全長 8cm
ひと昔前までは…いや、前世紀のことだからふた昔前までは、フウライウオとカミソリウオ、それにノコギリフウライウオという、どう観ても見分けがつかない3種類のそっくりさんがいて、どうやって見分けるんだよぉ、と嘆いたものだった。
ところが90年代半ばになって瀬能さんが一念発起され、I.O.P.NEWS誌上にて「混乱しているカミソリウオ類の和名の整理」が行われた。
その際、それまではフウライウオの変異個体扱いだったゴーストパイプフィッシュは別種とされ、ニシキフウライウオという立派な和名がつけられた。
一方、フウライウオという長年親しまれていた名前の魚はこの世から消え去り、これまで区別がつかずに悩んでいた魚は、ノコギリフウライウオも含めてすべてカミソリウオである、ということになった。
重箱の隅をつつくような精査によってどんどん種類分けが進んでいく傾向にあるなか、
これ全部同じ種類!!
と結論付けてくれたことはまことにありがたい。
ちなみに、ヘコアユの稿でも触れているように、ヘラヤガラとカミソリウオが同じトゲウオ目というグループだなんて、にわかには信じがたい。
でもその顔を観ると納得できる。
大小の差こそあれ、出自が同じであることは間違いなさそう。
さて、カミソリウオ。
ニシキフウライウオがそのカモフラージュ機能を活かしてウミシダやその他宿主に寄り添って暮らしているのに対し、このカミソリウオは無造作に海底付近でフラフラしていることもある。
何をせずとも枯草・枯藻のように見えるから、何かに寄り添っている必要が無いのだろう。
ちなみに手前の枯草のようなもの、どっちが魚かわかりますか??
はい、そのとおり、どっちも魚です(笑)。
このように茫漠たる砂底の上にいてくれれば、ワタシのようなフシアナマナコでもその存在に気づくことはできる。
でも彼らだって自分たちの特徴を自覚しているから、ときにはこういうこともある。
さてカミソリウオ、どこに何匹いるでしょう?
このような木っ端枯葉枯草枯藻が根の片隅に溜まるのは、台風など時化と大雨が続いた後に多い。
こういった天然老廃物が溜まっているところから、カミソリウオはそれらごと流されてくるのだろうか。
秋くらいになると、どこかで1組のペアを見つけると、ここでもあそこでも…と発見が相次ぐことがよくあるのも、そういうことが理由なのかも。
もっとも、近年のように台風があまりにも多すぎると「うまい具合い」を通り越してしまうのか、昨年(2019年)などはシーズン中にまったく出会わなかった(シーズンオフになった途端に出現したのが冒頭の写真のペア)。
たとえチラホラ姿を見かけることがある年でも、ニシキフウライウオのようにそこに根付いて(?)いる生物に寄り添うのではなく、カミソリウオはあくまでも流れに身を任せる枯草カモフラージュ仕様のため、なかなか同じ場所に居続けてくれない。
その点、時間制限が無きに等しいビーチで広範囲を徘徊すると、カミソリウオに出会う可能性は高い。
ただしシーズンオフになったばかりくらいの季節にビーチで出会うカミソリウオは、ペアともに、特にオスのサイズがでっかくなっている気がする。
この写真では、下側に位置しているのがオス。
まぁ、我々がビーチ内で潜る頻度は低いので、サンプル数は極小だけど…。
ところで、一口に「枯葉のよう」といっても、細かく見るとその色柄には微妙にバリエーションがある。
全身ほぼ枯葉色、枯れて千切れたばかりの海藻のような色のものもいれば…
枯れて千切れてから時間が経ったかのような色になっていることもある。
カミソリウオの「枯れて千切れてから時間が経った感」演出の芸は細かく、さらに腐敗が進んだり石灰藻がたくさんついた枯藻状態の色になっているものまでいる。
ホントに藻が体表に生えているカサゴやオコゼ類とは違い、カミソリウオの場合はあくまでも体色によるカモフラージュで、ホントの藻ではない。
水納島ではこのような枯藻色のものばかりだけど、場所によってはカラフルなウミシダに合わせて赤や黄色になっているカミソリウオも見られるらしい。
おそらく環境に合わせ、濃淡も含めて自在に体色を変化させられるのだろう。
体色を変化させるのにどれくらい時間がかかるかは不明ながら、腐敗が進みまくっている枯れ藻に見える色味の子も、千切れたばかりの枯れ藻だらけの場所にずっといれば、きっと茶色一色になる……
……はず。