎ、なおかつ細長い体をクネッと曲げて方向転換も素早い。

 チベタイ海の中、そろそろ上がりたいと体が訴えかけているというのに、スルスルチビターレのせいでただ全身を撮るためだけでけっこう苦労させられたのだった。

 追記(2024年11月)

 今夏(2024年)は夏の水温が高過ぎたからだろうか、10月後半になってもリーフエッジ付近では各種ベラたちが盛んに産卵シーンを見せてくれていた。

 そんなかには、カマスベラの姿も。

 普段のカマスベラたちはリーフ内くらいの浅いところをもっぱらの生活圏にしているっぽいんだけど、産卵の際にはリーフエッジまで出向いてくるらしい。

 この日訪れていたポイントはカマスベラが暮らしているところからすぐのリーフエッジだからなのだろうか、この日は何匹もの黄色いカマスベラの姿が。

 この時の他のベラ類のフィーバーぶりからして、カマスベラたちもやはり産卵のために集まってきているのだろう。

 でも、いったいどれがオスなんだろう…?

 …と眺めていたところ、オスはまったく様相を異にしていた。

 黄色いカマスベラよりも遥かにでかく、そしてくすんだ体色の胸(?)のあたりに白い模様が浮き出ている。

 これは興奮モードなのだろうか。

 なぜこれがオスだとわかったかというと、産卵シーンを実際に観ることができたから。

 メスたちはクギベラのメスのように一か所に集まるわけではなく、見える範囲に1匹ずつ泳いでいて、オスがメスのもとに駆けつけては産卵を促す泳ぎ方を見せ、ペア産卵に至っていた。

 どうやら黄色い個体はみなメスのようだ。

 リーフエッジ付近でたま〜に会うカマスベラのオトナは、圧倒的に黄色い個体が多いと思っていたのだけれど、それはすなわちメス色だからってことだったのかも。

 もっとも、カマスベラには暮らしの場の環境に合わせた様々な体色のバリエーションがあるそうで、これはあくまでも水納島におけるこの場所のカマスベラに限っての話と思われる。

 せっかく産卵シーンを見せてくれたというのに、ノーマークだったこともあって、何度か繰り返してくれた産卵シーンは観るだけで終わってしまった。

 それでもこれまで認識したことがなかったカマスベラのオスメスがわかり、しかも初めてオスの姿を記録することができただけでも、収穫といえば収穫。

 リーフ内がもっぱらの暮らしの場だからだろうか、水納島の場合、インリーフが広い側のリーフエッジ付近ではちょくちょく観る機会があっても、インリーフが狭い側、すなわち港から東側のリーフエッジでは出会う機会はほとんどないカマスベラ。

 カマスベラの産卵を観るなら、こっち側のリーフエッジが吉…ってことのようだ。

 オスメスの区別はつくようになったし、産卵前の様子はわかったから、次回のチャンスは逃すまじ。